#023 初めての〇〇

 ミドリとコレットは冒険者ギルドにいた。


 「採取した植物を納品したい」

 「さっそく採取してきてくれたの?どれどれ」


 受付のナンシーさんは丁寧に手際よく確認していく。


 「すごく状態がいいわね」


 コレットの【時空庫】は時間の経過が遅いことは秘密だ。


 「お待たせ。金貨8枚でどうかしら。種類も量も多かったからサービスよ」


 植物の採取がお金になるというのは本当のようだ。


 「それでお願い」

 「在庫が少ないものもあったから助かるわ。また持ってきてね」


 ミドリは受け取った金貨を【クラフト】で取り込む。はたから見ると【倉庫】に取り込んだように見えるだろう。



◆◆◆

 


 翌日、ミドリたちは魔の森に向かった。今日は装備の点検とゴブリンを相手に戦闘訓練をする予定だ。


 ヒュン!ビーーン・・・


 コレットのクロスボウが放った矢が木の幹に刺さる。狙った場所から20センチ横にずれている。


 「思ったところに当たらないよー」


 コレットはうんうん唸りながら次の矢をボウガンに装填する。


 ギリギリギリッ


 ミドリはパチンコの紐を引く。ゴムに似た素材の紐はかなり丈夫で伸縮性も十分だ。銅の弾を発射する。


 バキッ!


 木の幹の狙ったところに命中する、いい感じだ。8メートルくらいの距離なら狙ったところに命中するようになった。ミドリがパチンコの使用感に満足していると。

 

 『誰かいるぽ』


 ラプタからミドリとコレットへの念話、珍しく慌てている。ミドリたちから見えないが離れた場所に誰かいるらしい。


 さりげなく向きを変えて歩いてみるも、向きを変えてミドリの後をついてくる。確実につけられている。


 『みんなは手を出さないで』


 ミドリは背後を向くと。

 

 「何か、用?」

 

 後ろの見えない誰かに声をかけると、木の陰から姿を現した。すごい細身で目つきの悪い男だ。


 「驚いた。【追跡】には自信があったのに、どこから気が付いてた?」


 ミドリは答えずに男をジッと見つめる。男は大げさに両手を横に開いて、


 「おいおい、そんなに警戒するなよ。先輩冒険者が可愛い後輩に冒険のノウハウを教えてやろうと」

 「それなら村で声をかけるよね?」

 「ちっ、可愛げのない」


 男は言うと同時にダッシュで接近してきた。ミドリはパチンコで弾を放つもあっさりと避けられる。男はミドリの首を掴むと力任せに木に押し付けた。


 ゴホッ


 ミドリの息が詰まる。男は顔をミドリに近づける、息が臭い。


 「採取で稼いだのは知ってるぞ、見てたからなぁ。金をぜんぶ【倉庫】から出せ。あと植物が自生してる場所を全部吐け。そしたら殺すのだけは勘弁してやる」


 確実に嘘だ。ミドリが村に戻って話すと問題になる。この男は金と情報を奪ったらミドリを殺すだろう。そしてコレットも殺すだろう。


 「・・・わかった。わかったから手を放して。【倉庫】が使えない」


 男はニヤリと笑いミドリを地面に叩きつけ、ナイフを突きつける。


 「変な動きしたら殺すからな。そこの女もだ」 

 「ゲホッゲホッ。わかったから。倉庫を使うから集中させて」

 

 ミドリは地面に両手をつく。男に土下座をするような恰好だ。男はミドリが金を差し出すのだと確信しニヤリと笑う。


 (クラフト!)


 男が勝利を確信した瞬間、立ってる地面が消えた。男は直径2メートル深さ4メートルの穴に落ちる。


 「ガハッ」


 突然4mの高さから落ちた男は上手く着地できなかった。膝が曲がってはいけない方を向いている。


 「痛ぇ!魔力を込める気配がなかった!【倉庫】でこんなでけぇ穴を瞬時に掘るなんて不可能だ!なんなんだ、お前!」

 「これ【倉庫】じゃないから」


 ミドリはパチンコの紐を引き男に狙いを定めると、男の顔色が青くなる。


 「待て!悪かった。謝るから許してくれ」

 

 銅の弾を放つ、至近距離なので威力は十分。


 「ギャアーーー」


 目に命中し眼球が潰れた。ミドリは機械的に再びパチンコの紐を引き男に狙いを定める。男は残った眼でミドリを見ると顔色蒼白になり失禁した。


 「おい!殺す気か?分かってんのか?死ぬんだぞ?」


 銅の弾を放つ、ひたいに命中。鈍い音がした。男はビクビクッと痙攣すると動かなくなった。


 「・・・・・」


 ミドリは男が動かなくなるのを確認すると、全身の力が抜け、その場にへたりこんだ。


 『主。大丈夫ぽ?』


 ラプタが地面に降りてきてミドリを心配そうに見つめ、コレットはミドリの頭を抱きかかえる。ミドリは何度も繰り返す。


 (殺されるから殺した。俺は悪くない。大丈夫。大丈夫)



◆◆◆



 ミドリは穴を埋め村に戻り家のベッドで死んだように眠った。

 

 次の日、目が覚めたときには辺りは暗くなり始めていた。隣にコレットが、枕元にラプタが寝ていた。ラプタを撫でる。コレットを撫でる。

 

 グーーー


 お腹が鳴った。こんなときでもお腹はすくんだな、なんか可笑しかった


 晩飯を用意する。とっておきのオークのステーキを焼く。ラプタには心配をかけたお詫びにアンさんのクッキーを山盛り。みんなで一緒にモリモリ食べる。


 美味しい。味がする。うん、大丈夫。


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