#027 マリーの事情

 借金でとち狂った男の乱入でミドリは死にかけ、マリーのポーションの優れた有用性を証明することになった。あれから泣いて側から離れないコレットをなだめ、血で汚れた店内を掃除した。マリーは何か言いたそうにしていたが、色々あって疲れただろうから話は次の日にすることにして解散した。


 翌日の昼、昨日の面子が再び集まった。村長の手にはマリーのポーション。


 「これはポーションで間違いないのだな?」


 コクコクと頷くマリーに村長が低い声ではっきりと言う。


 「ポーションでは内臓が損傷するほどの深い傷は治せない」


 村長はポーションの分類について説明する。

 ・ポーションで打撲や軽い傷の治療。

 ・ハイポーションで骨折や内臓に及ぶ深い傷の治療。

 ・エクストラポーションで瀕死の治療と欠損部位の再生。


 沈黙、そしてラプタがクッキーをかじる音だけが響く。再び村長がマリーに尋ねる。


 「このポーションをマリー君が作ったのかね?」

 「ええ。間違いなく作ったのは私よ」

 「そうか」


 村長は眉間にしわを寄せ暫く考える。


 「この村には薬師がいない。店を村が用意しようと思うがどうだね?」


 マリーは唯一露出している目で村長を探るように見つめる。そして静かに話し出す。


 「この村に来る前に色々な街で商売してきたわ。店を構えたこともあるし、薬屋の店員になったこともある。どこでも最初は上手くいったのよ。薬には自信があるもの」


 マリーは目を伏せ続ける。


 「でもね暫くすると上手くいかなくなるの。妬まれて、嫌がらせを受けるのはましな方。部屋に閉じ込められ延々と薬を作らされたり、偉い人が出てきて無理矢理どこかに連れていかれそうになったり。だから一つの場所で商売をするのはやめたの。それからは露天商生活。こんな小娘の露天商なんてどこでも舐められて値切られて馬鹿にされてばかりだけど気は楽だわ」


 マリーが話し終わると村長は苦い顔をして。


 「辛いことを話させたな、すまない」


 深く頭を下げ、この村では誰にも手出しはさせないから安心して露天商を続けてくれと言って帰った。


 店内には三人と一羽、なんか気まずい。

 

 「ミドリは最初から私が作った薬だと分かってたのね。失礼なことを言っちゃってごめんなさい。そして昨日は助けてくれてありがとう。命の恩人ね」


 マリーはアハハと笑う。無理して笑ってるのが丸わかりだ。ミドリはマリーに自分と似たようなものを感じている。別の言い方をするとミドリの別の可能性、コレットに出会わなかったミドリ。

 ミドリが街でチンピラに商品と売上金を巻き上げられた時、声を掛けてくれたのがコレットだった。この村にきて行き詰まった時、一緒に笑ってくれたのがコレットだった。

 もしミドリが最初から【クラフト】を人前で使って商売をしていたらどうなっていただろう。親父や兄達にいいように使われていただろう。他の商人に妬まれ嫌がらせをうけていたかもしれない。 


 『コレット、ラプタ、話すよ』

 『うん!いいんじゃないかな』

 『主に任せるぽ』


 ミドリはコレットとラプタに頷くと、マリーに向かい話し始めた。


 「マリー、俺には秘密にしていることがあるんだ」


 ミドリはマリーに話した。【クラフト】という物を作るスキルを持っていること、家族に内緒で作った商品を売っていたこと、チンピラに絡まれて全部を持っていかれた時にコレットに出会ったこと、クソ親父に開拓村に送られたこと、仕方なく冒険者になったこと、ラプタに出会ったこと、そして子供だと侮って襲ってきた人間を殺したこと。


 マリーは黙ってミドリの話を聞いていた。そして話を聞き終わり再び長い沈黙。沈黙を破ったのはマリーだった。


 勢い良く立ち上がるとローブのフードを後ろにおろす。長く伸びた深紅の髪、陶磁器のように白い肌、初めて見るマリーの顔。みたことないような美少女は唇の端をニイと持ち上げ不敵に笑うと。

 

 「ミドリ、私にも皆に秘密にしていることがあるわ!」

 

 深紅の唇を開くとイーっと嚙み締めた歯を見せる。白くて綺麗に並んだ歯に、ちょびっと伸びた八重歯が可愛い。


 「私は最古のバンパイアの末裔、マリーよ」


 固まるミドリとコレットとラプタ。なんだかいい雰囲気だったのにマリーは中二病患者のようなことを言い出した。


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