#005 チンピラと少女

 ミドリは家から徒歩10分ほどの距離にある露天商が集まるエリアにいた。ここには街中から雑貨や野菜や家庭の要らない物などを売りたい人が集まる。

 さっそくゴザを敷いて木製品を並べて値札を貼っていく。前世にあった学校のバザーみたいでワクワクする。せっせと大きめのリュックから商品を取り出す振りをする。【クラフト】のことは絶対に秘密だ。

 商品は市場価格の3割引きで売ることにした。ミドリが子供なので安くしないと売れないだろう。あと早く小遣いが欲しいという事情もある。

 さっそく主婦らしき女性が商品に目をつけ細部を確認している。


 「家の手伝いかい?えらいねー。物の作りはしっかりしてるし安いしいいね。そこの皿を五つもらえるかい」

 「ありがとうございます。コップをひとつおまけしときますね」

 「しっかりした子供だねー。また買いに来るよ」


 好調だ。飛ぶように売れる。

 そんな時。


 「おい坊主。誰に断ってここで店を出してる?」


 明らかに堅気じゃない二人組がやってきた。ひょろこい若い男とがっしりした中年の男だ。


 「えーっと。ここで店をだすのは自由だと聞きましたけど?」

 「ガキだからしらねーかもしれねーが、ショバ代を払え」

 

 若い方の男がわけき散らす。ミドリのテンションはダダ下がりだ。ここにもいるのかゴキブリとチンピラ。

 どうでもいい話だがこの世界にもゴキブリがいた。奴らは世界を超える存在なんだろうか。


 「すみません。知りませんでした。帰りますね」


 思ったより稼げたからいいや。ミドリはいそいそと撤収の準備をする。中年の方の男はミドリの胸倉を掴んで凄んだ。


 「ガキがなめとんのか?それなら今日稼いだ金を置いていけ。あと商品も全部な」


 ミドリはリュックごと商品と一日の稼ぎ全てを持ってかれた。周りの人たちは遠くで見てるだけだった。俺でもきっとそうする。取られたのは木製品の一部だし。銅製品を出してなくてよかった。

 悔しいけど次のことを考えよう。この街の治安ってどうなってるんだろう?衛兵みたいな人たちっていないのかな?バックがいなきゃ商売できないのかも。ミドリはトボトボと歩きながら考える。


 「おーい」

 「・・・・」

 「もしもーし」

 「・・・・」

 「そこのキミー」


 ミドリはやっと呼ばれているのに気が付いて顔を上げる。声をかけてきたのは少し離れた場所で店を出している少年、いや少女だった。

 茶色のショートヘア、優しそうに垂れた茶色の瞳。茶色い半ズボンに白い修道服のようなシャツを着ている。微妙に膨らんだ胸がなかったら少年と間違えていただろう。


 「残念だったね」

 「初めてだったし世の中こんなもんでしょ?」


 少女はミドリの答えが意外だったのだろう。目を丸くして、ミドリをジッと見つめる。


 「キミー、面白ねー」

 「そうかな?君は面白くないね」


 チンピラのせいでミドリはご機嫌ななめだ。

 今度は何が面白かったのだろう。少女は腹を抱えて笑う。


 「ひぃひっひー。ゴメンね。僕はコレット。君の名前を教えてよ」

 「・・・ミドリ」

 「ミドリか。ちょっとお話しようよ。店をかたずけるから少し待っててね」


 マイペースな少女コレットは勝手に決めると店を片付け始めた。


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