第4話 天才ゆえの苦悩

学園で流行っている「魔法バトル」

自分の使える魔法を使って相手をフィールドから落とすか倒れさせる、という相撲のような遊びだ。

昼休み、多くの男子生徒はこの遊びに明け暮れる。その中。

「勝負あり!」

「くそー、また負けた!!」

カインとクラスメイトもそこにいた。

「もうカインに敵うやついねぇよ」

「えへへ…」

確かにこのクラスでカインは最強だった。純粋な魔法戦闘で彼に敵うものはいない。(ただし勉学だと勝るやつが数名いる)

「カインは将来六大魔術師になりそうだな」

「それな!絶対将来安泰だよ!」

「へへ、リーク様の元で修行してるのもそれが理由だしね」「ファイト!」

次代六大魔術師の最有力候補の1人。その肩書きはこの国の王と同じくらい強いものだ。


側から見れば彼に悩みなど見えない。生まれ持った才能と、現六大魔術師の元での修行の成果。しかしそれでも、彼は悩んでいた。

『自分の限界はどこにあるのか?』

リークに教えてもらった魔法はほとんど扱える。授業で習った技能もすぐ習得した。おまけに魔法の完成度も高い。

彼は紛れもない天才だ。それ故に出来ない事を知らない。流石に属性の関係でできない魔法はあるが、クラスメイトのように『技術のせいで出来ない』事を知らないのだ。

そこに加えて、師匠であるリークからの一言もまた彼を悩ませていた。

「カインは天才だけど、天才だけじゃ魔導師は務まらないんだよね」

(技術だけじゃ六大魔術師にはなれないって事かな?でも何が足りないんだろうな…知識?教えられるだけの話術?…あー限界が知りたいな。そしたら天才じゃなくなるし、何か分かるかも………)

そんな常人とは違う悩みを抱えながら、日々を送っていた。


帰り道。

シオと別れた後、丘に登るカイン。彼の住む家は丘の下にあるが、ここで黄昏れるのが彼の趣味だった。

(ここは唯一、僕が一般人で入れる場所。外はどこでも天才ってもてはやされるからな…)

空を仰ぐと、自分が小さな存在にしか思えなくなる。それが逆に、今の彼には心地よかった。

(天才だけで六大魔術士は務まらない…か。何か引っかかるんだよな。魔法が使えるだけじゃ駄目なのかな?あとは何が足りないのか…)

「あ?カイン?どうしたこんなところで」

「え!?ルーカさん!?」

寝転がって考えていたカインに学校帰りと思しきルーカが話しかけてきた。昼の事もあり若干の気まずさを覚えるカイン。

「えと…き、休憩です」

「なるほど。なら隣失礼」「!?」

ルーカはよっこらせ、とカインの隣に腰を下ろすと、芝生に寝転がった。

「いいなここ。夕空が綺麗だ」

「夕空…夕焼けじゃなくてですか?」

「あ、悪い、今は夕焼けか」「???」

「そういや何でここに?よく来るのか?」

「うーん…」

一瞬悩んだが、カインはルーカに事情を話した。ルーカが答えを教えてくれないかと、どこか期待していたから。ところが一通り聞き終えると、ルーカはため息をついた。

「どうせ答え期待してんだろ」「うっ」

図星を突かれ、たじろくカイン。ルーカは目敏く気づくと、やれやれといった感じで言葉を続けた。

「悪いが私にも分からないし、仮に分かったってそれを言う気もない。」

「何でですか?」

「その問いに明確な答えがないから。そういうのは答えを自分で探すのが一番大事なんだよ。だから悩んでた方がいいな」

「うーん…そんなもんなんですかね」

「そんなもんさ。学校の授業とはまた違うんだからな。」

腑に落ちない顔のカインを横目に、ルーカは立ち上がると、遠くを見つめる。

「…私も、師匠から魔法以外のものが足りないと言われた事があったな」「そうなんですか?」

「あぁ。今でも答えは分からん。けどまぁ、答えを探すのも悪くないと思ったかな」

「ふーん…ところでその師匠って?」

ルーカは振り向くと、珍しくイタズラっぽい顔で「ひみつ」と言った。

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