#045 対ゴブリンズ
対集団戦闘が始まった。
「ぐげぎゃー」
奇声を発して襲ってくるソルジャーとウォーリアー。ソルジャーにはミドリが、ウォーリアーにはマリーが対峙する。
「お前の相手は俺だ」
ミドリは自分の体に身体強化を施しソルジャーの短剣による一撃を鉄の剣で受ける。スピード、パワー、技術、全てがキーウィの短剣さばきに比べると大したことがなかった。次々と放たれるソルジャーの斬撃を受けながら反撃の機会を伺う。
「あなたの相手はわたしよ」
マリーの拳には鉄のナックル、オークの皮で出来たグローブの表面に鉄の板を張り付けた特注品だ。相手のパンチやキックを軽く受け流すマリーと焦って攻めが雑になっていくウォーリアー。次第に攻守が逆転し、遂にマリーの腹パンがウォーリアに炸裂した。膝から崩れ落ちたウォーリアーにマリーがとどめを刺そうとする。
『マリー、矢がくるぽ』
マリーの注意が全てウォーリアーに向かう瞬間を虎視眈々と狙っていたアーチャーから矢が放たれた。しかしマリーは慌てない。
「頼んだわよ」
「ぷるぷるー」
スラッペがマリーの前に出て体で矢をプルンと弾き返した。HPが僅かに減ったが、まだまだ余裕がある。
「ギャギャ?」
まさかスライムに矢を防がれると思わなかったのだろう。焦って次の矢を準備しようとするアーチャーにフーコが【疾走】で接近すると。
「えいっ」
フーコにまたがったコレットがアーチャーにクロスボウの矢を放つ。至近距離で放たれた矢が胸に命中し、アーチャーは黒い霧となって消えた。
「スラッペ、いまよ」
マリーがウォーリアーに追撃の一撃を加え弱ったところをスラッペが捕食した。
「よっし、とどめ!」
ミドリは連撃に疲れて態勢を崩したソルジャーに渾身の一撃を叩きつける。身体強化バージョン2で一気に強化されたミドリの一撃は敵の体を骨ごと叩き折った。ソルジャーは断末魔をあげながら消去り、後には魔石と銀貨1枚が残された。
「よし、やったぞ」
奇襲に頼らず初めて正面から敵を倒したミドリは拳をぐっと握った。
『主、メイジに狙われてるぽ』
全員が最後に残されたメイジを見る。メイジの頭上には巨大な火の槍が浮かんでいた。その大きさと熱量はファイアボールやファイアアローの比ではなかった。
「まずいわ、ファイアジャベリンよ」
ゴブリンメイジだとファイアボールかファイアアローが定番なのだが、今回のメイジは特殊な個体だった。まさかの中級魔法にマリーが慌てる。
「ミドリ、避けて!」
「ぐげぐげぎゃー!!」
仲間を全員倒され怒り心頭のメイジはミドリに狙いを定めファイアジャベリンを放った。魔力が十分に込められた巨大な矢は避けれそうにない。直撃したら間違いなく死ぬと確信したミドリは一か八かの賭けに出た。残りの魔力を全力で身体強化に回すと覚悟を決めて瞳を閉じる。
ドゴンッ!
ミドリはファイアジャベリンの直撃をうけ火だるまになりながら数メートル転げていった。全員がミドリに駆け寄った。
「・・・」
全身が真っ黒に炭化したミドリを見てコレットは膝から崩れ落ち、マリーは絶句する。どう見ても焼死体だ。
ピクッ
ミドリの指先が僅かに動いたのをラプタは見逃さなかった。
『主、生きてるぽ』
ラプタの念話で二人は正気に戻る。
「コレット!ポーションを全部出してちょうだい」
「う、うん!」
コレットはありったけのマリー作成のポーションを【時空庫】から出すと、マリーが全身にぶっかけ、コレットが口移しで飲ませる。
・・・・・・
暫くすると湯気のようなものがミドリの全身から立ち昇り、ミドリの炭化した皮膚が再生していく。
「ゴホッゴホッ、ありがとう助かった」
せき込みながら起き上がるミドリに、コレットが泣きながら抱き着く。
「うわーん、よかったよー」
「もう起きて大丈夫なの?」
「見た目ほどはひどくないから大丈夫、それよりメイジは?」
『逃げたぽ』
「そっか、残念」
初めての対集団戦は後味の悪い結果となったが、収穫は大きかった。
「本当に大丈夫なの?」
ミドリの体をペタペタと触りながら疑わしそうに見つめるマリー。ミドリが直撃を受けたのは火炎系中級魔法のファイアジャベリン。本来なら内臓まで焼け焦げていてもおかしくない攻撃だった。
「大丈夫大丈夫。死にそうになったけど、いいことを閃いたんだ。死中に活ありってね」
ミドリはとっておきの台詞をドヤ顔でキメた。
「何回死にそうになれば気が済むのよ。次、死にそうになったら腹パンよ腹パン」
「そうだそうだー、乙女のチューは高いんだぞー。いい加減にしろー」
マリーとコレットに涙目で突っ込まれ、ミドリは反省した。
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