第014話「現実からダッシュで逃避行」※イラストあり〼

 ――う――ん。この件は後から考えよう。


 オレはこの問題を棚上げすることにした。

 問題の先送り、未来のオレに期待、現実からの逃避行――言い方は色々あるが、悩んでも仕方のことは考えないようにしているのがオレの信条だ。

 朝食を終えて、皿とカップを洗う。

 

 エサよし。

 食器洗いよし。

 

「じゃあ、オレは出かけてくるから」


 簡単に着替え家を出る準備をする。


「お主様、どこかに出かけるのか?」


「バイトだよ」


 今日は昼からの十時からのシフトになっている。


「いいか、十二時になったら壁の時計が鳴るから、そしたらテーブルの上の飯を食え」


 オレは壁掛け時計を指さす。

 彼女は真剣な顔で何度も頷いた。

 瞳はキラキラと時計とテーブルの上に置かれた食事を何度も往復している。


「なんと、お昼にも食事があるのか!贅沢なのじゃ」


 いや、すまん。ただのおにぎりなのだが……

 オレのお手製おにぎりが三個。


「白米を食べれる日が来ようとは……今日はお祝い日か!」


 いや、いたって平日だ。

 おにぎりくらいで大げさな奴だ。


「いいか、三時には帰ってくるから。それまでおとなしくしているんだぞ」


「分かったのじゃ。我様はこの家をしっかりと守護するのじゃ」


 おお、おにぎり三個で神の加護が得られるとは……いや、あまり期待しないでおこう。


「行ってらっしゃいなのじゃ」


 シェンに見送られて、オレはバイトに出かけた。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 オレのバイト先は近所のコンビニエンスストアだった。

 家から自転車で五分の所にある。

 シフトは大体が平日のお昼の時間帯。時折、シフトに空きがある時には深夜に入ったりもする。


「モー君、モー君。なんだか疲れてない?」


 バイト仲間、同じ大学の一つ上の先輩「あーちゃん先輩」だ。

 一緒に食事をしたり、時々遊びに行ったりすることはあるがあくまでも【仲の良い先輩】だ。彼女には遠距離とはいえちゃんと彼氏もいる。なのでオレにとって彼女は頼れる先輩なのだ。


「そうですか?」

 

 憑かれたせいで疲れているのだ。

 あ-ちゃん先輩に言われるまでもなくオレ自身疲れていることにもちろん気づいている。

 昨日の夕方からまだ丸一日も経っていないのだ。

 ひしひしと感じるこの虚脱感。

 これはきっと呪いだ。そうに違いない。


「そういえば彼女にフラれたんだって?」


 あーちゃん先輩はいきなり爆弾をぶっこんできた。

 うっ……鋭い所を突いてくる。


「…………はい」


「じゃあ、今モ―君はフリーなんだね?」


「いや、まだ完全にフラれたというわけじゃないですよ」


 まあ「お友達でいましょう」と言われたので、まだフラれていないはずだ。


「モー君。お姉さんからのアドバイス」


 がしっと両肩を掴まれてあーちゃん先輩の顔が接近してくる。

 

「現実から逃げちゃダメだよ」


 うるせえ!分かっとる!


「今は恋愛とかそんなのどうでもいいです」


 それどころじゃねえ。家には今現在進行形で疫病神がいるんだ。

 恋愛にうつつを抜かしている場合ではない。


「あらあら、モー君のお年頃だったら色々とお盛んなのに……いきなり賢者モードなんてねぇ」


 意味深な笑みをオレに向けてくる。


「もしかして、もう新しい彼女さんができたとか?」


「違います!」


 全力否定。

 これ以上ないくらいに断固否定致します。


「そ、そう……」

 

 あーちゃん先輩はびっくりしたようにオレを見ている。


「す、すみません」


 何をムキになっているんだオレは。

 ちらりとあーちゃん先輩を見ると彼女は気まずそうな顔をしている。


「ははは、まあフラれたばっかりだもんね」


 あーちゃん先輩はいつもの笑顔でオレの心の傷をえぐってくる。

 グフッ!

 心象的吐血!


 ――負けるなオレ!挫けるなオレ!


 きっとそのうちにいいことがある――ハズだ。


 □■□■□■□■用語解説□■□■□■□■


【モー君】

 あーちゃん先輩が主人公を呼ぶ時の名称。

 主人公の呼び名は「お主様」「モー君」の二種が確認されている。主人公のフルネームが登場することは果たしてあるのだろうか。


【あーちゃん先輩】

 主人公の一つ上の先輩。

 主人公と同じ大学。ちなみにサークルも同じ。

 主人公と同じバイト先。

 彼氏がいるということだが、果たして……

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