第13話 背景さん
アホトーク教師陣の一人の言葉にラビス達は思う所がある態度だが口には出さない、賢い判断だ。
この教師陣に下手に何か言っても無駄だからね、せいぜいダンジョンの魔物と戦う時に頑張ってもらえるように好きに言わせるのが吉である。
しかしそんな損得はお構いなしなのが若干一名いた。
「バルモ先生、今の発言は聞き捨てならない」
「へ? ディアナ先生?」
「この危機的状況で国の貴族ならばむしろ普通の民である者を守るのが当然の責務だ、それが態度だのなんだのと……」
「しかしたかが下民相手に」
「その下民と言う言葉、私が授業を教えている生徒にも使う者がいたが。まさかバルモ先生が教えたのか?」
「い、いやそれは…」
「今後二度とその言葉は口にしない方が良い、貴族として以前に人としてどうかと思われるぞ」
「!? ディッディアナ先生……」
他のアホトーク教師陣も狼狽えている、よく同じセリフを言ってそうな面々だもんね。こんな状況だけど、俺も人としてどうかと思ってたのでディアナ先生を止めるのもはばかられるんだよな。
するとディアナ先生はこちらに向き直る。
「本来、一般人である貴方をこんな事に巻き込んだ事が貴族として大きな失態だ。その上で人を人と思わない言動を彼らがしたことを謝罪する」
律義に謝罪するディアナ、この状況でもその態度は変わってないのは素直に凄いと思う。
しかし現状はいつ魔物に襲われるか分かったもんじゃない(無論魔法で周囲を警戒してるけど)ので早くこの場を移動したい。
ディアナの謝罪にはそんな事は気にしてません的な言葉で対応した。そして背後のアホトーク教師陣達の心証は悪くなっただろうなぁ…。
何しろディアナがこちらを見てる時に殺気にも似た怒りを向けてたからさ、特にあのバルモってヤツ。これは寝るときも油断出来ませんな。
そんなこんなで改めて出発する事になった。
それなりの大所帯となった移動なのでスピードは少し落ちる事になったが安心感は段違いだ、まあラビス達の話である。俺はアホトーク教師陣に目の敵に早くも認定されたので針のむしろってヤツだな。
多分ディアナはあの美貌なので他の男性教師からも好意を持たれまくってるのではないだろうか、そこに教師どころか貴族でもない用務員おじさんがいきなり現れて当たり前のように会話をする。
本来、ベルフォード学園では用務員なんてのはただ無言で学園の掃除を始めとする雑用をするだけの存在、彼らが学園の人間からすれば同じ職場にいる筈の相手だが、一人の人間として見るべき存在ではない。
せいぜいモブ以下の背景さんとか道端の石ころと同じなのだろう、そんなのが自分達の憧れと言葉を交わす。それが大いに気に入らなかったって訳だ。
まあ元から用務員を下に見過ぎてるお前らの自業自得だろっと思うのでディアナにしろラビス達にしろ話し掛けられればそれに普通に応じるつもりだ、連中の歪んだプライドとか相手にしないよ。
どうせこの異次元ダンジョンさえ脱出出来ればお前らが貴族だろうが何だろう知るかとさっさと国を出て行く用務員おじさんであるからして。
そうこうしていると開けた場所に出た。
しかし現場はかなり凄い事になっている、樹海の木々がなぎ倒され、地面が抉られて決まった方向にその抉られた道が進んでいる。
「アレは恐らく、飛行艇が不時着してこうなったんでしょうね」
「そのようですね」
シフォンがそれとなく教える、そして数百メートルくらい遠くを見れば黒い煙がモクモクとしている。あそこが飛行艇不時着現場だな。
もしくは墜落現場だな。
樹海のやたらと大きな樹木が吹き飛ばされているので飛行艇を見失う事はないだろう。俺の魔法にも魔物の接近する気配もない。
この見晴らしの良さはそのまま魔物からの見つかり安さでもあるのでここからの移動はスピード重視となった。
取り敢えず用務員おじさんはシフォンとデュミナとラビスに他の教師陣にはバレないように魔法で体力を回復してあげたりしといた。
合流前から歩きにくい樹海を歩いてたし、ラビスに至っては怪我してたので当然の配慮である。
三人がそれとなくこっちを見てきたが口元に人差し指を立てて『秘密でお願いします』というジェスチャーをしておいた。キモおじさんだと思われていたら泣ける。
そしてなぎ倒された木々を超えた先、俺達の視界には形こそ残ったもの素人目に見てももう二度と飛び立ちそうには飛行艇と集められたベルフォード学園の生徒、それを監督する学園の教師達の姿が見えた。
何はともあれ、大勢の人間が生きているようで何よりだ。そしてラビス達を一団と合流させられた事は本当に良かったと用務員おじさんは自身の働きを内心褒めるのである。
…………まっ問題は山積みだけどね。
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