#025 薬師マリーと悪徳薬師

 ミドリは昨日マリーが店を出していた場所に来ていた。たまに店を出してると言っていたけど、今日はいるかな?いた!今日も全身ローブで目だけしか見えない恰好だった。


 「こんにちは。マリー」

 「えーっと、そうそうミドリね。こんにちは」

 「昨日買った薬なんだけど」


 ミドリがそう話を切り出すとマリーの目が曇り、詰まらなさそうな声で。


 「どうせ仕入れ先を教えろとか言うんでしょう?」 


 ミドリが否定しようとすると。


 「お、いたいた、やっと見つけたぜ。ちょっとガキは、どいてろ!」


 後ろからやってきた男がミドリを横に押し出し強引に話に割り込む。男はマリーを威圧するように睨みつける。


 「俺はヴァルタン商会のダミアンだ。商品の仕入れ先を教えろ」


 やれやれという感じでジロリとダミアンを睨み返すマリーは、こういう場に慣れている感じだ。昨日のマリーと同一人物とは思えない迫力があった。


 「仕入れ先なんてないわ、あの薬は私が作ったものよ!それにヴァルダン商会と言えば王都で有名な薬屋じゃない。なんでわざわざ私に仕入れ先を聞きに来るのよ」


 ヴァルダン商会はダミアンの親友で薬屋の共同経営者であるサブロの実家の商会だ。もちろんダミアンとはまったく関係がない。サブロ商会など誰も知らないので、ヴァルダン商会の名を語ったのだ。ただの小娘と甘く見ていたのだろう、ダミアンはポカンとした表情をする。そして、マリーに虫けらを見るような目を向け言った。


 「はっ、一発でわかる嘘をつくな。お前みたいな小娘があんな高品質な薬を作れるわけがない。だいたい、こんな村に来る薬師なんかいるわけないだろ」


 失礼なおっさんだ。ダミアンは周囲の村民が冷たい視線を向けているのにも気づかずに続ける。


 「薬の出所を明かせないということは後ろめたいことがあるんだろ?然るところに訴えてもいいんだぞ?」


 今度はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ、マリーを舐め回すように見ながら脅し始めた。マリーは男を睨んだままプルプル震えている、その赤い目が爛々と輝いてるような気がする。男は図星を突いたと思ったのか得意げにマリーに暴言を吐き続けること数分。そろそろかな。


 『主。もうすぐつくぽ』

 『ミドリ、無茶は駄目だよ』

 『ラプタとコレット。ナイスタイミング!』


 ミドリはわざとダミアンを挑発することにした。


 「おい、おっさん!俺が先に話してんだ。邪魔すんな」


 ダミアンは一瞬で顔を真っ赤にし面白いくらいに挑発に乗ってきた。


 「クソガキが、黙ってろ」


 ダミアンは素人丸出しの大振りパンチを放つ。思った通り自分より弱いものには暴力を振るうタイプだ。避けようと思えばミドリでも避けられるが避けない。


 ガツンッ!


 ミドリの小さな体は吹っ飛っとび、ゴロゴロっと地面に転がった。そしてピクリとも動かない。その時、野次馬の中から声が聞こえた。


 「おい、お前っ!小さな子供に何してんだ?」


 ダミアンは声の主を睨む。


 「関係ないやつは引っ込んでろ。俺はヴァルタン商会のダミアンだぞ」

 「そんなやつは知らん。それに関係ないわけあるか、俺はこの村の村長だ。暴行の現行犯でお前を裁く。大人しく縄につけ」


 まだ名もないこの村に司法のチェック機能などなく、逮捕も裁判も処罰も村長の権限でやってしまう。この村で一番的に回してはいけない人を敵にまわしたダミアンの顔色が真っ青になる。


 「ちょ、待ってください!これは、その。あの・・・」


 しどろもどろになる。


 「そう、あのガキに殴られそうになったから殴ったんです。正当防衛です」


 面白いことを言い出した。


 「そんなわけあるか。ここにいる全員が見ている」


 ダミアンは膝から崩れ落ちた。



◆◆◆



 ダミアンが村兵に縛られ連れていかれ、村長はやれやれという感じで。


 「さて。いつまで寝てるつもりだ?」


 うつぶせに倒れていたミドリはムクリと起き上がり、そして口をもにゅもにゅと動かしてペッと吐き出す。


 コロン


 折れた奥歯が転がり、ダミアンの罪状に傷害が加わった。


 (乳歯でよかった)


 そしてペコリと頭を下げる。


 「もう少しで殺されるところでした。ありがとうございます」


 あくまでもミドリは被害者を装い殺人未遂にまで罪を引き上げようとする。ラプタとコレットに村長を呼びにいかせたとか、村長が来るタイミングでダミアンを挑発したとか、わざと殴られたとか、まわりで見ている村民の前では言えない。


 「今回は大変だったな、ダミアンは責任をもって罰しよう。安心して家に帰るといい」


 村長はミドリの下手な芝居に付き合ってくれた。


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