第弐話! 教師歴11年の島根先生は和光第二高等学校の卒業生! 去年再度赴任して来て、アイツの教え子でもある!
キーコンーカンーコン
最後の人の自己紹介が終わると同時にチャイムが鳴った。
「なんだ、もう終わりか。後教科書配り終わったら今日は終わりだから、誰か持ってくるの手伝ってくれる人!」島根先生は誰か一人は上げるだろうと思い右手を頑張って挙げるが誰一人挙げる人はいなかった。
「なんだよ、一人ぐらいいたっていいだろう。じゃあ拳市と日脚、手伝ってくれ」いやなんで俺? 30人いる中でなんでこうピンポイントで指名されるんだよ。
俺は渋々嫌な顔で席を立って島根先生の元に歩み寄る。着くと直ぐに歩き始めた、横の安西は一環としてクールな顔を貫き通している。いっちょ前にポーカーフェイスなんか決めやがって気色わりぃ。
「拳市はなんで
「来年妹が|聖ローゼン女子高等高校に入学するんで、それと一緒に俺も」
「そうなんだ~じゃあ今一人でこっちにいるの?」
「まぁそんな感じです」
「この年で一人暮らしはすごいね~」2人の談笑は島根先生が一方的に盛り上がる形になっていた。
3階に下りた途端、ふと俺たちは生徒会長室と書かれた教室が目に入った。その扉の前で仁王立ちで立っている石浦会長がいた。
「2年は今日通常授業だろ、早く教室に戻れ」
「志願者が来るまで一歩も動きません!」島根先生の声に応じず断固たる意志を見せる。島根先生は呆れて再び歩き始める。
「いいか、あそこには絶っ対に近寄るじゃないぞ。無視だ無視! いいな」俺と安西は静かに「はい」と返事をした。でも......ちょっと気になる。
職員室に着くと、島根先生の机に教科書が敷き詰められたサイズ中の段ボールが7個置いてあった。「これ全部持つんすか・・・」あまりの量に思わず口に出してしまう。
「当たり前だろ、若いんだから3つずつ持てよ」マジかこいつ、3つも持ったら前見えねーよ。横の安西も嫌な顔を浮かべ......ない?! 一目差に3つ重ね始めた。
「グズグズしてっと日が落ちるぞ」落ちねぇよバカ。仕方なく段ボールを重ね始める、持つと段ボールは思ったよりとても重かった、うちの教科書どんだけ分厚いんだよ。1個目を乗せ終え2個目を持つと少しだけだが1個目より軽い。
まさかこれ「おいお前、それ全部軽いやつだろ」俺はすぐに安西に問い詰める。
「全部同じ厚さなわけないだろ」当然のことをあっけなく返されて腹がたった。
「おい、ずるいぞ1個ぐらい重いの持てや」安西の一番上の段ボールを奪い自分のやつに乗せた。
「早い者勝ちだノロマ」それも素早く取り返されそのまま段ボールを持って職員室の外へ出た。
「おい待てよ!」
後を追いかけようとしたが「諦めろ、日脚」島根先生に行く手を阻まれた。「1個持ってやるから、早く戻るぞ」情けなのか1個持ってくれた、ていうか最初からお前も持て!
俺は重い段ボールを持って島根先生と教室に戻るため職員室を出た。そして外にはもう安西はもういなかった、あの野郎先行きやがって・・・
「ところで、日脚は部活何に入るか決めてあるのか?」次は俺か、島根先生とのコミュニケーションが始まった。
「まだ決めてないっす」
「中学では何部に入ってたんだ?」
「一応、サッカー部です」
「サッカーか......」そういやこいつ野球派だっけ。「あったら、入ってた?」
「まぁ、そうすね」廃部したなんて言わねぇよな。
「そっか......それは残念だったな。実は去年の夏に、3年生が引退して廃部になったんだよ」
「そうなんすか」的中しちゃったよ・・・
「3年が10人で2年が1人、継続させるには新入生も含めて8人必要だったから、顧問とキャプテンがやむなく廃部にしちゃったんだよ」
「それは......仕方がないっすね」ほぼ3年のクラスチームだろ、ほかの学年も入ってやれよ。
「まぁ代わりと言っちゃなんだが、野球部に入らないか? サッカーの経験があるからすぐレギュラーになれるぞ」
「考えときます」やだ。絶対に入らない。なぜ俺がサッカー部に入ったのか、小さい頃テレビで甲子園をやってて、ハゲが汚れながら一心不乱に球を取り合うのを見て、野球をやったらいつかこうなるのか......と勝手に悟ってサッカーを好きになった。野球部に入るくらいなら、隣町でバイトしたほうがマシだ。
「サッカーもいいが、野球も同じぐらい楽しいぞ」強制丸刈り文化がなくなったら入ってやるよ。先生と話すうち、教室に着いた。
「よし、今日はこれで終わり! 明日から授業始まるから教科書忘れんな」はぁ~やっと終わった。時間は午前11時28分、これから俺たち1年には和光第二高校の洗礼が待っている。窓の外を見ると、正門前で学ランを着た無数の不良達が目を尖らせ待ち構えている。今あそこから出れば間違いなく絡まれる......
