メスガキ神狐に憑かれたい!?いきなり現れたケモ耳 美少女はちょっと♡な福の神?

須賀和弥

プロローグ

序章「鎧武者と銀狐」

 夜空は炎に照らされていた。

 重く立ち込めた雲が、大地からの炎に照らされてオレンジ色に染まっている。

 炎に包まれているのはかつて繁栄に彩られ煌びやかな衣装に身を包んだ者たちの住まう都――だったもの。

 炎は家々を焼き、商店を焼き、官邸を焼き――そして、住まう人々を焼いた。

 

「源次郎!」


 凛と鈴のような声が響く。


 大通りには屍。

 裏通りにも屍。


 剣を持つ者はおらず、全ては屍の仲間入りをしている。

 男も女も子供も老人も死んだ。

 流された血は炎に燻され黒く変色し、侍たちの鎧でさえこの場では薪の如く炎を上げている。


「源次郎!」


 絹糸のような銀の髪の童が鎧武者にすがりついている。

 顔は煤に汚れ、髪も汚れていた。

 熱波が肌を焼く。それにもかかわらず童はそこを動かない。

 そこを動かなければ――そこから逃げなければ――己に待ち受ける運命は無だというのに――


「……よお、小童」


 鎧武者は目だけ動かし童を確認すると口元に笑みを浮かべた。


「まだいやがったのか……」


 その声にもはや力はない。


「当たり前だ!」


 童は叫んだ。炎に負けない声で叫んだ。


「小童……さっさと逃げろ……」


「嫌だ!」


 立ち上がり鎧武者の手を引く。

 しかし、非力な童の力では大人を動かすことは不可能。


「逃げろ」


 鎧武者の言葉に童はただただ首を振るばかり。


「お主はいつもそうだ……」


 ボロボロと涙を流しながら童は叫んだ。


「我はまだ、お主に怨を返していない!」


 涙も拭わず。鎧武者の腕を持ち上げる。


「我はまだ、お主に恩も返していない!」


 童の姿が歪む。童から獣に――銀の毛を持つ子狐へと変化した。


「へへへ、お前はその方が似合っているな……」


 銀狐が鎧武者の足首を咥える。


「……無駄だ」


 鎧武者の瞳にもはや光はない。


「お主はいつもそうだ……」


 銀狐の涙声が響いた。


「さっさと逃げろ!」


 何処にそれほどの力が残っていたのか――荒々しく子狐を腕で弾く。

 ギャンと悲鳴を上げながら子狐が弾き飛ばされる。


「お前の怨も恩も受けそびれちまったな……」


 鎧武者がにやりと笑った。


「覚えていろよ!」


 子狐は吠えた。雄々しく吠えた。


「我は必ずお主を見つけ出す!死して輪廻転生しようとも必ず見つけ出す!」


「そうか……」


 鎧武者は立ち上がる。震えながら立ち上がる。

 その瞳にもはや子狐は映っていない。

 

「我の怨を忘れるな!」


 鎧武者が剣の柄に手をかけた。

 抜き放つ刀は半ばで折れ、血糊で既に何も斬れない。


「我の恩を忘れるな!」


 鎧武者の背後で大きく炎が上がった。

 鎧武者はゆっくりと炎に向かって振り返った。

 炎が獣の形をとる。

 その炎の一舐めだけで鎧武者はあっさりと絶命するだろう。

 それが分かっていながら、鎧武者は立ち向かう事を止めない。


「ああ、忘れない。だから……逃げろ……」


 刀を構える。

 力無き武者の最期のあがき。


「うおおおおおおお!」


 鎧武者の叫びが炎の中にこだましていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る