第18話 内心解説

 俺は確信した。カマキリの時はなんとなくだったがアラクネを見て思い出したのだ。


 なんか知らん魔改造をされていて見る影もないがアラクネは結構強いモンスターだった、ゲームの時はもっとちゃんとしたアラクネで上半身はドレス姿の美女だったんだ。スタイルも抜群だった。


 そのキャラデザのレベルの高さからよく覚えていた。だからこそカマキリやらダンジョンの地理では殆どフワッとしていたのにアラクネで思い出せたのだ。


 アラクネの……顔とか髪とか女性らしい身体のラインが削ぎ落とされた変わり果てた姿。

 ガリガリだった、殆ど骨と皮じゃん。顔に至っては先にあげた通り鼻も口もない。


 それを目にした事でフツフツと怒りが込み上げてくる。一体どこのどいつだ、こんなクソみたいな化け物にアラクネをしたのは。


 ソイツはダンジョンにおける異常なまでに美人とか美少女系の魔物の存在の価値を分かっていない。

 仲間になるとか、なっても性能が良いとか、そんな話の前に取り敢えず一体は確保しておきたいモン娘の魅力を分かっていない。


 まあ下半身はクモなので性的な魅力云々は別の話になるのだが、それでも上半身は美人なら何故にそこを失わせる必要があるのかと言いたい。


 美人と言う要点をなくして戦闘能力に特化とか意味分からん。美人は美人だから最強なんだ、戦闘とか他の使いっ走り的な雑魚な魔物にでもやらせれば良いじゃないの、あのカマキリとか。


 あのゲームのアラクネは細部にまで手がかかっていた、下半身がクモだから動く度に大いに揺れに揺れたあの躍動感とか長い黒髪とかにクリエイターの執念を感じた用務員おじさんは心の中で大いに嘆き悲しんだ。


 直ぐに近くに黙祷してる人達がいるくせに、お前は何を考えているだと、自分でも分かってるのにこんな思考が止められない、ニートでゲーマーとはなんて業が深い生き物なのだろう、転生して尚この体たらくである。


 しかしそんなしょうもない事を思い出せた事で結果的に我々にプラスになる可能性がある要素が生まれた。


 ここがゲームのそれと酷似したダンジョンならば、ゲームの時みたいにいわゆるセーフティポイント。つまりは魔物が現れない安全なエリアがあるかも知れないのだ。


 あくまでも可能性の話だ、しかしそれを確認する方法ならある。

 俺は『隠蔽看破』と魔法による探査のコンボを再び発動、今度は人間や魔物ではなく特定の『場所』を目標にした。


「………あったな」


 すると予想通り、ゲームと全く同じ場所に魔物が一切近づかない空間を発見。

 『天眼』の魔法でその場所をリサーチ、ふむふむ……何やら意味ありげな遺跡が見受けられる場所である。


 そしてゲーム同様にセーフティポイントを起動させるギミック、要は遺跡に紛れる様にして存在するスイッチも発見した。

 これはいける可能性大だな、よしっ船員達に提案するか。


「すみません、そろそろいいでしょうか?」

「ああっ問題ない。しかし俺達はこれからどうすれば……」


「それならオススメ出来る話があります、あくまでも未確認の情報なのですけど」

「……情報?」


 船長らしきアラフィフはこちらの話を聞いてくれた。話した内容的にはこの樹海を彷徨っているタイミングで全く魔物が寄り付かない場所を偶然発見して、そこで休めた事で体力とか魔力とかを回復した俺はここに船員達を助けにくる事が出来た云々。


 そんな感じで説明をして、そこならここよりも安全な可能性が高いのではと提案する感じで話をした。


「魔物が殆どいない場所か、そんな場所が本当にあると言うのか?」


「分かりません、私の時はたまたま魔物がいなかった可能性もあります。ただこのままこの辺りを目的もなく移動するくらいなら…」


「……まだ目的地があるだけ足を進める原動力にはなるな。よし分かった、命の恩人の言葉だ。ソイツに乗るとしょう」


「ありがとうございます」

 船長の決断を受けて他の船員達もこちらに話し掛けてきた。当初は学園の教師が用務員の格好でもしてるのかと疑われたりしたがなんとか誤解を解く。


 やはりバリーは船員達に禄でもない事をしたらしい、名前こそ知らずともバリーらしき貴族の少年への恨み言を口する船員がかなりいた。

 何をされたかは聞いてない、現状は何度も言うがダンジョンでの本気のサバイバルの最中。愚痴を肴に酒を飲む余裕なんてないのだ。


 もう魔法が使える事はバレているので『飛行』の魔法を発動して船員達や船長を浮かせて共に樹海の木々よりも高い場所を移動する事にした、何気に飛行艇の船員をしてるくせに直で空を飛ぶことを嫌がる高所恐怖症の船員が多数いた事には驚きだった。


 船長が『怖いなら目をつぶってろ!』と言う言葉を聞いて全力で目をつぶり何故か両耳に指を入れて音まで遮断してるヤツまでいた、恐怖は人を阿呆にするのだろう、それと偉そうな事を言っていた船長も全力で目をつぶっていた時はギャグがなんかだと少し思った。


 そんなしょうもない面白イベントを起こしながらの空の移動。時間にして小一時間くらいだろうか、我々は目的地に到着した。

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