第013話「ペットを飼ってはいけません」

「我様の力は【奇跡】を起こすことじゃ」


「え――っと…………」


 いきなり何を言い出すんだこの銀狐。

 食って飲んで寝ている姿しか見ていないからピンと来ないがこいつは自称【神】なのだそうだ。

 まあ、【世界の神】とかではなくって【神の域】に近しい者らしいのだが。


「同じ修業をした仲間の話じゃが。その昔、鶴の姿の時に助けてもらった恩を返すために上等な絹を作って恩返しをした者や……」


 へぇ――。どっかで聞いたことのあるお話だ。


「あとは現世で石像になる修行を冬に行っていた酔狂な奴がおっての、笠をかけてくれた親切な若者に恩返しをしたり……」


 ふむふむ。って、日本昔ばなしかよ。


「万物照応の法則といおってな無から有は作り出せん。現世にいる限りこれは絶対の法則じゃ」


 何故だろう……いつも残念なこの少女が今だけ神々しく見える。

 彼女が言ったのは【無から有を生ずること能はず。何かを得ようと欲すれば、必ず、同等の対価を支払うものなり】ってやつだ。鉄製の錬金術野郎で言ってたな……


「じゃが、この法則を打ち破り奇跡を起こすことは可能じゃ」


「そんな方法があるのか!」


 スゲエ、さすが自称神!仙術か何かでスーパー奇跡を起こせるのか。

 等価交換の法則を無視できるのか!


「それにはお主様の力を借りんとできないんじゃがな」


 へぇ、そんな奇跡をオレの力を合わせることで実現できるのか。

 シェンがオレを見つめている。

 期待に満ちた眼差し――ややほほを赤らめつつそっと寄り添ってくる。

 

「それは……子作りじゃ!」


 ………………はい?


「お主様、折角じゃから我様と一緒に……」


「ん――、却下!」


 こいつこんなんばっかりだYO。

 オレはまだ人体錬成はしちゃダメなんだYO!


「まったく。期待して損した」


 話をはぐらかされた気がしないでもないが、彼女がしばらくオレと一緒にいるということだけは分かった。

 そういうことであれば、しっかりと躾をしなければならないな。

 犬や猫を飼う時には叔父に一度相談することになっている。

 

 しかし――狐かぁ……

 

 叔父さん。神はペットに入りますか?



 □■□■□■□■用語解説□■□■□■□■


【鶴の姿の時に助けてもらった恩を返すため~】

 日本の伽話「鶴の恩返し」

 有名な昔話だが、その内容は様々「おじいさんとおばあさんの娘になる」という話から、「青年の嫁になる」「青年の嫁 になり、子どもを授かる」等々。「絶対に覗かないでください」と言いつつ機織り機で絹を織るというところは変わらないらしい。「絶対に見ないで」=「いいか、絶対に押すなよ!」と通じるものを感じる。


【現世で石像になる修行を冬に行っていた酔狂な奴が~】

 日本の伽話「笠地蔵」

 笠売りのおじいさんが売れ残った笠を冬風にさらされるお地蔵さまに被せてあげ、足りない分自分の笠やてぬぐいで補う。といった内容。ここで笠を燃やそうものならマッチ売りの少女に早変わりする。


【無から有を生ずること能はず。何かを得ようと欲すれば、必ず、同等の対価を支払うものなり】

 アニメ【鋼の錬金術師】のオープニングでナレーターが言うセリフ。要は「質量保存の法則」の事だと勝手に解釈している。

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