第010話「目覚めるとそこには……」
窓から差し込む光がカーテン越しに部屋に差し込む。
オレはゆっくりと目を開ける。
――変な夢を見た。
銀髪のケモノ耳少女が現れた。彼女はオレの祖先から受けた恩をオレに返すために現世に現れたのだという。ついに幸せが訪れたと思ったと一瞬でも思ったオレはバカだった。
彼女は幸せをもたらす福の神ではなく、ただの疫病神だったのだ。
オレの為と言いながらのストーキングに始まり、願いを言えだの、なければ殺すだの。ただ飯は食うは、風呂に乱入して騒ぎを起こす、挙句に叔父の大切にしていたブランデーを一本丸ごと空にする――現実でなくて本当に良かった。
「夢ならいいや……さて、確か今日はバイトの日だったな」
ぼんやりとそんなことを考えながら体を起こそうとして――オレは違和感に気づいた。
――か、身体が動かない!?
まるで蛇か何かに巻きつかれているようだ。
これがいわゆる金縛りというやつなのか。
かろうじて手は動く。
オレは何とか手を動かしてシーツを払いのけた。
そして――
抱っこちゃん人形よろしくオレの身体に抱きつく――銀髪銀尾狐耳を持つダボダボTシャツ&トランクス少女がいた。
――これが夢でありますように!
祈りつつ再び目を開けるが現実は変わらず。
「ん……」
少女が目を覚ました。
オレを目が合う。
「お主様……おはようなのじゃ」
すがすがしいほどにさわやかな笑顔だ。世の男どもを魅了してやまない魅力がその少女にはあった。
「お、おう……おはよう」
思わず素で応えてしまう。
「昨晩のことは……?」
そうだ。酔いつぶれた彼女をベッドまで連れてきたはいいが彼女は抱きついたまま離れず放そうともがいているうちにオレも眠ってしまったのだ。
「はて?」
シェンはしばらく考え込んだ。
ハッと何かを思い出す。
「昨晩の酒は誠に美味であった」
「そいつはよかった。できればさっさと離れてくれ」
オレはもがくが彼女にホールドされたまま微動だにできない。
「のう、お主様……」
シェンがオレを見上げる。
うるんだ瞳でオレを見つめてくる。
「折角じゃ、ここで一発……」
シェンがTシャツをめくり上げた。真っ白な素肌が露になる。
「却下で!」
何なんだ。この自称【神】は!
人のベッドの中で勝手に欲情するんじゃねえ。
尻尾をフリフリしながらオレを脱がすな。
「良いではないか」
「良くないから!」
「昨晩は色々とよくしてもらったからの、我様からのお礼だと思って、な?」
「な?じゃねえよ!何脱いでんだよ!」
「だってのう。着てるとしにくいじゃろ?」
おいおい、トランクスはいた半裸少女がオレに巻きついているんだが、これって絞め殺されるパターンか。
「まあ待て。な、話し合おう!」
這う這うの体でベッドから抜け出す。
「この期に及んで言い訳とは……見損なったぞお主様!」
えっ、なんでオレ怒られてるの?
「据え膳喰わぬは男の恥と……お主様は親御様から習わなかったのか?」
そんな講釈を子供に垂れる親は多分まともな奴じゃねぇ。
「全く嘆かわしい!」
ぷんすかと怒るシェン。
嘆きたいのはオレの方だ。
「馬鹿なこと言ってないで、朝飯にするぞ」
話題を切り替える。とにかく【餌】で意識をそらすのだ。
オレの読みは功を奏した。
「なぬ、朝餉とな!」
シェンが瞳をキラキラとさせる。
うん。単純でよろしい。
「我様はぶらっくこーひーが飲みたいのじゃ」
こいつ……オレですら砂糖とミルクがなければ飲めんというのに……ブラックだと!
いったいどこでそんなのを覚えてくるんだ。
オレをストーキングしている時だろうか、でも、オレはコーヒーはじゃないんだけどな。
朝からコーヒーをご所望とは生意気な奴だ。
□■□■□■□■用語解説□■□■□■□■
【据え膳喰わぬは男の恥】
まあ、あれです。 女の方から言い寄ってきたら、男が誘いに応じるのは当然であるというたとえ。
このご時世、それで生きていたら大変なことになりそうな気がする……
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