#026 マリーのポーション
騒動のあと村長に事情を説明しろと言われた。万年閉店中の店内でコレットとマリーと村長が丸テーブルを囲む形で椅子に座り、テーブルの上にはラプタがちょこんと止まっている。
テーブルの上にはクッキー、ラプタには今日も大活躍だったからサービスで山盛りだ。ラプタは嬉しそうにクッキーをかじり、マリーが興味深そうに見つめている。
「粗茶ですが」
ミドリがとっておきの紅茶を出すと、村長が一息でクイッと飲む。マリーはローブのフードで口元を隠したまま紅茶やクッキーには手を付けない。
「さて、説明してもらおうか?」
ミドリは最初から事情を説明した。マリーから薬を買ったこと、次の日にマリーに会いに行ったこと、マリーが変な商人に薬の卸先を教えろと絡まれてたこと、それからは村長が見ていた通り。説明できるのはそれだけだった。
村長はミドリとマリーから一通り話を聞き終わると。
「ひとつ確認したい。ダニエルが必死になって欲しがったマリー君の薬の効果はそれほど凄いのか?」
「使ったことないからなんとも・・・」
「わたしは自分の薬に自信はあるわよ。でも薬を作った本人の意見なんて意味ないでしょ?村長さんが知りたいのは第三者の意見ってやつよね?」
品質が<特上>のマリーの薬、凄くないわけがないとは思うけど効果を実際に試したわけではない。証明したいところだけど、あいにくミドリは薬に詳しくない。どうしよう。ミドリが考えていると村長が。
「マリー君のポーションの現物はあるかね?」
ミドリは【クラフト】から昨日買ったマリーのポーションを取り出す。村長はテーブルの上に置かれたポーションをマジマジと観察していると。
バーン!
ミドリの店のドアが打ち破られ、男が入ってきた。右手に剣、左手には大きなクロスボウ、装填された矢の先を村長に向ける。焦点が合っておらず正気でないことが伺える。
「マリー、探したよ。おっと、村長は動くなよ。お前も僕のマリーを利用する気なんだろう?」
マリーは目を細めて、男を睨みつける。
「あなた、どこの誰よ?なんで私があなたの物になってるのよ」
「うるさい!お前は黙って僕についてくればいいんだ!ちくしょうダニエルのせいだ、なんで僕がこんなことを!」
男はマリーの返事が気に入らないのか激高した。
「さっき捕まったダニエルとかいう男の仲間なのね?こんなことして、取り返しがつかないわよ?」
「うるさい、うるさい、うるさい、お前まで俺を馬鹿にしやがってーー」
男はクロスボウをマリーに向け、トリガーを引く。
(まずい)
ミドリはとっさにマリーの前に鉄の盾を出すと、放たれた矢を防いだ。
「よかった、間に合った」
ザグッ!
ホッとした瞬間にミドリの腹部に激痛が走った。そーっと腹部をみると男の剣が刺さっていた。
「いやぁぁぁぁ」
コレットが泣き叫んで崩れ落ちるミドリを抱きしめる。
「なんで・・・私をかばうのよ・・・」
マリーは起きたことに理解が追い付かずに呆然とし、村長は矢を放った男を一撃で沈めミドリに駆け寄る。
「これは・・・」
村長は顔をしかめる。内臓に到達した傷は、明らかに致命傷だった。ミドリは何か大切なものが自分から失われていく感じに覚えがあった。前世で死んだときの感覚に似ていた。
「ゴフッ、コレ・・ット・・・ごめ」
「だめ!あきらめちゃだめだよ!」
『コレット!これを飲ませるぽ!』
ラプタがテーブルの上にあったポーションを咥えてコレットに渡す。コレットはポーションを受け取り、口移しで飲ませた。
・・・・・・
長いようで一瞬の間、ミドリの中で何か熱いものが駆け巡る。湯気のようなものがミドリの全身から立ち昇り、ミドリの傷が塞がった。
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