第35話 浅学菲才

 土のかまくらの中にて、用務員おじさんは六人のお貴族様(と言うかチンピラ)に絡まれていた。


 針のむしろとはまさにこの事だ、何か一言言えば六人がそれぞれ倍以上の嫌みを言ってくるのでちっとも話が前に進まない。

 どうして自分は賢いって思ってる連中って同じような、且つ自分が自分がみたいな話を繰り返し言ってくるんだろうか。


 逆に壊れたパソコンみたいで滑稽なので辞めていただきたい。あまり広くもないかまくらの中で複数人の野郎連中と会話するのも疲れる、用務員おじさんとしては何でこんなヤツらを気づかって攻略を辞めさせようとしてんのか分からなくなる。


 しかしこれまでベルフォード学園で生き抜いてきた用務員おじさんは知っている、ここは下手に出て敬語で対応する事を繰り返していくうちに見えてくる物もあると。


 要はコイツらディアナのファンクラブ会員様ってだけである。勿論そんなものがある訳ではない、単純にディアナに対する好意が強めの野郎連中が集まって何故か意気投合しているらしい。


 普段どんな会話をしてるのかを録音してディアナに聞かせたらどんな顔をするんだろうとか、悪魔的な発想をする、まあしないけど。


 ディアナに対する態度や言葉づかいは紳士的なのだろうがそれ以外の……つまりここでも用務員おじさんとかは例外として扱われる。嫌われるのは慣れてるのでいいけどね。


 会話をする方法としてはディアナを話題に出して彼女を褒めたり持ち上げたりしながら彼らの友好的な感情を引き出す所から始まった。

 あまり親しいとアピールすると機嫌を損ねるのでそこの加減には気をつける、まあディアナと親しくしてる訳でもないので問題はなかった。


 流石にあのレベルの美人にアタックするとか、この歳じゃあね。まあアホトーク教師陣の中には俺と大差ない歳の連中もいるけど。


 とにかく話は自分は単なる用務員おじさん、そしてディアナは素晴らしく懐が広く、慈悲深い美女様であるので単なる用務員の自分も無下な対応はしないのですよ云々。


 そんな感じの話をすると、アホトーク教師陣はアホなので途端に態度をディアナに倣って変化させてきたりするのだ。


 そこからは話もトントンと進んだ、流石に用務員おじさんがディアナにさっきまでの言葉づかいとか態度をバラす事も可能性としてあると思ったのかこれまでの話は置いておいてっと言う流で話はバリーとダンジョン攻略について移っていった。


 取り敢えずバリーの名前は出さないでおこう、ダンジョン攻略についての危険性について話をする事にした。


「聞いた話ですが、何でもダンジョン攻略に本腰を入れるとか。私にはそれはあまりにも危険な事だとしか思えなくて、そこでベルフォード学園で教師を務めてる先生方に話を聞いてみたいと思ったのです」


「……成る程、何の力もない浅学菲才の身の上でこの様な場所に来て更にそんな話を聞いては過度に反応するのも分かるな」


 浅学菲才せんがくひさいって自分じゃなくて他人に向かって使うヤツとか始めて見たぞ。

 ちなみに浅学菲才ってのは知識が浅くて未熟、そして自分には才能が欠けているとへり下って言う言葉として普通は使われるヤツね。


 間違っても他人に向かって言う言葉じゃないよそれ? お前が俺の何を知ってんだよって話ですよ。


「……しかし案ずる必要はない、正直私達も今の状況でダンジョン攻略を本気でしようなどとは思っていない」


「そうなんですか?」

「当然だ、ダンジョンは本来なら装備も持ち込むアイテムも入念に検討して準備をした者が挑む場所だ。今のまま攻略などまず不可能だろう」


「それではダンジョン攻略と言うのは間違った情報だったのですか?」

「いやっ実は少し困った生徒がいてな」

 困った生徒?

 ………まさか。


「少し前にディアナ先生に向かって暴言を吐き散らかし、更には攻撃魔法まで使った愚かな生徒がいただろう? そいつが今回のダンジョン攻略を唱えているのだ」

「……………」


「それでまあ、我々としてはいい加減……少しは痛い目を見れば大人しくなるのではないかと考えている」

 速効で『過去見物』の魔法を使った。

 するとアホトーク教師陣が集まりここで色々と話をした過去が覗けた。


 内容はやはり問題のある生徒、バリーに対する事である。どうやらこのアホトーク教師陣、バリーの望む攻略を手伝ってもう少し危険な魔物とぶつけてバリーを負けさせようとしてるらしい。


 ディアナ先生へのラブがアホトーク達を教師の道から外れさせようとしている。

 まあ彼ら全員が『転移』の魔法も使えるらしいのでピンチになったら助けてあげて一人で英雄気取りのバリーを嗜めるくらいで勘弁してあげるつもりらしいけど。


 俺としてもバリーのあの面倒くさい感じは早々に辞めてほしいのだが。それでも危険過ぎると思うな、ここはやはり止める事にするか。


「その生徒さんを止める事は出来ないんですか? あまりにも危険過ぎるかと思います」


「だからこそ我々六人が共に行くのだ、子供は痛い目を見ないと中々言葉だけでは理解を示してはくれん、そしてここは学園ではない。あまりにも単独行動が目立つ者には少し自重させる必要があるんだ」


 そりゃあ気持ちは理解出来るけどさ~。

 結局話は平行線に入ってしまった、その後もなんとかダンジョン攻略を諦めさせたかったのだけど説得は失敗してしまった。


 貴族様の我の強さをなめてたわ。

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