第39話 紫骸鎧の弱点

 突撃してくる紫骸鎧達は別段姑息ナイトみたいに喋る事はなかった。無言で突っ込んで来る鎧達、ある意味怖いですな。


 まあその紫の鎧が動く度にガッシャンガッシャンうるさいから何か言っていても全く声が届いていないだけかもだけど。

「よっ用務員の人! 流石にあの数を一度に相手にするのは無理だ! 引くべきだ!」


「いえいえっその必要はありませんよ」

「………は?」

 用務員の人ってなんだよ、まあおっさんよりもマシな呼び方だと思う事にするさ。


 用務員おじさんは迫る紫軍団に魔法を発動する。

 『夢幻光むげんこう』と言う魔法だ、用務員おじさんの手から光が放たれる。その光を浴びた紫骸鎧達に変化が起きた。


 突撃を辞めてその場にボ~ッと立ち尽くす者。

 隣の鎧と肩組んで踊り出す者やケンカをし出す者まで現れる。

 それを見たアルティエはあ然としていた、そろそろ種明かしといきますか。


「あの騎士の魔物は物理的な攻撃も攻撃魔法にもかなり強い、しかし精神を攻撃する魔法や幻術と呼ばれる類の魔法には驚く程弱いんですよ」

「そっそうなのか?」


 ゲームでの設定ではね。どんな物理攻撃もどんな魔法も効かない敵キャラとかいたら完全にバグキャラである、何かしらは必ず弱点があるだろうと思って試してみた。まさかここまで効果があるとは用務員おじさんも驚きである。


「…………ん? それじゃあなんでそこの魔物には攻撃魔法を?」

「もちろんディアナ先生にした行いへの罰ですが、それが何か?」


「へ、へぇ~それはまあ? 色々と気になる話ではないかと…」

「そうですか?」

 一体何が気になると言うのだろうかこのEカップマジシャンは。まあその話も後回しである。


 何しろ一番の大物が控えているからな。

 いつの間にかこちらに接近していた紫骸魔道騎士のエコーとかいう騎士団長である。声からしてこちらも女性だと思われる。


 何しろFカップデュラハン様であるからだ。


「よもや我が騎士団を一人で……やはり人間は見た目だけでその強さを判断は出来ないわね」

「魔物が騎士団を作っているんですか? ならこちらも魔物と言う存在への考えを改める必要があるみたいですね」


 騎士団長様はディアナの方をチラリと見て何やら説明をしだした。

「そちらの女性ですが、別に死ぬことはありません。ラナミスの拳銃の弾丸は当たった者に速効性のある気絶を付与する魔法ですから」


「命に危険はないと?」

「魔物の言う事は信じられませんか?」


「……いいえ信じましょう」

「用務員の人!?」

 アルティエが信じられんって顔で見てくるので倒れてる姑息ナイトの方を指差す、見ればそのラナミスとやらが『えっなんで言うの?』て顔をして騎士団長様を見ているのだ。


 多分あの顔は騎士団長様の言うことがマジであることを物語っていると用務員おじさんは判断した。

 無論魔法で安全の確認だけならとっくに終わっていたりする。


 だからこそ冷静に目の前の騎士団長様の言葉を聞けているのだ。ならばこちらに争う理由はないのだが……向こうからは殺気とは違うが闘気が薄れる気配を感じないのだ。


「そちらの二人から少し離れましょうか」

「やはり戦うと?」


「当然よ、部下をここまでやられて動かない訳にはいかないわ」

「………分かりました」


 まあ向こうもやり合うつもりだったのはラナミスの行動を見れば分かる、相手が強そうだからやっぱり辞めましょうとか言い出すようなら逆に信用は置けないヤツだって話しかならない。


 お互いに向かい合い約十メートル程の距離を取る、アルティエ達からはそれなりに離れているので多分大丈夫だろう。


「正直こちらはもう切り上げたいのですが?」

「あら、私が怖いのかしら?」


「勿論です、貴女はこのダンジョンで出会った者の中で二番目に強い。本来なら戦うなんて選択肢は取りたくありませんよ」

「素直ね、けど油断は期待しない事ね」


 それは残念です………な!

 俺は『音速の歩法』を発動、一気に接近する。

 エコーは両手を動かすと何処からともなく一本の漆黒のハルバートが手元に現れた。


 それを手にしてこちらの動きに反応してきた、やはりその戦力はその他の段違いである。

 こちらは『魔装手甲』と『魔装足甲』と言う魔法を発動、魔力を手足に纏い素手でも武器とやり合える様にした。

 間合いに入った瞬間ハルバートが高速で振るわれた。


 『音速の歩法』はその速さに反応出来る者にしか扱いきれない魔法だ。ぶっちゃけ本当に音の速さで動いているのかと言われると分からんとしか言えない、しかしかなりの速さだ、それはもうマジで速いのである。


 その速さで移動する用務員おじさんの頭を的確に狙ってくるハルバート、こっちは魔法で物理、魔法耐性を上げた手で打ち払う。

 ハルバートの刃よりも内側に入り込んでいたので何とか防げた、しかし打ち払ったら逆の方をそのまま振るってきた。


 片手で払える速度じゃないな、手の平から小さな『魔障壁』を出してハルバートを受け止めた。

 エコーがハルバートを持つ右手の人差し指を俺に向けてきた、まさか……!


「……『紫電の閃光』」

 コイツ、弱点の筈の雷魔法を使いやがったよ。




 

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