第36話 失敗した者同士

「…………ハァッ」

 説得にものの見事に失敗した俺は溜め息をつきながら少しひとけのない所を歩いていた。


 バリー達は今日にも出発する予定らしいとアホトーク教師陣に聞いたのでこっそり後をつけるか、使い魔でも召喚して保険をかけておこうかと思ったからだ。

 それとディアナとは事前に話をして、合流する場所を事前に決めておいたので今はそこに向かっている途中なのである。


 合流する場所は他の木よりも一回り大きな木の下だった筈だ、あそこだな…。

 見ると既にディアナがいた、用務員おじさんよりも速く到着してるとは、まさかバリーの説得に成功して─。


「全く、なんなんだバリーのヤツは! 人の説得に全く耳を貸さなかったぞ!」

「あっそうですか…」


 まあ……そんなこったろうと思ったよ。

 むしろ戦闘になってないだけマシか、ディアナをバリーの方に送った時は完全にミスしたかもと当初は思っていた。


 しかしお互いに日を置いて少しは頭が冷えている(主にバリーが)と考えディアナに任せたのだ。

 まあケンカになってないだけバリーも少しは冷静になってきてるって事なのだと思う事にしよう。


 それでは説得に失敗した者同士で反省会でもするとしますか。

「私の方も失敗してしまいました、彼らの意志は固い様ですね」

「バリーの方は自分さえいればダンジョン攻略など余裕だといった態度だったぞ!」


 バリー……。

「バリーさんの魔法、何でもかなり凄かったらしいですからね」

「私もヤツの魔法の威力はこの目で見た、素直に大したモノだと思う。しかし魔法は使い手の心が影響する、傲慢な人間が操る魔法は本来の力を発揮出来ないんだ」


 そんな魔法の設定、師匠からは一言も聞いた覚えがないでござる。

 そもそも傲慢な人間が操る魔法が弱体化するならベルフォード学園の殆どの貴族様の魔法は弱体化してないとおかしくないかな。


 しかしそんな事を言うとディアナがぶーたれるかも知れないので言わない、まあぶーたれるディアナ先生を見てみたい気持ちはあるのだけどね。


 用務員おじさんも当初の予定ではベルフォード学園の実力者を揃えたパーティーをゲームで言う主人公パーティーに置き換えてダンジョン攻略とかボス攻略をお任せし、俺はそれとなくヒントを出すワトソン的な立場からサポートする予定だった。


 しかしベルフォード学園の実力者の実力はこの異次元ダンジョンで通用するレベルじゃなかった、思った以上に弱かったんだよなお貴族様達。

 戦力がほぼ『?』が並ぶオッサンが言うのも何だけどさ、もう少し何とかならんのかねと思うね。銀色に輝くスライムとか出て来ないもんかね。


 異次元ダンジョンのゲーム、その手の敵キャラが皆無だったからな~~。


「ハァッしかしこれからどうするべきか、私もお前ももう出来る事なんてこっそり後をつけるくらいしかないのではないか?」

「……そうですね」


 何気にディアナって用務員おじさんと思考回路が似通っている、発想が乏しいとかって意味じゃないぞ。あくまでも被害とかの後々の事を考えての行動をちゃんと彼女はしようとしてるって話だ。


 用務員おじさんとしても彼女はお貴族様としてと言うよりも人として信用しても良いのではないかと思っている今日この頃。


 ……よし、物事はタイミングって大事である、やっぱりディアナには用務員おじさんが魔法も使えるおじさんである事を話そう。

 オークレン王国の貴族であるディアナ、頭の方も固そうだから隠してたけど信用出来る人間と言う意味では彼女より出来た人間はここにはいない思えるからだ。


「………ディアナさん、少し話を変えて良いですか?」

「ん? どうしたラベ」


 その時、突然悲鳴があがった。

 何事かと思い聞き耳を立てると、どうやら魔物が出現した様である。

 俺が『天眼』の魔法を発動して敵の位置とどんな魔物が現れたのかを確認する。


 しかしその間にディアナは動いた。

「…話は後だラベル、お前はここにいろ。私は生徒を守らなければならない」

「ディアナさん!」


 ディアナは速効で『転移』の魔法を発動してしまった。

 普通なら行動が速いのは良いことだ、しかし今回に限って言えばそれが裏目に出たかもしんない。何故なら敵さん、結構強い。


 【名前:アルマ】

 【種族:紫骸鎧エビルナイト

 【HP:6000/6000】

 【ATK:1500】

 【DEF:2800】

 【ダンジョンから生み出された鎧の魔物、中身はなく鎧のどれか一部が本体である。鎧なので物理的な攻撃に強く魔法の対する防御力も高いが自慢の鎧が傷付くと結構気にするタイプ】


 そうっ出て来て欲しくない敵キャラの一体、紫骸鎧のヤツが現れやがったのだ、しかも一体じゃくて結構な数がいる、二十くらいか?

 多すぎるだろ。しかも奥の方にはその特徴的な紫色の鎧を更に強化した様なヤツまでいた。


 オイオイオイ、まさかアレって…。

 嫌な予感がしつつ用務員おじさんは『解析』の魔法で敵さんの戦力を確認する事にした。




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