第八話! 薄れた闘志の炎は簡単には消えん! 闘志を分け合えば、再び炎は不死鳥の如く燃え上がる!

 同日 午後12時58分 和光市民病院 


 やはりまだ、この町には慣れないな・・・ スマホ片手に地図を見ながらここまで来るのに何回当たりそうになったか。「歩きスマホはやめなさい」ってチャリンコに乗ったに注意されたけど、俺みたいなよそ者にはもう少し多めに見てほしいもんだ。


 ともあれ、受付のナース看護師に言ったら少しソファーで待ってくれとのこと。伊達に市民病院と名が付くことだけはある、かなり広く綺麗で清潔感のマイナスイオンが充満してある所だ。地元じゃ車で20分もかかる場所なのに、ここじゃ徒歩圏内で通える位置にあるのはかなり魅力的だ。


 そのせいか老人や子連れに紛れて制服を着た利用者が多い。顔に痣や流血した奴や包帯や松葉杖をした不良どもがいる。現に俺前にいるスケバン女子高生もその一人だろう、首元に何か赤い染みが見える。


 「松野さん~ 松野たけしさん~」


 「はーい・・・」隣に座っていた爺さんが呼ばれて席が空いた。しかしそれを待っていたと言わんばかりに前に座っていたスケバンが足早に横の空いていた席に座り込んできた。


 「あの。カモ高、じゃなくて第二高の生徒ですよね」お前さっきまでずっとスマホポチポチしてただろ、後ろにも目付いてるのかよ。


 「うち、じゃなくてあたし西高の渡辺美保です。よかったら番号交換してください!」西高、てことは聖ローゼンの生徒か。話しかけてきた彼女は、短髪の黒髪に日焼けした肌。スカートの下に黒のハーフスパッツにサブソニックの黄色のスポーツシューズを履いている。少年みたいな風貌。これだけ見ればスポーティな子に見える、制服と靴に付いた乾いた返り血がなければ。


 「すみません。初対面で知らない人に教えないようにしてるんです」


 「な?! す・・・すみません。あたしみたいなに教えてくれるわけないですもんね・・・」断ると体操座りで脚に顔をうずめこんで酷く落ち込む。


 「いや、そんなつもりじゃ・・・」なんか断った俺が悪いみたいになってる・・・仕方ない、「実は手順知らなくて・・・」はや! スマホ出した瞬間取られた。


 「もう~じれったいな、恥ずかしがらずに素直に最初に言えばいいのに・・・ハイオッケー! これでとリクトモ!」息を吹き返したように立ち直り、指をしなやかに弄って変なあだ名まで付けられて返ってきた。


 「所でケンケンは誰にやられたん? あたしが代わりにぶっ飛ばしてあげるよ! まだ2年だけど、時期リーダー候補の一人なんよ!」


 「いや、自分は同級生のお見舞いに来ただけです」西高のリーダー候補か、強そうには見えないな。「渡辺さんも後輩のお見舞いですか?」


 「いやいや、今年の1年は伸びしろの塊しかいないから入院することはまずない。さっき東高のカス不良どもシバいた時、手に食らっちゃってそれで見てもらおうかと」確かに左手の甲が青白く晴れてるが、それよりもその上の指の付け根が気になる。


 「安西さん。面会の準備が出来たので案内いたします。」


 「呼ばれたので、そろそろ行きます」


 「終わったらここで待っててよ。一緒にランチ食べようよ!」


 「えっと・・・」断るとうるさいから行くしかないか・・・「いいですよ」


 「ヤッター!」病院だぞ、周りが直視するような大声で騒ぐな!ちょっとは静かにしろ! 


 立ち上がってこの場から離れようとした時「あ、そうだ」これだけは言っておかないと「ナックルダスターじゃなくプロテクター付きのグローブを使った方がいいですよ」そう言い残しその場を去った。


 看護師に連れられ4階の病室に案内された。贅沢にも一人部屋か。


 「面会時間は10分です」


 「わかりました」ドアを引いて中に入る。


 ドラマとかでよく見る例の部屋。ベッドの横には花束と1L程のプラのピッチャーとコップが添えられていた。当の本人はベッドで眠っている、顔の傷は少し治りかけている。

 

 俺は紙袋を地面に置いて、窓のカーテンを開けた。明かりが部屋に差し込んでもビクともしない。


 次で最後だ。添えてあるコップ一杯に水を注ぎ、ピッチャーの蓋を取って中身全てを日脚の顔面にぶちまける。これで起きなきゃ、もう何も手はない。何もかも、


 「・・・・・・・・ゲホ、ゲホ、ゲホ!」ずぶ濡れの日脚の鼻が少し動いた後、咳き込みだしてゆっくり見開いた。「は、鼻に水が! いてぇ・・・奥で染みる」


 「起きたか」俺の声に反応した日脚は、驚いたように起き上がる。


 「おまえ・・・ あ! ダンボール!」ダンボールだァ? いかんいかん落ち着け俺、また次の機会だ。「なんでここにいるんだよ?! なんで濡れてんの?! 会長は? あのハゲはどうなった!」


 「いいからこれ着ろ」クローゼットにあるコイツの制服を日脚に投げる。


 「なんだよ急に次から次へと! あ、濡れる」


 「さっさと着替えて、学校に行け」


 「だからいろいろさっきから状況が掴めねぇんだよ! 説明ぐらいしろよ」


 「生徒会長と相部屋になりたいんだったら、話してやってもいいが」


 「ど、どう言う意味だよ・・・」


 「そのまんまの意味だ。嫌ならさっさと着替えて行け!」


 「い、意味がわかんねぇよ!」そそくさとズボン履き、シャツのボタンを閉めながら走って病室から出て行った。




 同日 午後1時7分 和光第二高等学校 生徒会長室 


 「会長ちゃ~ん。毎日引きこもってないで、俺たちとデートしようよ~」


 もうやめて! もう私に関わらないで!


