第22話 下の人間の本音

 俺の言葉に予想はしていたとは言えドニードさんも眉をひそめた。当たり前か、あのバリーの事があるし、もしかしたら他の貴族である教師や学生とも何かあったとしても不思議じゃない。


 そもそもいくら貴族様と言ってもオークレン王国は下々の者に対してのアタリが強すぎると思うんだ、あの自分より『下』だと見做したの人間に対しての見せる顔ときたら……思い出してもテンションが下がる代物である。


 多分このドニードさんも似たような気持ちなんだろうと想像に難くない。

 ドニードさんは静に口を開く。


「ラベル殿、俺も部下達もアンタに命を救われた。魔物に素手で突っ込めとか言われでもしない限りはアンタの意見を尊重したい、しかし俺には船長として部下達の命を守る義務があるんだ」


「…そうですね」


「あのバリーって貴族のガキだけじゃない。もしここにあの貴族達を招けば間違いなく俺達は召使い代わりに扱き使われるだろう、その上で魔物への囮や肉の盾として使い捨てられるか。最悪は連中の憂さ晴らしなんて理由で殺されるかも知れん」


 一体何があったんだドニードさん!?

 話の内容が物騒過ぎるぞ、用務員おじさんの想像以上にデンジャラスな過去をお持ちの予感がする。


 こちらとしてはヤンデレヒロインの過去と同様にアラフィフのヤバめで重い過去とかノーサンキューなのである。


「そんな訳で俺個人としては部下の命を守る為にも貴族様達とは距離を取っておくべきだと思うぜ」


「……………」

 確かに貴族達をまとめて見ればその結論が普通に出るだろう、しかしそれだと俺はとても困るんのだ。

 ここでドニードさんの言うとおり貴族達をみ~んな見捨てた場合、俺達が例えこの異次元ダンジョンから脱出に成功してベルフォード学園に戻ったとする。その場合まず捕まる。


 だって次元の裂け目に呑み込まれて、その先のダンジョンで貴族様達はみんなお亡くなりになりました、けど俺らは無事帰還しました! とか学生の親御さん(当然貴族)とか教師の同僚(こちらも貴族)がそんな話で納得する訳がないじゃん。


 絶対に一切信じないでこちらを引っ捕らえて拷問とかされて本当の事を言えとか言われるだ。

 或いは全て罪を被せられて貴族達の溜飲を下げる為の生贄として処刑されたりも……アレ? 用務員おじさんもドニードさんと大差ない感想しか出て来ない事に驚愕。


 まあそんな可能性もあるって話だ。それはそれとしてドニードさんの意見を聞くと俺は学園の貯金を諦めた上に国外逃亡とかする羽目になるんじゃないか?

 ドニードさん、気持ちは分かるけどちょっと扱いに困ってきたかも……。


 やっぱり流石に困るよ、主に貯金を諦めるのは絶対に嫌だ。

 それに貴族にも少しはいい人がいる事も近頃の用務員おじさんは知っているしな。


「一つよろしいでしょうか?」

「ん? お前さんは…」

「リエールさん」


 そこには着物メイドのリエールがいた、『ラベル様、さんは不要ですよ』と言いながらニコニコしている。この子も謎が多すぎて扱いが困ってるんだよな。


「すみません、お二人の話を盗み聞きするつもりはなかったのですが…」

「問題ないよ、今後の話だしリエール……とも話すつもりだったからさ」


「ありがとうございます。それと差し出がましいのですがこのリエールの意見を話してもよろしいでしょうか」


 彼女の意見か、確かに貴族達に対して我々と違い変に思うところがない人の意見を聞きたい所だった。人間は理屈では分かっていても苦手意識や単純に嫌悪感を持った人間にはあまり情が湧かない生き物である、冷静な第三者の意見は聞く価値がある。


「船長さんの言い分も理解は出来ます、その上で言いますが貴方は自分達が何故助けられたのだと思いますか?」


「…何故助けられた?」


「そうです、先程の貴族と言う人々と距離を置く。つまりは見捨てるという話ですがその意見をラベル様に言える立場に自身があるかを理解しているのかですね」


「…………それは」


「そうです、ラベル様に貴方とその部下を助ける理由はありません。ダンジョンにおいて自身の身を守れる能力のない人間は足手まといでしかありませんから、そんな人間を何人も助けるメリットも理由もありません、ここには飛行艇もありませんので船員なんて何の戦力にもなりませんしね」


「…………ッ!」


 えっ飛行艇ないの!?

 いやっあったじゃん飛行艇ビックリした~、リエールは嘘を言ってるのか。理由は不明だが飛行艇の存在を今はドニードさん達に話すつもりはないらしい。


 内心別の所であ然とする用務員おじさん、あっリエールの話はその通りです。彼らを助けた理由とかラビスを助けたのと一緒、助けられるのを見捨てるというのは具合が悪いからである。


「そんな船長さん達は自分達は助けて欲しい、けど自分達が気に食わない人間は見捨てて欲しいととても好き勝手な事を言っていると感じます。それを決めるのはラベル様だけにある権利だと思われるのですが、違いますか?」


「……俺もこんな事は出来れば言いたくない、しかし現に貴族のガキ一人のせいで何人もの部下が既に死んでるんだ」


 お互いの視線をぶつけ合う二人、ドニードさんもそうだがリエールも何故にここまでな物言いをするのだろうか。

 ……いや、変に気を遣わせてる俺の落ち度だな。


 仕方ないのでドニードさんには今後の方針を俺自身の口から伝えるとしよう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る