#039 あかんやつ

 魔の森に逃げ込み2週間が過ぎた。


 ミドリたちは岩場の小高い丘の上で周囲を伺っている。このエリアで要注意な魔物は3種類、ワイルドボア、岩トカゲ、そしてエリア最強のオーガだ。ワイルドボアと岩トカゲは知能が低いので落とし穴と痺れ薬を塗った矢を駆使して狩りまくった。残るはオーガ、上空を旋回してるラプタからの念話。


 『主、オーガがいたぽ。単独行動で距離1000メートルぽ』


 ミドリは双眼鏡を覗く。いた、身長が3メートルの人型魔物。ボディビルダーのような肉体に、灰色の肌、両こめかみに角、片手に金属製のこん棒のようなものを持って、まさしく鬼だった。そして、こちらを見上げ睨んでいる。


 『あれ!絶対こっちに気がついてるよぉ』

 『さすがに強そうね』

 『知能も高そうだ。奇襲もどこまで通じるか』


 見ただけであかんやつだと分かった。オーガはこちらに興味がない素振りをすると、突然こちらにむかって駆け出した。


 『やばい!逃げよう』


 三人は慌ててフーコにまたがり、フーコはオーガと反対方向に走り出す。すでにオーガとの距離は300メートル程に縮まっている。フーコは丘を下りながら【疾走】で加速するも、すでにトップスピードに乗ったオーガはグングンと距離を縮めてくる。

 

 『エア、リアルギャ』


 後ろから強く押されるような感覚。フーコの【風魔法】のエアリアルで更に加速したフーコはオーガとの距離をすこしずつ離していく。追い付けないと判断したのかオーガは金属製のこん棒を全力で投げてきた。回転して襲ってくるこん棒に、前を向いて走るフーコは気が付いていない。


 『右に飛ぶぽ』


 咄嗟のラプタの指示でピョイとフーコが斜め横に飛んだ。さっきまでいた場所をオーガのこん棒がゴウッと通過していった。直撃していたら不味かった。オーガは一気にスタミナを使い果たしたようで立ち止まりゼェゼェいってる。


 「ガアァァァァァ」


 オーガは悔しそうに叫びながら睨ぶ。


 『危なかったわね』

 『フーコにラプタありがとうー』

 『フーコ足は大丈夫か?』

 『問題、ないギャ』

 『あいつは危険ぽ』


 オーガの瞬発力は恐ろしく、今のミドリ達がやり合ったら全滅必死だ。まだ力が足りない、手を出すのはやめておこう。



◆◆◆



 ミドリは実家がある領都に戻ることにした。領都ならフルールの町がどうなったか分かるかもしれない。フーコがいれば街道を通らなくても領都を目指せる。フーコは帝国兵と出くわさないよう道なき道を走り、馬車で2週間の距離を四日で駆け抜けた。


 領都での活動拠点として孤児院で部屋を借り、フーコを預かってもらった。孤児院長は快く引き受けてくれた。宿屋の狭い厩舎だと可哀そうだからね。フーコは孤児院の庭でガキンチョたちと楽しそうに遊んでいる。


 まずミドリは親父の商会に顔を出す。


 「だだいまー」

 

 商会には親父がいた。突然のんきに現れたミドリをみると口をパクパクさせている。なんか思ってたのと反応が違う。


 「ミドリ。お前、生きてたのか!」


 死んだことになっていた。


 「危なかったけどなんとか逃げてきたよ。さっそくで悪いけど町がどうなったか分かる?」

 「まだ正確な情報は何も入ってきていない。ただ帝国は周辺の国と戦争しているのでやり口の予想はつく。兵は皆殺しで、町は略奪の限りを尽くされる。町民は捕まり別の町の親族に身代金を要求される。身代金が払われなければ帝国で奴隷落ちだ」


 最悪の情報に町長一家やギルド受付のシェリーさんの顔が頭に浮かぶ。帝国はそんなに鬼畜なことはしないのではないかと、少し期待していたミドリの考えは甘かった。


 「帝国がくる直前にハウル兄が来たんだけど、捕まったかもしれない。身代金を要求されたらどうするの?」

 「若い男の身代金相場は白金貨60枚だぞ。払えるはずないだろ」

 「それで兄さんはどうなるの?」

 「・・・おそらく奴隷にされるだろう」


 親父はそこそこ有名な商会の会頭だ、ちょっと無理をすれば白金貨60枚なら払えるはずだ。長男か次男だったら確実に払っただろう、なんというか親父は相変わらずだ。


 「俺はやることあるから。またね」

 「お、おい。それだけか?ストーブの儲けは持ち出せたのか?」


 親父の声が聞こえるが、無視して冒険者ギルドに向かった。


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