第5話 見習い魔術士の旅立ち

「ただいま帰りましたー」「ただいまー」

家に帰ってきたカインとルーカを、リークが玄関で出迎える。

「2人ともお帰りー。一緒なんて珍しいね」

「帰りにばったり会ったもんで。今日はこの後どうすんだ?」

「うーん、特に何も。好きにしていいよ。僕も特にやることないし」

「あ、なら裏庭行っていいですか?」

裏庭には魔法特訓用のかかし的な何かが置いてあった。つまりカインは魔法の練習をするつもりということ。

「どうぞ〜」「頑張るなぁ」

当然師匠と先輩がそれを止める訳もない。カインは嬉々として裏庭へ駆けていった。


数時間後。

「カイーン?」

「…随分長いことやってるな。飯だぞ」

「えっ!?ご飯!?」

「食いしん坊か…もう3時間は経ってるぞ。ちゃんと回復してから来い」

「まじすかぁ…」

夢中になりすぎるがあまり、時間を忘れていたようだ。カインは慌てて道具を片付けると、ダッシュで食卓へ向かった。

「だから休めって…全く。ん?」

ルーカはふと、カインの置いた道具を見る。

カイン達は手で魔法を発動する「独力魔法」を使う為杖は持っていない。カインが置いていたのはメモ帳や筆記用具だった。中にはずらっと魔法の威力や発動時の消費魔力、さらにはどのように使えば効果的かまで書いてあった。

(…驚いた、それにしても正確だ。誤差はあるがせいぜい1割程度。教えた記憶は無いし何度も書き直されている。あいつは「自力で考察して」これを書いたわけだ。)

ルーカは改めて、カインの魔法にかける熱意に気づき、笑うしかできなかった。

正直彼の熱心さは不思議だ。魔法なんて教えられた物をその通りに使えば良い、という人も多いのだ。彼は魔法の使い道まで考えている。ルーカの気づかなかった使い道まである。

「おーいルーカ!冷めちゃうよー!」

リークの叫びで我に帰ると、ルーカは慌てて食卓へ戻った。


三人は取り止めのない会話をしながら食事をとっていた。

「そういや、そろそろ学園は夏休みだっけ?」

「そろそろどころか明後日からですよ」

「えっ!?そうだっけ!?」

「ちゃんと言ったはずだが?」

「やべぇ完全に忘れてた…」

そういうと、リークは食事中にも関わらず立ち上がり、自分の部屋へと駆け込んだ。

「何かありましたっけ?」「知らん」

2人は気にせず食事を続ける。しかし戻ってきたリークから告げられた内容に、2人は耳を疑う。

「この夏休み、2人にはこの家に帰ってくる事を禁止します!!」

「………は?」「えぇぇぇぇーー!?」


「どういう事ですか!?てか何で急に!?」

「落ち着けカイン」

「まぁ混乱するとは思ってたよ」

リークは食卓に座ると、二人の前に一冊の本を置いた。

「これは?」

「僕が考えた夏休みの宿題!二人用の!」

「宿題…これまたガキみたいな…」

「ガキとか言わないのー。第一本当にちっこいのいるからね、うちは」

「ちっこい言うなーー!」「いやちっこい」

それもそのはず、カインはまだ15歳。それに対しリークとルーカはとうに50歳を超えている。なお見た目は20〜30代くらいである。獣人族は長命なのだ。

「それはともかく!」

リークは手を叩き、逸れた話を引き戻す。

「シドゥア学園って夏休みが凄ーく長いから、ほとんどの人が遠出するって聞いたんだよね。だから二人にも旅に出てもらおうかなっと!」

「だから家帰ってくんなと?」

「うん、二人多分家事できないでしょ?嫁入り修行みたいなものだよ」

「誰が嫁じゃ」

「確かに男っ気なさそう…いった!!」

ぼそっと呟いたカインの頭をルーカがチョップした。

「折角だし独り立ちの練習だと思ってさ。あ、お金なら出る時にある程度渡しとくからね」

「期間はどんくらい?」

「夏休み終わるまでかなー。確か学園からの宿題はないでしょ?思う存分楽しんできてねー」

「楽しめるかなぁ…」

ため息をつくカインにリークはあはは、と笑う。

「さて、二人とも食べ終わったっぽいし、個人で話あるから一回ルーカ出てってもらえる?後で呼びにいくから」

「了解。なら皿洗っとくよ」「お、さんきゅ」

そういうとカインは魔法で机上の皿を全て台所へ運んだ。

「じゃ、よろしくー」「多いなぁ…はいはい」

ルーカは面倒そうに立ち上がると、台所へ歩いて行った。

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