第20話 着物メイド
「………ここが、セーフティポイントか」
そこは床も壁も天井も真っ白で艶のある大理石みたいな物で作られた場所だった。壁には美しい彫刻が彫られているし明るくてとても幻想的な場所だ。
うん、ゲームで見た背景とそっくりである。予想してた通りの見た目だったけどゲーム画面のそれとリアルに存在するのとは当たり前だけど全く違う。
宮殿とか神殿とか、そういう荘厳な雰囲気を感じている。ここセーフティポイントの筈なのに。
しかし先ずは中を見て回ろう、魔物が徘徊してたりしたらシャレにならないので魔法で周囲の気配は抜かりなく探りながらの探索だ。
そして数十分くらいの時間をかけて幾つかの施設を確認した。先ずはリビングルーム、大人数でも食事が出来るとても長~い白のテーブルが何列も並び、左右にはそれぞれ十以上の椅子が並んでいる。
キッチンも相当広く何人のコックが必要なのかと思う程だ。何気に廊下も幅は六メートル以上はあるし天井も十メートル以上の高さはあると思う。
次はシャワールーム、これも複数ありバスルームもかなり広い楕円形のお風呂があった。水道も普通に使え、魔法で毒やらないかを確認したが特に無かった。ベルフォード学園の生徒でもここまでの施設で生活してるかは疑わしいレベルの快適過ぎる場所だ。
こんな所で生活したらダンジョンから脱出した後の生活水準に対する不満が大変なことになってしまうかも知れない、生活レベルって下げるのは本当にツラいんだ、トイレとか本当に……。
「………トイレも見に行くか」
トイレに向かう、トイレも個室が幾つもありそれぞれ広めの個室トイレであった。最高ですな。
よしっ後確認する必要があるのは…。
セーフティポイントの最深部である。
白い廊下を真っ直ぐ進む、やがて俺の記憶通りの両開きの大きな扉が目の前に現れた。
扉の前に立つ、するとここもゲーム同様に扉は独りでに開き出した。
ここから先は全面ガラス張りの広いドーム型の空間であり、ガラス張りの向こうにはこのダンジョンで最重要アイテムの飛行艇があった。用務員おじさんが乗っていた飛行艇ともデザインは違う、シャープなデザインの洗練されたファンタジーシップである。
よかった、流石にコイツがないとこのダンジョンを攻略する糸口すら無くなる所だった、何しろこのダンジョンのボスを倒すには─
「!?」
魔法が何者かの気配を察知した。
マジか、ゲームではここには何もいない筈だ。
中に入り回りを確認する、しかし誰もいない。
魔法で姿を隠してるのか? それとも…。
「ようこそおいで下さいました」
「……ッ!」
魔法を使ってるのに背後を取られた!?
俺は背後の存在から数メートルの距離を取る、その姿を確認した。
相手は子供だった、女の子だ。身長も低い。
フワッとした感じの水色の長い髪をツーサイドアップにしてる、瞳も水色で服装は青い着物とメイド服を合体させたようなフリル付きの物を着ていた、下はフリル付きの丈の短いスカートと黒のロングブーツをはいている。
もう一度思う、誰だよこの子。
ゲームの時はこんな子供は居なかったよ?
「君は一体誰なんだ?」
「わたしはイーリエール。この場所にてご主人様をずっと待っていた者でございます」
ご主人様? 何を言ってんのこの子。
訝しげな視線ついつい向けてしまう、すると着物メイドの少女は笑顔を見せる。
「つまりはここに最初に訪れたあなた様のガイド兼メイドにございます。どうかよろしくお願いしますご主人様」
「よろしくお願いしますと言われても困るよ、取り敢えずご主人様は辞めてくれないかな?」
そりゃあメイドとか雇ってご主人様とか呼ばれるラノベ作品とか知ってる、けどあれらは異世界で成り上がってからとかが普通だ。
異世界において作業服着てる用務員おじさんがメイドさんからご主人様呼ばわりは端から見ればとても悲しい光景に見えるだろう。メイド喫茶か。
そもそも俺にこんな少女にご主人様と呼ばせる趣味はない。故に早速自己紹介をしてせめて名前で呼んでもらう様に頼む。
「私の名前はラベルと言います、出来れば名前で呼んでくれると助かるんだけど…」
「分かりましたラベル様」
様もいらんけど……まあいいか。
俺は話を進める事を優先した。
「イーリエール、君は」
「親しい者からリエールと呼ばれております」
いるの? 親しい人がこのダンジョンに?
「………リエールはこのダンジョンの存在、つまりはここに来た人間を倒すのが仕事じゃないの?」
「違います、このエリアは魔物や侵入者を排除する役割のある存在が侵入する事は出来ません。わたしの役割はラベル様の為に働く事でございます」
今、会ったばっかの着物メイドの少女に自分の為に働くとか言われても困るんですけど。
そもそもゲームならここは隠しダンジョン的な場所なんだ、本来ならガイドとかナビキャラとか今更感があり過ぎる。
そう言うのは最初のダンジョンとかチュートリアルの時にチョロッと現れる感じでしょうに、正直胡散臭さ過ぎるのだけど。
「わたしはこちらの施設の運営と管理を任されております。炊事洗濯から施設の掃除に至るまで全てわたしにお任せ下されば万事解決にございます」
「………そうですか」
つまりこの子が居ないとこのセーフティポイントは禄に機能しないってことじゃ…。
そんなん頼るしか道がないじゃん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます