第006話「お風呂で禊ぎ ①」

 彼女にオレの分のカップラーメンを食べられてしまったので結局もう一個作って食べることにした。

 今度はしょうゆ味だ。

 

「お主様……」


 シェルがモノ欲しそうな目でオレを見てくる。

 こ、こいつ……


「分かってるよ」


 オレは持ってきたお椀にスープと麺を入れた。


「おお、さすがお主様じゃ!」


 シェンは嬉しそうにお椀を手にする。


「待て!」


 オレの言葉にシェンの動きが止まった。


「ど、どうしたのじゃ?」

 

 オレはシェンを見つめる。彼女はお椀を手にしたままプルプルとしている。

 オレは黙ったまま彼女を見つめる。


「どうしたのじゃと聞いておる」


 シェンは食べたそうにラーメンを見つめたままそれでも我慢している。

 しばらく時間が経過した。


 ――そろそろか……

 

「よし。食べていいぞ」


 オレの言葉を待っていたかのようにシェンがラーメンに箸を伸ばした。

 

【正しい犬のしつけ方】


 台所にいる間に携帯で調べておいたのだ。狐に効果があるか疑問だったが、この調子でしつけていけばきっと立派な狐になってくれるだろう。

 この時、既にオレは当初の目的を忘れてしまっていた。


 ◆ ◆ ◆ ◆


「ふう。食べたのう」


 満足そうにお腹をさするシェン。

 こいつ、何度も言うがオレに恩返しに来たんだよな。

 たかりに来たわけでもないんだよな。

 オレは食後のお茶を出しながらふつふつと沸き起こる疑問にさいなまれていた。


「さて、食事も終わったことだし……禊ぎでもするかの」


 禊ぎ――身を清めること――すなわち風呂だ。

 えっ、飯食って風呂まで入るの?

 そう思ったが、ここは我慢だ。

 下手を打って殺されてはたまらない。

 また、下手に騒がれて通報されるのも御免被りたい。


「お主様、先に入られよ」


 何故か一番風呂はオレに譲っていただいた。

 ありがたやありがたや――ん?なんでオレ感謝しているの?

 なんだろうこの「ソウジャナイダロ」感は。

 オレは首を傾げつつ風呂に向かう。

 食事の後は風呂だろう。とお風呂は沸かしておいたのだ。

 服を脱ぎ湯船につかる。

 

 ――なんだかどっと疲れた。

 

 ものすごい疲労感が重くのしかかる。湯船に浸かると全身から疲れが抜けていくようだ。


「生き返る……」


 声が浴室に響く。

 その時、がちゃりと浴室のドアの開く音。

 

 ――へっ?

 

「お主様――背中を流しに来たのじゃ!」


「おい!」


 銀の髪をタオルでまとめた全裸――すっぽんぽんのシェンの姿がそこにあった。 

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