銀狐の章

第001話「神狐現る」※イラストあり〼

シェン イラスト https://kakuyomu.jp/users/vision_com/news/16817330650515177587


「おい、そこの小童!」


 オレが声をかけられたのは夕焼けが目に染みるなぁとしみじみし始めた秋の頃――付き合っていた彼女にフラれ茫然自失としながら神社の前を通過した時だった。


「……ん?」


 周囲を見るが声の主は見えない。


「こっちじゃこっち!」


 もしかして……上か!

 見上げると鳥居の上、座りながら足をぶらぶらとさせる銀髪で巫女姿――しかも狐の面を被った少女がいた。

 しかもご丁寧に犬の――いや、狐の耳と銀色のフサフサした尻尾までつけた完璧巫女狐コスプレ少女だ。


「おーい、そんなところにいたら危ないよ」


 親はどこにいる? どうやって上ったかは知らんが、危ないだろう。傍から見ればオレが無理矢理登らせたように見えなくもない。

 通報されれば少女は助かるかもしれないが――オレが捕まる。


「なんじゃと! 神聖なる我様を心配とな!」


 我様……って、最近のお子様は自分のことをそう呼ぶのか。進んでいるのか遅れているのかよく分からん。


「我様は神聖なる神の化身【神弧】! この程度の高さなどどうということもないわ!」

 

「おいおい、急に立ち上がったりすると……」


 その時、突風が吹いた。オレですら思わず背中を押され前かがみになったくらいだ。

 オレはハッとなって上を見上げる。少女の足が浮く。

 まずい。だから言わんこっちゃない。


「あ、危ない!」


 オレは走り出す。態勢とか無視して走った。

 石畳だ。当然足場が悪い。

 オレは少女を見上げながら走り見事に転んでしまった。膝を強く打ったがそんなことはどうでもいい。


「おい、大丈夫か!」


 身を起こして周囲を見回す。

 少女の姿がない!

 どこに行った。いや、思った以上に遠くに落ちたのだろうか。

 半ばパニックになりながらオレは周囲をきょろきょろと見渡した。

 少女の姿はどこにもなかった。


「おい、こっちじゃこっち」


 声はオレの頭上からした。


「へ?」


 上を見上げ硬直する。

 そこには巫女狐コスプレ少女がいた。

 宙に浮いていた。


「おいおいおいおいおい!」


 それ以外に言葉が浮かばない。

 浮いてる?

 飛んでる?

 親方! 空から女の子が!


「どうした。驚きすぎて声も出ぬか?」


 少女はにやりと笑った。オレの慌てぶりが面白いらしい。


「あ、ああ……そんなところだ」

 

 オレは大きく息を吐く。

 その様子を見て、少女が「カカカカカッ!」と笑った。 

 よかった。浮いていることは置いといて、彼女が無事ならそれでいい。


「お主様に心配されるほどのことはないぞ」


 ゆっくりと少女が目の前に降り立つ。

 種も仕掛けもない。正真正銘の舞空術だ。

 スゲエ。オレも修行したら飛べるようになるのだろうか。

 格好いいなぁ。


「何をそんなにじろじろ見ていおるのじゃ」


 少女が仁王立ちしていた。

 夕日を背景に彼女はとても神々しい姿をしていた。


「我様の名は神狐(シェンフ―)! よろしく奉るのじゃ!」


 狐の面を取ると中から可愛い顔がのぞく。

 それがオレと神狐との最初の出会いだった。


 □■□■□■□■用語解説□■□■□■□■


【親方!空から女の子が!】

 

 アニメ映画『天空の城ラピュタ』の主人公であるパズーの台詞。

 飛行石の力によって女の子のシータが空から炭鉱へとゆっくり下りてくる。それを見つけたパズーが両手で受け止めて床に寝かせた後、炭鉱の親方に空から女の子が下りてきたと知らせようとした。


【舞空術】


 漫画「ドラゴンボール」に登場する、空中を浮遊し飛行する技。

 初めは鶴仙流の天津飯と餃子が使っており、亀仙流の悟空やクリリン、ヤムチャは使えなかったが、後半では誰もが使えるポピュラーな術になった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る