#012 魔物の洗礼
開拓村への旅7日目の夜。ミドリとコレットは街道沿いの野営地でテントの準備を手伝っている。手伝いも様になってきた。
キンコン カンコン
あちこちでテントを設営する音が聞こえる。今回の旅は親父の商会を含め全12商会による大規模な商隊となっている。規模が大きい分だけ護衛の質はよく、人数も多い。おかげで比較的安全に旅が出来ている。たまに護衛の人が話しかけてきてロナウドさんが対応する。今も明日の予定を確認している最中だ。
ミドリとコレットは石を積み上げただけの簡単な竈を作って料理の準備をする。今晩は野菜スープだ。昨日は野菜スープだった。明日も野菜スープだ。もくもくとジャガイモの皮をむく。
「ミドリ君とコレットちゃん。こんばんわ」
話しかけてきたのはスージーさん。開拓村で店を任され商売をしている、食肉を扱う商人さんだ。街の本店に食肉を卸して開拓村へ帰る途中らしい。商隊に唯一の子供が珍しいのかミドリによく話しかけてくる。
「なに作ってんの?」
「・・・野菜スープ」
「ちゃんと肉とかも食べてる?」
「肉は苦手なんだよ」
この世界の肉は生臭くてミドリは苦手だった。
「そうなの?ちょっとまってて」
スージーさんは自分の馬車に戻って何かを持って戻ってくる。
「これを食べてみて。サービスだよ」
燻製肉だ、ミドリの顔が歪む。断るのも悪いのでひとつまみ頂く。コレットは興味深そうにひとつまみ口に入れる。少し硬いがミドリの子供の歯でも噛み切れる。モグモグと味わう。ん?これは、
「美味しい!」
「うんうん。肉も最初に綺麗に処理すれば美味しくなるんだよ。だから好き嫌いはダメ」
得意げに胸をはるスージーさんの凶器がボヨヨンとゆれる。ミドリは唖然として凶器を見つめる。ジックリ見ても10歳なので許される。ただ気のせいかコレットの冷たい視線を感じるだけだ。
燻製肉はミドリが今まで食べた肉の中で断トツに美味しかった。前世の市販のハムなんかより美味しいくらいだ。俺も魔物が狩れるようになったら作りたい。
「これは何の肉?」
「オークだよ、ちょびっと高級品だね」
再びミドリの顔が歪む。オークは豚のような人型の魔物。ゴブリンにオークにオーガと人型の魔物は人間の女性をさらってエロイことをする。そして男をさらってパクパクする。
(肉食なのになんで美味しいんだよ)
豚補正なのか?まだこの世界の常識に慣れてないミドリだった。
◆◆◆
開拓村への旅13日目。あと2日程で開拓村に到着する予定だ。すでに道も舗装されてなく馬車の揺れがひどい。ミドリは何度か食事を戻してヘロヘロだった。
「ミドリ、あと少しで開拓村だから頑張んな」
ロナウドさんが励ましてくれる。しかしこういう時のあと少しは当てにならないことをミドリは知っている。そんな時、
ピィーーーーー、ピィーーーーーーー
商隊の先頭から笛の音が聞こえてきた。そして護衛の声。
「敵襲だ!!ゴブリンが多数」
ロナウドさんは御者台の陰に隠していた槍を取り出す。
「ミドリとコレットは馬車の中に隠れてな」
ミドリとコレットは前もって決めていたとおりに馬車の中に隠れる。そして馬車の隙間から外を覗く。
背が低い人型の醜い魔物が前方の馬車を襲っていた。話に聞いてた通りの姿形をしている、ゴブリンだ。護衛の冒険者が剣でゴブリンの喉を切り裂く。
「ゴブリンめ。多いぞ。上位種も交じっている。注意しろ!」
冒険者がゴブリンを次々と仕留めながら叫ぶ。ゴブリンは魔物のくせにボロボロのナイフを握って馬車を襲っている。ニヤニヤしていて気持ち悪い。
(知能あるのか?)
ミドリは馬車の中で荷箱の陰に隠れて震える。ミドリの頭をギュッと抱きしめるコレットも震えていた。ミドリより3つ年上といっても魔物と遭遇したことがないから当然だろう。
ドンドンッ! ドンドンッ!
馬車の後部ドアが何者かに叩かれる。おそらくゴブリンだ。怖い。
(御者台側から逃げるか?)
でもさっきからロナウドさんの声がしない。ミドリは【クラフト】から木の短剣と丸盾を取り出して装備する。
ドーン!
ついにドアが破られた。そこにはゴブリンが一匹、コレットを見るとニヤリと顔を歪めた。コレットは女の子だから守らなきゃ。カタカタと短剣が震える。
「あああーーーー」
ミドリは盾を構えたままゴブリンに突進する。ゴブリンは逆に体当たりをかます。ミドリの軽い体が吹っ飛ばされた。
(ちくしょう。似たような大きさの相手にあっさりと弾き飛ばされた!)
「うわぁ。こっちくるなー」
無防備なコレットにゴブリンが襲い掛かろうとする。しかし動きが止まり、ズルリと崩れ落ちる。背中には剣で切り裂かれた傷跡から血が噴き出ている。ゴブリンを切り裂いた冒険者は次の獲物を探しにいった。
暫くすると外が静かになった。馬車の外に出ると御者台のそばで血だらけのロナウドさんがうずくまっている。
「ロナウドさん!!」
「ぐぅ!大丈夫だ。ゴブリンは追い返した」
ロナウドさんの顔は真っ青で汗が噴き出ている。左腕に大きな切り傷がある。出血が凄い。
「おい。大丈夫か?ちょっと見せろ」
護衛の人が数人でロナウドさんの容体を見る。結果、ロナウドさんは命をつなぎ留めた。左腕を犠牲にして。
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