「あの、島根先生......」1人の女子が先生に話しかけた。「正門にいる不良を注意して追い払って下い。これじゃあ学校から出れません」ナイス! 名前忘れたけど多分優等生! でも考えたら至極当たり前のことじゃん!
「それは......」ちょっと待て、その腰に手を当てて頭を抱え込む仕草はまさか・・・「できそうにないんだ......」おいふざけんな、教師だろお前!素行不良の生徒は例え他校であっても叱るのが教師の仕事だろ!
当然クラス中からブーイングの嵐が飛び交う。「おい待て、何も注意しないとは言ってないだろ!」じゃあなんだよ他に理由でもあるのかよ。
「先生だって、赴任して来たときは不良を思いっきり叱ったさ、でも相手の学校から苦情が来てな、友達を待っていただけなのに理不尽に叱られたって。それ以降この学校の先生は他校の生徒を叱ってはいけないという決まりができたんだ」
なにこの、クソ校則をはるかに上回る理不尽な決まり。ここ、こんなに腐ってたんだ......クラス全員不満の矛先が先生から学校に変わった。
「これは言うべきじゃなかったな......よし! これから先生みんなが食堂を30分早く使えるか交渉してくる、さすがの不良も昼過ぎになればどっか行くだろ!」
「ほんとですか!」
「先生に任せろ!」そう言うと意気揚々と教室から出て行った。自分の株上げるの上手いな、このちょっとの間にクラス中の生徒の心を掴んだぞ。交渉が上手く行けばの話だけど。
さて、このまま先生の帰りを待つのもいいが、アレが非常に気になる。
なるつもりは無いが、ホントに一日中あそこに立ってるのかなぁ......少し見たら直ぐ戻ってくる、よし行こう。俺は立ち上がり、教室から出ようとした。
「ねねぇ、ほ本田くん」廊下まであと一歩の所で後ろからキモイ声にかけられた。
「はぁ......なに?」振り返れば
「ささっき君の机にほ本を置いたんだけどき気づいた?」あの、
「そんなもんないよ」知らないことにしよう。
「そそんなくだらないボケいいからさぁ......」振り返って払い落とされた本を見つけると、デブは教室が揺れそうになるほどの「キェェェェェェェェイ」とか言う謎の奇声を上げた。
「僕の大事なラノベがァァァ!」グッ、ダメだ......ちょっと笑いそうになる。本一つにあんな声出すか普通? 吹き出しそうになる自分を必死に落ち着かせ、デブが必死に埃を払い落している隙に教室から出た。
3階に下りる階段の途中、ふと昔の記憶が脳内に蘇った。
中学の休み時間、周りに女子がいる中わざとあいつの前で読んでる本取って、水着か下着を着た絵が本の中にあってそれをネタにいじめて馬鹿にしたんだっけ。あんときはみんなゲラゲラ笑ってたから俺も笑ってたが、今思い返すと何が面白いんだろう。
あ~やったわ、完全に頭にこべりついてしまった。しばらく消えそうにないな。
「キミ!」
ハッ! え、俺......? 必死に周りを見渡し、誰が言ったのか探す。
「キミさっきも先生と一緒にいたよね!」前のほうからだ。あ、生徒会長が今度は竹刀を持ってキラキラした目で俺を見ている。昔を振り返ってたらいつの間にか着いちゃってた。
「ここに来たということはつまり!」パチンと竹刀の先を床に叩きつけ「我が校初のヤンキーになりに来たんだね!」そのまま勢い良く俺に突きつけて来た。
ヤバい......横目でチラッと見て帰るつもりだったのに、このままじゃ不良にされる。
なんとしても回避しなきゃ。でも、なんて言おう......素直にただ見に来ました。なんて行ったら、持ってる竹刀使ってあの罵声と共にボコボコにされる・・・多分。
いっそこのまま会長無視して1階に降りる......なんてことしたら、さっきみたいなオチになって、竹刀使ってあの罵声と共にシバかれる。さっきと何も変わんない、もっと他にないのか俺。
「どうした、恥ずかしがらずにヤンキーの一歩を私と共に歩みだそう!」丁重にお断りします! ヤンキーなんか誰が好き好んでなるか! でも会長がしゃべってくれたおかげで上手く切り抜けられるアイデアが降ってきた。今俺は・・・それを言う。
「いいえ、あの......」
「うん?」
「トイレはどこデスカ?」
「......え?」聞き返してこないでハズカシイから!
「トイレ......はドコデスカ?」でも、恥ずかしからずに言えって言ったのは会長でからな。
「.....................はぁ...」ほんの一瞬頑張ってキラキラした顔を保っていたが、徐々に覇気がなくなって、そして上半身の力が抜けたのかポニーテールが反り返るほどのうつむいてしまった。そして静かに階段、右横のトイレを竹刀で指した。
ここまで元気がなくなるなんて、だいぶ悪いことしてしまったな・・・このまま帰る、訳にもいかないよな。俺はそっと会釈してトイレに入った。
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