#014 開拓村の子供店長
村にはまだ店舗が少なくロイド商会の看板が掛けられた支店はすぐに見つかった。前世のコンビニより小さい、駄菓子屋くらいの規模の店だ。店は閉まっている。外は薄暗いとはいえ、閉めるのには早い時間だ。店の中をのぞき込んだコレットが言った。
「なんか変だね」
「そうだな」
ミドリは貰ったカギを使って店の中に入る。10畳ほどの店舗スペースには商品が一つも並んでいない。カウンターの後ろのドアから奥に進むと、そこは倉庫や生活スペースになっていた。商品や家具は一つもなかった。
「隣の店で聞いてくるねー」
コレットが外に飛び出し、ミドリも後に続く。隣の雑貨屋の小太りの店長に挨拶して状況を聞いてみる。
「坊主がロイド商会の新しい支店長なのか?嬢ちゃんじゃなくて?まだ小さな子供じゃないか。前の支店長はもういないよ。一年だけの約束でこの村にやってきたのにいつまでたっても迎えが来ないから夜逃げしたよ」
(あの親父め。話が違うじゃねーか)
いきなり途方に暮れるミドリとコレットだった。
「疲れたね。今日はもう寝ようか」
その日は店裏にある住居スペースの床の上に眠ることにした。暑い季節で助かった。とはいえ夜になると少し肌寒く、コレットが無意識に抱きついてきた。平気そうに見えるコレットも不安なのかもしれない。ミドリもコレットに抱きついて眠った。
◆◆◆
翌朝、店の前にて。
「いててて、床に寝るのは初めての経験だったよー」
「ワラでも敷くべきだったな」
ミドリとコレットは笑顔でコリをほぐしながらこれからどうするか話し合う。まずは生活するために日銭を稼ぐところから始めなければならない。支度金としてクソ親父から金貨を5枚貰ったが、全然足りない。多少は現金を持ってきているのでそれでやりくりするしかない。無駄使いしなくてよかった。
とりあえず現状を確認する。コレットに預けた商品はほとんど街で売ってきたので在庫は残り少ない。ミドリは鉄の武器を2個同時に【クラフト】中。MPを素材にしての鉄の武器の【クラフト】には丸1日かかるので商売をするには物足りない。
この村での商売のノウハウは従業員に教えてもらう予定だった。そしてその従業員は夜逃げしていない。コレットの虎の威(教会)もこの村では役に立たない。二人は店を出た。
「わからないことは人に聞くしかないよ」
「あと市場調査だな」
商業区には色々な商人がいる。店舗で売る人、露店で売る人。武器を売る人、薬を売る人、食べ物を売る人、雑貨を売る人。
雑貨を売る露店を覗いてみる。木のコップや皿が銅貨3枚、銅のコップや皿が銅貨13枚だった。この村の平均的な大人の稼ぎが一日銀貨4枚。一回の外食が銅貨5枚。この村の物価や賃金はミドリたちがいた街より3割くらい高かった。魔の森からとれる素材のおかげで景気がいいそうだ。
そして最大の誤算が発生、この村の店舗や住宅は全て貸借物件だった。店舗を借りてる人は定期的に村に賃貸料を払わないといけないらしい。理由は、まだ正式な村ではなく開拓村だから不動産の所有を制限しているそうだ。ミドリとコレットは村役場へ向かった。
前支店長は店舗兼住居の賃貸料を滞納していた。賃料は月に金貨8枚、滞納金を含め総額金貨40枚、ミドリが代わりに滞納金を払った。村役場の職員さんは親切でミドリが事情を話すと面白い提案をしてきた。ロイド商会の支店は破綻したことにして新しい商会を立ち上げた。もうあのクソ親父には頼らない。新しい商会の名前は、ミドリ商会。なんの捻りもなかった。
村役場を出た時には午後三時を過ぎていた。残りの時間で生活必需品を買い揃えることにした。夜店で買ってきた食事をテーブルに並べて遅い夕食。明日から本気出すと言い訳して大奮発した。
「わぉ、この串焼き美味しいね」
「こっちのスープも旨い」
「あ、酒のんでる?俺も」
「13歳になったら飲むって決めてたんだー。10歳児にはあげないよー」
状況はあまりよくない。だけどこの家で二人で初めて食べるご飯は特別な感じがして楽しかった。床の上に敷いた布団に寝転がりこれからのことを考える。ミドリは前世を含めた知識を総動員する。
リバーシーを作る?
開拓村にゲームで遊んでる余裕はない。この国は隣国と魔物の脅威に対抗しているのだ。街の貴族でもそんな余裕はないだろう。
美味しい食べ物?
今日の夕飯おいしかったよなぁ。
前世でゲーム漬けだったミドリに大した知恵があるわけがなかった。でも殆どの前世の現代人はこんなものだろう。スマホや車を一から設計してハードやソフトも自分で作って完成できる人などいない。
知恵がないなら異世界ものの定番でいこう。あるかな?冒険者ギルド。
コレットはミドリをギュッと抱きしめクークーと眠っていた。
「コレット。おやすみ」
ミドリは静かに呟いた。
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