第005話「神狐カップラーメンを食す」

「いいのう。出来上がる瞬間までが待ち遠しいのう!」


 ワクワクとお湯を注いだカップラーメンの容器を見つめる銀髪銀尾、巫女服のコスプレ美少女は何を隠そう自称「神」である。

 名前はシェン。

 一〇〇〇年ほど前、まだ彼女が狐の妖であった頃にオレの祖先様に助けられ、それを恩に感じてお礼をするために仙境で一〇〇〇年の間修業をし、格を神の域にまで高めたというスケールの長い幼女である。

 彼女を助けた祖先様の魂が今のオレに宿っているということだったが、もちろんオレは転生したわけでもないし、前世の記憶があるわけでもない。

 オレにとって彼女は――恩を返すためならばその者の死を望んでしまうくらいに純粋でサディスティックな狐女なのだ。

 願いを言わなきゃ殺しちゃうぞ♡が殺し文句の彼女は今まさに出来上がるカップラーメンを今か今かと待ち望んでいた。


 ――こいつ、本当にオレに恩を返しに来たんだよな?


 こいつに出会ってからのオレはちっとも幸せを感じていない。

 こいつのせいで、今現在の人生の選択肢は

 

  転ぶ

  絞め殺し

  鬼火で焼死

  腹上死

 ▶カップラーメンを作る

  願い事を言う


 となっている。

 この選択肢の中に【逃げる】と【お帰り頂く】があったのだが、その選択をした途端にBAD・END確定となるのだ。

 とんだデスゲームだ。


「なあ、もう三分経ったか?」


「もうちょい。あと三十秒」


 携帯のタイマーを見ながら教える。


「ううむむ。待ち遠しいのじゃ」


 一〇〇〇年以上生きる神狐が三十秒を待てないとは……


「よし、三十秒経ったぞ」


「やったのじゃ、この時を……この瞬間を……我様は待っていたのじゃ!」


 今までで一番嬉しそうだった。

 それからの彼女はそれはもう本当に美味しそうにカップラーメンをお食べあそばされました。


「うんまい。うまいのじゃ!これほどの絶品がこの世の中に存在していたとは、世界はまだまだ知らないことが多いのう」


 カップラーメンで世界を語るかこの幼女。

 髪を束ね、おいしそうにカップラーメンを食べる。

 味噌の香りが部屋中に広がった。

 オレはとんこつ味だ。濃厚なとんこつの香りが味噌の香りに負けじと自己主張している。


「お主様、お主様」


 カップラーメンを食べているオレの腕をつんつんとシェンが突っつく。

 おい、危ない。食べている時に手を突っつくな。

 彼女を見るとすでにカップラーメンを食べ終わっていた。

 早い。熱々のラーメンをあっさりと完食だと!しかも、スープまで飲み干していやがる。

 

「お主様のらーめんを少しだけ恵んで欲しいのじゃが……」


 お供え物の追加をご所望です。

 じっとオレの手元――カップラーメンを見つめる彼女。


「どうかお恵みを」


 瞳を潤ませながら袖をつかみオレを見つめる銀髪美少女。

 まるでオレが食べ物をあげていないみたいじゃないか。

 

「分かったよ」


 オレはカップラーメンを彼女に手渡す。


「良いのか?」


 と言いつつも彼女の箸は既に麺を挟んでいた。

 ずるずると盛大な音を立てて彼女はとんこつラーメンを食す。


「こ、これは……濃厚な味わいの中にほのかに香るニンニクの風味。そしてこの薄くスライスされたお肉がまた味わいを深めておる」


「おい、それはオレが最後にと残しておいた肉だ!」


「コン?」


 コン?じゃねえ。

 オレは大好きなものは最後に食べる主義なのだ。


「あ~、全部食ってる!」


 しかも、スープまで飲み干してる。

 オレはシェンを睨みつける。


「美味じゃったぞ♡」


 ♡でごまかすな。


 ――オレの食べ物に手を出すな。


 彼女への新たな願い事がまた一つ増えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る