第25話 実力、隠してましたムーブ

 完全に舐めていた、リアルダンジョン。

 一日くらいなら、まあ何ともならんでしょとタカをくくっていたらこの有様である。


 どう見ても魔法に強い系の魔物にコテンパンにやられたであろう面々、貴族だとか学園の人間だとかって言うのがどうでもよくなる程にボロボロだ。


「今から転移をして向こうに行ってきます」

「分かりました、ならばこれらを」


 リエールが両手を前に出すとどこからか用務員おじさんの作業服の上下があらわれた。何食わぬ顔でこの子も空間系の魔法をつかっとる……。

 更によく見ると作業服の下に何やらあるぞ、それは水色に金の刺繍が細かく施されたとても高そうなマントだった。


「なんですかそのマントは」

「我が主。ラベル様に相応しい逸品かと思い用意しました」


 相応しくないと思います、完全に服に着られてしまう的な不様なおっさんが爆誕するだけだと思いますな。しかしリエールはそんな事は欠片も思っていない笑顔を向けてくる。


 こう言う時に悪意がない方が、ある意味とても苦手な用務員おじさんです。

 って今はそんな事を気にしてる場合じゃなかった、何より生徒と教師達の安否確認を優先しなければ。


 作業服と渋々マントを手に取る。着替える時間も勿体ないので魔法で一瞬で服を着替えた……何故かリエールが少し残念そうな顔をした気がした。多分気のせいなのである。


 リエールに頼み無事なのか調べて欲しい人間を探してもらった。先ず安否確認したいのはあのラビス達とディアナだな。申し訳ないが優先的にリエールに探してもらった、するとどうやら無事らしい事が分かる。


 ディアナの方には多くの人間が集まっていたので後回しにしよう、ラビス達三人は共に行動している上に少し学園の一団から離れた場所にいるので丁度良い。先ずはそっちに向かう事にした。


「それでは向かいます」

「お気を付けて」


 『転移』を発動。俺は気を引き締めて魔物襲撃現場へと向かった。



 ◇◇◇◇◇◇



 学園連中から少し離れた場所に転移する、ワープポータルの向こうあるセーフティポイントからも問題なく転移出来た。


 先ずはラビス達と合流して何があったのかを確認する、まず間違いなく魔物に襲撃されたんだろうけど決めつけて行動するのはリスクを伴う、やはり当人に確認する事が大事だ。


 ここからは目立つので魔法の使用を控える事にする。まっこんなマントを用務員おじさんが着込んでる時点で目立ちはするだろうが、そこは敢えて考えないようにする。


 ラビス達のいる場所は事前に確認していたので徒歩数分で見つける事が出来た。

 昨日ぶりの合流である。


「皆さん大丈夫ですか?」

「ラベルさん!」

「ラッラベルさん!? 生きていたのか!」

「おじさん! 生きててよかったよ~」


 何やら反応が大きいな、特にデュミナには少し落ち着くようにしてほしいと頼む。

 話を聞くとどうやら昨日から姿を見せない用務員おじさんを心配してくれていたらしい。


 こんなおっさんを心配してくれる学生がベルフォード学園にいるなんて……ちょっと涙腺がヤバイ。

 用務員おじさんが涙を堪えているとシフォンが躊躇いがちに前に出て来た。


「実は私は音に関する魔法が得意なんです」

「音の魔法ですか」


 人の聴覚に影響を与える魔法だな。他の人間には聞き取れない程に小さな音を聞いたり、実際には発生していない音を敵に聞かせたりして惑わせる魔法だ。その用途はかなり広く他にも色々と使い道のある魔法である。


 例えば自分が出す音をシャットダウンしたり自分の声を特定の離れた人間に送ったりする事も出来るとか師匠は言ってたな。


「その魔法が使える私は、昨日合流した時の男性教師の方達の言葉も聞こえてました」


 ああっだからあの時、アホトーク教師陣をにらんでたのか。流石にこの状況で大人が何をやってるんだと不快感を覚えてしまったんだね。


「……まあ今はそちらは後にします、それよりも気になったのがバリーさんとの会話です」

「…………」


 どうやらそっちの方も聞き耳を立てていたようである、案外盗み聞きとか好きなのかなシフォンは。

 見た目は完全に清楚で落ち着いた雰囲気をしているのでそう言う事をする印象は全くないのだけど、やはり女性は見た目に騙されてはいけないって事か。


「彼のラベルさんに対する敵意は異常でした、それに船員の方が一人も飛行艇に居なかった事も何か知っている様子でしたし……」


「そうですか、しかしそれは私にも分からない事なのでなんとも…」

 俺は『過去見物』で知った事、恐らくバリーが船員達を囮や盾にして魔物を迎撃した事を言わなかった。


 魔法でも確認出来なかったので証拠がない、何より同学年の学生がそんな真似をした可能性があることを聞かせたくもなかった。


「私はラベルさんが樹海に行くのを見ていました、それなのに後を追うことも…」


「それでいいんです、勝手な行動をしたのは私ですから。むしろ二人と離れないでいてくれたお陰で合流する手間が省けました」


「……ラベルさん」


「それとバリーさんは確かに何か知っているかも知れません、それにこれは私の勘なのですが今の彼はかなり危うい物を感じました。出来るだけ近づかない方が良いと思います」


「おじさんの言うとおりかも、なんかアイツ昨日からやたらと目立ってたんだよね」

「…昨日から?」


 恐らく魔物の襲撃があった日だ。

「うん。昨日の夜にこっちは魔物の襲撃があったの、しかもあのカマキリと一緒で魔法に強い魔物が沢山来て学生も教師もヤバかったの…」


 やはり魔物に、けどバリーが目立つとは一体、まさか……。


「そしたらアイツが物凄い強力な魔法を連発して魔物達を追い払ったのよ、本人は『今まで隠していたが、これが僕の真の実力なんだ…』とか偉そうに言っててさ。そのせいで昨日からアイツはデカい顔をしっぱなしだよ、他の生徒や教師もアイツを一目置くようになっちゃうし最悪!」


「…………」

 それ知ってる、ラノベでよくある最強主人公が実力を隠してましたムーブだ。

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