#049 ミノタウロス
「ミノタウロスは俺たちで討伐します」
「いいわね~、若い子はこうでなくっちゃ!」
受付嬢?のドリスはミドリの回答にウムウムと頷くと、一瞬でオネエ言葉からオラオラ言葉に変わって周りに指示を出しはじめる。
「よぉーっし、暇そうにしてるテメーら!久しぶりのボックス解放作業だ!中身はミノタウロス、張り切って準備しやがれ!」
周囲のギルド職員や冒険者たちが待ってましたという感じで慌ただしく動き始めた。
「ギルドマスター、了解です!」
「ミノタウロスか、久しぶりだぜ!」
「坊主たち運がいいな、頑張れよ!」
ドリスはギルドマスターだった。どうして受付していたの?
祭りのような雰囲気にドン引くミドリたちはギルドの裏側にある訓練場に案内された。サッカーコートほどの広さの訓練場のド真ん中に頑丈な檻が運び込まれる。檻は一片5メートルほどの正方形で、モンスターボックスの開放はその中で行うのだそうだ。1時間もすると訓練場には大勢の人が集まり、ドリスもやってきた。
「さあミドリちゃん、準備は整ったわよぉ~。もし討伐できなくても、お姉さんたちにまかせなさい!」
大きなハルバードを肩にかけ胸をドンと叩くドリスからゴーサインが出た。その両隣には立派な魔石が沢山ついた杖を持った魔術師のお爺さんと身の丈と同じくらいの大剣を背負った美人さんがいた。他にも暇つぶしで見学に来たのであろうベテランっぽい冒険者が多数いた。これならもしミドリたちが討伐できなくても大丈夫だろう。
ミドリはモンスターボックスに「解放」と唱えて檻の中に投げ入れた。箱が光を放って現れたのは身の丈が3メートルくらいある頭が牛の魔物。身長や体格はオーガと同じくらいなのだが雰囲気がまるで違う。魔の森でミドリたちがビビりまくったオーガを最強のアスリートと例えるなら、ミノタウロスは武人。静かに手にしている大きな斧を構えると、ミドリが気を失いかねないほどの威圧を放ってくる。ミドリたちに有利過ぎる状況じゃなかったら失禁してたかもしれない。
まず最初にマリーが鉄の槍に【付与魔法】の強化を施し檻の外から全力で突いてみるも、ミノタウロスの斧で軽くあしらわれた。次にミドリとコレットがクロスボウを取り出して同時に矢を放つも、ミノタウロスは身じろぎひとつしない。矢は強靭な肉体に弾かれ傷ひとつ付けられなかった。
「ぎゃははは。そんなのでミノタウロスをやれるわけねーだろ」
「ガキは引っ込んでろ!」
「代わりに俺らがやってやんよ。経験値もドロップも頂くけどな」
観客の冒険者から笑い声や冷やかしが聞こえる。よく見ると騒いでいるのは弱そうな連中ばかりだ。大チャンスを得たミドリたちに嫉妬してるのだろう。
ミドリはミノタウロスの圧倒的な強さを体感して溜息をついた。ドリスや他のベテラン冒険者が早くも出番かとミドリを見つめるが、ミドリはコレットに指示を出す。
「コレット、例のあれでいくよ」
「りょーかーい」
コレットがムムムと念じて地面にドンと置いたのはバリスタ。クロスボウのお化けのような武器で、以前にミドリたちが飛び道具を購入したフルールの町の職人が作った力作だ。城攻めくらいにしか使われない武器が売れるはずもなく、ミドリが小金持ちになったことを知った職人に泣きつかれて買い取ったものだ。町から逃げる時に持ち出せてよかった。
「ガキのくせにイカレてやがるぜ!」
「こっち向けるな。逃げろ」
まさかの攻城兵器の登場にバリスタの射線上にいる冒険者が慌てる。バリスタは通常の戦闘で兵や魔物に狙って当てるのは難しく役に立たないのだが、今回の標的は檻の中。狙いを定めるとミノタウロスも避けるのは不可能と悟り目をつぶる。こっちが悪役だなと思いながら放った矢はミノタウロスの胸を貫いた。ミドリたちのレベルが上がり檻の中には魔石と白金貨8枚と肉の塊、そして巨大な斧が残された。バリスタの代金を余裕で上回る戦果だった。
「まさかバリスタとはやるわね~。ミドリちゃんの判断の早さといい、手段を選ばないのはいいことよ。そしてコレットちゃんは【倉庫】持ちなのね。容量にも余裕がありそうだし、取り出す手際もいいし将来有望ね。あとマリーちゃんは【付与魔法】を使えるのね。ミノタウロスじゃなければ中層でも十分に通じる威力だったわよ」
ドリスは冷静に分析し称賛する。他にもミドリ達を興味深そうに値踏みしている冒険者がちらほら。優秀な冒険者なのだろう顔を覚えておこう。大きな成果を妬んだ弱そうな冒険者がブーイングしているが、こちらの顔も覚えておこう。しばらくこの町を拠点にするので出来れば仲良くやっていきたい。
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