第23話 空の男

「ドニードさんの話もリエールの話も分かりました。それでは今後の方針を決めます…」


 二人がこちらを見てくる。俺の答えは決まっている。

「明日の朝から私は貴族が集まる飛行艇の墜落地に向かおうと思います。やはり見捨てる様な真似は出来ません」


「……そうか」

「ただドニードさんの意見も十分に分かります、残念な話ですがあのバリーと言う少年には私も色々と困った目に合わされました」


「そうなのか?」

「はいっ学園では妙ないちゃもんをつけられては数人に足蹴にされたり、飛行艇で会った時には魔法で石像にするぞと脅されたりですね」


「………(ピクッ)」


 リエールの眉が少し動いた、しかし話を続ける事を優先する。

「お前さんも相当だな、用務員なんてしてたら貴族にオモチャにされるのなんて日常茶飯事だって事か?」


「ええっまあ…」

「ならなんで連中を……」


「わざと見捨てるという選択は出来れば取りたくありません。それに教師も当然ですが学生は若く未来ある人々です、やっぱり生きて欲しいじゃないですか」


 ここは日本ではなく異世界だ。日本、地球でもそうだが生きたくても生きれなかった人々は沢山いる。そしてこの異世界はそんな地球よりも色々な意味で更に過酷なのさ。


 俺の顔を見てドニードは神妙な面持ちをした。


「……………もしかしてお前さんは」


「あっそれと話の続きですが、船長と船員さん達の存命については学園の人達には隠そうかと思いますからご安心を」


「は?」


 驚くドニードさん、しかしダンジョンでサバイバルをしているのに召使い代わりにされるとか魔物以外の存在からも命の危機を感じるとかどっちも絶対に嫌だと思うのは理解出来るんだもん。


 ならばどうするか、混ぜるなダメってんなら別々に避難してもらえば良いのである。

「リエール、このセーフティポイントは空間の拡張や分離が出来るんだよね?」


「……はっはい、可能でございます」

 リエールは何か別な事を考えていたのか返事を遅らせながら答えた。

 ゲームだとセーフティポイントはダンジョン攻略の拠点だった、そしてその拠点を自由にカスタム出来る要素もあったんだよ。


 新しい施設を開発したり拠点を拡張したり、つまりは二つの斑に分けてそれぞれで拠点で生活してもらえばよろしいのである。


「恐らくドニードさん達には拠点の奥の方を使ってもらう事になるかと思います。そこへと繋がる通路は魔法で隠蔽するので恐らく見つかる事はないでしょう」


「しかしダンジョンを脱出するならいずれは合流する事になるんじゃないか?」


「その時は隠蔽を解除してたまたま別のワープポータルでこの拠点に迷い込んでいた体を取れば大丈夫ですよ、このダンジョンの全容を把握出来てる人間なんていませんから、魔物から避難していたと言えば貴族様も納得します、何しろ我々平民は魔法なんて物は使えない立場ですからね」


「………」

「どうかしましたか?」


 ドニードさんが肩を震わせる。

 そして何故か豪快に笑った。


「ククッハァーハッハッハッ! コイツはまいった。傑作だぜラベル殿!」

「ドニードさん?」


 いきなりの大爆笑に少し引いた、何が彼の琴線に触れたのだろうか。


「何十年と飛行艇に乗ってきた空の男が情けねぇったらないな。相手が貴族だなんだと俺の心は相当に捻くれていたみたいだ、お前さんの言うとおり困ってる人間助けるのにごちゃごちゃと理由探す馬鹿はいねぇわな!」


「…ドニードさん」


「お前さんがそんな損得勘定だけで生きてる阿呆なら俺達もとっくに見捨てられてる、そっちのお嬢ちゃんの言うとおりよ。部下の命と我が身可愛さでつまらない事ばかりを言っちまった、末代までの恥だから忘れてくれよ、ラベル殿」


 どうやらドニードさんの中で色々と吹っ切れた予感。


「前言撤回だ。アンタが貴族共の面倒を見るなら俺達、飛行艇の船員も連中の相手をしよう」

「それは、危険ですよ? もしもバリーやそれと同じ様な貴族がいれば…」


「命の恩人をたった一人でそんなバカ共の相手をさせようだなんて空の男として有り得ねぇ。俺の部下共には話を通しておくから俺達の事は気にするな、もしも連中がお前さんにふざけた真似をするなら俺がぶちのめしてやる!」


 辞めなさいよアンタ、アラフィフのくせにガタイ良いんだからさ。そのムキムキな腕でパンチとかしたら貴族は大変な事になるよ?


 そして我々平民は打ち首である、そうなったら貴族連中に記憶をフワッとする魔法をかけて国外逃亡まっしぐら。

 出来ればもう少しみんなで幸せになれるエンディングを見つけたい用務員おじさんです。


「無論、今は緊急事態です。貴族様達がその辺りを全く理解していないようならその時また考えますのでケンカ腰は辞めましょうねドニードさん」


「おうっ! 出来ればな」


 大丈夫かな?

 半袖シャツの腰部分をくいくいと引かれた、リエールである。

「どうかしたのかい?」

「その貴族達が……ラベル様を足蹴にしたり魔法でラベル様を石像にしようとしたのですか?」


 リエールは笑顔だ。しかしその発する気配がかなりダークで怖い。

 本当に大丈夫かなこれ?

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