#031 身体強化バージョン2

 ミドリが村にきて1年が過ぎた。今週末もミドリとコレットとマリーは家の近くの広場でチェリーとキーウィにしごかれている。通行人が観客と化すのは相変わらずで、最近ではミドリのファンもいる。娯楽が少ない村だから仕方ないかもしれないけど、見世物じゃないからね。


 姉妹に教わった身体強化はミドリ独自の解釈で進化した。チェリーたちの体の隅々に魔力を行き渡らせるという教えだと大雑把すぎて、あまり魔力を流し込めない。そこでミドリは、細胞を意識してみた。体中に通ってる血管と毛細血管を使って栄養や酸素と一緒に魔力を細胞に送る。このイメージがハマり、体に込められる魔力の量が跳ね上がった。ミドリはこのことを身体強化バージョン2と呼んでいる。


 ミドリはふっと体の力を抜くと心臓という血液のポンプを使って一気に魔力を全身の細胞に送る。ファンタジー物質である魔力で満たされた細胞は一気に活性化しミドリの身体能力を跳ね上げる。今日こそいけるか、ミドリは前後左右とフットワークを駆使してチェリーへ斬撃を繰り出す。チェリーは最小限の動きでミドリの攻撃をいなし続け、そうしたやり取りが3分程つづくと、ミドリがへたり込んだ。魔力切れだ。


 ミドリの身体強化バージョン2は体中に大量の魔力を送れるが魔力消費も多くなるという欠点がある。細胞の魔力濃度が上がる分だけ、体から抜け出る魔力も増えるのだ。対策として体の表面に膜のようなものを作って魔力を閉じ込めようとするが上手くいかない。


 「すごいわね、1年でここまで伸びるなんて」

 「ん、ミドリは魔力操作の才能ある」


 チェリーとキーウィのお墨付きをもらった。それでも地力と技術が段違いなのでボコられることに変わりはなく、未だにミドリの短剣は姉妹に掠りもしない。高い身体能力を持つマリーですら剣ではチェリーにはかなわない。ミドリたちが成長すると同時にチェリーたちも成長してるのだ。



◆◆◆



 ミドリとコレットとマリーは冒険者ギルドで受付のシェリーさんと雑談している。最近では暇なときに行くと紅茶を出してくれたりする。


 「そういえばミドリ君、知ってる?村が町になるんだって」

 「人が増えてたし、いつまで村なんだろうって思ってた」

 「魔の森の素材の需要が凄いらしくてね、移住してくる人が増えたの」


 納品したオークの睾丸をコロコロしながら話すのは止めて欲しい。


 「町になったついでに名前も正式に決まったみたい」

 「どんな名前?」

 「フレミング王国のウエストウッド辺境伯領の町フルールだって」

 「お洒落な感じの名前だねー」

 「まぁ、村長の家名がまんま町名になっただけだからね」

 「そういえば、村長って貴族なんでしょ?騎士の人たちと仲良さそうだったけど」

 「あれ?ミドリ君もしかして知らない?村長って辺境伯の親戚で伯爵よ」


 騎士爵か男爵あたりかと思ってたら、結構偉い人だった。マリーとコレットもビックリしている。


 「なんでそんな人が開拓村の村長してるのよ」

 「それは王族の命令だからだって、辺境伯も信頼できない人には任せられなかったみたい」


 そんな話をしてると。


 「ミドリ見つけた。探したわよ」

 「ミドリの家に行ったけどいなかった」


 村長姉妹あらため町長姉妹がやってきた。伯爵令嬢でもある、正真正銘のお嬢さまだ。


 「チェリー、キーウィ。町への昇格おめでとう」

 「耳が早いわね、ありがとう」

 「家名が町名。なんか変な感じ」


 ちっとも偉ぶらないマイペースな姉妹だ。


 「父さんが久しぶりに夕飯を一緒に食べようだって」

 「町になったお祝い」

 「なんか恐れ多いな」

 「今更何言ってんのよ」

 「ミドリは硬派ぶってるけど母さんの胸に埋もれて喜んでるスケベ」


 そういえばそんなこともあった、よく怒られなかったな。あとコレットとマリーの視線が冷たい。ミドリはまだ11歳だからね。


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