 かれこれ30分、正門前でヤンキーが拡散機を使って私に話しかけて来る。その声は校舎全体に響き渡っている。


 「そこにいるんだろう!」


 「ドア開けろ!」


 「あの不良なんとかしてよ!」


 ドアの前では暴動のようなものも起きている。私に対処して欲しいとドアを強く叩く音が更に私を追い詰める。


 「会長ちゃん~俺たちは心配で心配でたまらないんだよ。ちょっとぐらい顔出してよ」外ではヤンキーが・・・


 「早く出てこいよ! あの不良追い払うのお前の仕事だろ!」中では生徒が・・・


 どうしよう・・・ ホントにどうしよう・・・ もう私もわかんない!


 「キャア!」生徒が耐え切れずドアを無理やり開けてしまう。


 「いたぞ! 会長をつまみ出せ!」数人の生徒が私に近づいてきて、腕を掴んで無理やり連れ出そうとしてくる。


 「いや、やめて!」


 「うるせぇ! 元はと言えば、全部会長が悪いんだろ!」私の力で数人の生徒の力に敵うはずもなく、ずるずると部屋の外に引きずり出される。生徒会室の前は想像以上の人込みでごった返している、皆一斉に口を揃えて「差し出~せ! 差し出~せ!  差し出~せ! 差し出~せ!」と連呼している。この光景は私からすれば恐怖でしかない、なんで誰も止めないの・・・ 先生はどうして止めてくれないの?・・・ その答えはすぐに出た。


 1階に降ろさて目に入ったのは私を蔑んだ目で見る先生達だった。止めてくれないんじゃない、止めないんだ・・・ 私がヤンキー彼らにに絡まれるのを見たがってるんだ・・・

 

 私は靴も履き替えさせてくれないまま正門前まで連れられ、そのまま無造作に投げ捨てられた。足音が走って遠ざかって行く。顔を挙げると、東高のヤンキーが11人正門を占拠している。


 「あらら~かわいそうな会長ちゃん。全校生徒に見捨てられた気分はどうだァ!」拡散機を持ったヤンキーが私に話しかけてきた。


 「あまりいい気分じゃないです・・・」


 「だろうなァ! ハハハ! だからこれからデートに行きましょ」彼はなんというか・・・独特な話し方をする、オネェみたいなわざとらしい口調で話せば、急に野太い声になる。体格はややごつく身長も高い。金髪のパーマヘアーで顎髭を生やし、左耳だけにピアスを付けている。


 「わ、私今そんな気分じゃ・・・」


 「おい! こっちは親切心で誘ってやってんのに、お前は無下に断るってのか、アァ?!」


 「だって・・・無理だもん」もう私に関わらないで、早くどっか行ってよ!


 「そうか・・・おい1年ども! よ~く見てれ、これから新たな時代を作る! 新井真澄あらいますみの1歩を!」大きく脚を空に挙げ、校舎の敷地に脚を降ろして来た。


 「ちょ、ちょっと!」

 

 「校則がなんだ、退学がなんだ! いいか! 俺の時代はな、そんな意味の分からんチェーンには縛られん! 自由にわがままに生きる! まずはその橋渡しとして・・・」


 「キャア! やめて、離して!」私の腕を急に引っ張って学校の外に連れ出そうとする。


 「まずは皆でデートに行きましょ」


 「離して! だから何処に連れて行くの!」


 「そうね・・・まずはエキナカのくいだおれ回転ずしに行くじゃん、そして次はイデヨカデパートで買い物でしょ、そして最後はザ・ワンカラオケで朝までエロポーズ撮影会だァ!」


 さ、撮影会! 誰がモデルに・・・「もちろんモデルはお前石浦瑛馬だァ!」


 「イヤァァァァ! それだけは・・・!」


 「だったら俺のエロポーズを撮るかい」


 「な、なんでそうなるの?」


 「モデルになるのか、カメラマンになるのかどっちかハッキリしろ!」


 「と、撮ります! とらせていただきますぅぅぅ・・・」


 「よ~し決まりだァ! 道をあけろォ!」私は今から彼らに連れまわされてエッチなポーズを撮らされるんだ・・・ 


 なすすべもなく、学校の外に連れ出されたその時だった。「新井さん! なんか物凄いスピードでこっちに向かってくる奴がいます!」


 「なんだって!」私を含めた全員が注目する。奇しくもその向かってくる人を私は何度も見ていた気がする。風で靡くうちの学校の制服。もっさりとした髪型。そして怒りが前面に出たあの顔。


 「きたねぇ手で会長に触んな! ぶっ殺してやるゴキブリどもがァ!!!」

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