第002話「恩返しに参った」
オレは呆然としていた。
立ち尽くしていた。
「ええっと……」
頭は完全にパニックだ。
――何がどうしてこうなった?
――え、巫女服?狐耳?狐尾?のじゃ属性?我様仕様?舞空術?
どれから突っ込んだらいいのだろう。
こんな訳の分からない奴が出てきた時に、どうしていいのか分からないよ。
笑えばいいと思うよ。
いや、そんなことより。
こいつ今、よろしくって言わなかったか?
それは通りすがりのあいさつなどではない。
彼女はオレを見てそう言ったのだ。
「どういうこと?」
「は?分からんのか?」
分かりません。あなた様がいったい何をおっしゃっているのか分かりません。
「……さっぱり……」
これはもしかして新手の美人局ではないだろうか。信じて彼女といようものなら近くの茂みから屈強な男たちが現れて「お前、神狐さんにちょっかい出しただろ」とか言われて多額の請求をされるのだ。
「鈍い奴じゃのう」
少女はやれやれとわざとらしくため息をつく。
いや、今までの会話の中で何をどう理解しろというのだろうか。
「因縁……というか、お礼参りみたいなものじゃな」
お礼参り――どっちの意味だ。卒業式に【お世話になった先生方】に対して【今までのお礼】をして回るという――アレか!?
言葉の端々にモヤッとした何かを感じる。
「昔、お主の血族の者に救われたことがあっての……その者にお礼を、と思ったのじゃがその頃は我様も力のないただの妖狐。仙境で修業し力をつけたのじゃがな――」
どこか遠くを見つめる神狐。彼女の瞳にはないが移っているのだろうか。
「その者は亡くなってしまったようでな。代わりにお主にその怨を……恩を返そうと……そういったわけじゃ」
……ん?なんか今、不吉な単語に聞こえたが気のせいか?
オレのご先祖様はいったいこいつに何をしたんだ。
鶴の恩返しならぬ、狐の恩返しか。
「どうじゃ、分かったか?」
少女はふんと鼻を鳴らしながら息巻く。
「だから、我様に恩返しをさせるのじゃ!」
恩返しのはずなのに、どうして上から目線なのだろう。
しかし、気になることもあった。
「ちなみに、昔って……どれくらい前なんだ?」
「ん――千年位前かのう……」
千年前って、スケール長すぎるだろ。十世紀前って……平安時代くらいじゃねえか。
まあ、その頃くらいなら妖怪とかいいてもおかしくないな。
「おかげで妖狐から神狐に位を上げることができたのじゃ」
「ほほう」
「なんじゃ信じておらんのか?」
いきなり言われましても、証拠も何もないわけだし。
「お主様から昔に我様を助けてくれた者と同じ【魂】を感じるのじゃがな」
神孤はいきなりオレに抱きつくとスンスンと匂いを嗅ぎだした。
「おい、ちょ……!」
ヤバイ。絵面的にヤバイ。
これは……通報される!
「安心せい。周りには誰もおらん」
逆だよ。そんなこと信じられるか。余計に安心できないよ。
千年前ってことは年齢はそれ以上だよね。でも、正直見た目がアウトです。これは捕まっちゃうレベルです。
「懐かしい……この匂ひじゃ」
オレの匂ひを胸いっぱい吸い込んで、彼女は満足げに頷いた。
「ええっと……」
「シェンじゃ、我様のことはそう呼ぶがいい」
ははっ、了解いたしました。
もうこうなりゃヤケだ。どうにでもなれ。
「じゃあ、シェン」
「なんじゃ、さっそく願い事か!」
シェンがキラキラとした瞳でオレを見つめる。
「早速で悪いんだが、帰ってくれ!」
オレは彼女を拝み倒しながらそう叫んだ。
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