第10話 用務員、頑張る

 なっ何という事だ、あんだけ出来る子ですって感じで『悪しき魔物よ我が剣の錆となれ!』とか抜かして格好つけたのに倒し損ねるとは! 

 ………ちょっとウケる。


 しかし当のラビスは全力でシリアスアンド困惑中だった。

「そんな……何故私の『魔力剣』が……ッ!」


 思わず立ち止まってしまったラビス、魔物はそのスキを突いて襲ってきた。

 ラビス、ピンチである。


 ………ハァッしゃ~ないか。

「危険です、離れて下さい!」


 とか言いながら俺は『岩石弾』の魔法を発動、直径五十センチくらいの大きな石を幾つかカマキリの頭に発射する。

 それと同時に『転移』を使ってラビスの元に助太刀アンドエスケープ、カマキリの攻撃範囲から脱出した。


 頭にドカンドカンと石がぶち当たるものの大したダメージにはなっていない、それでも邪魔だとは感じだようで両腕の鎌を使って残りの飛んでくる石を切断して破壊している。


「!? なっこ、これは……」

「質問は後でお願いします、シフォンさん、デュミナさん」

「「はっはい!」」


「少し派手なヤツでアレを始末するのでラビスさんと一緒に少し離れていて下さい」

 なんか銀髪ポニーはしつこく言ってくるが無視する、普通に相手そこそこ強いからね。


 あのカマキリ、多分自分の回りに魔力を無効化するバリアか何かを張ってる。近距離で攻撃する魔法は相性が悪い様だ、ラビスの『魔力剣』みたいな魔力を武器にする系とか特に。


 なら攻略は単純だ、魔力は駄目でも魔法で出現させた『物体』なら無効化されないみたいなので属性魔法で攻めれば良い。

 俺は遠距離から属性魔法で攻める事にする、器用貧乏の種類だけは多い魔法を喰らえ!


「ハァアッ!」

 大して意味もないのに唸る。

 『水流破』の魔法を発動、大量の水をカマキリにぶつける、水は多ければそれだけで凶器であるアクアカッター並みの水圧で放たれる水魔法を喰らえ。


 カマキリが『水流破』を喰らって吹っ飛ばされる、更に『氷結陣』を発動、青白く光る魔法陣がカマキリの足下にバン。濡れたヤツの全身が瞬く間に凍り出す。


 身動きを封じたのでダメ押しで『破砕の雷』を発動する。用務員おじさんの前方に黄色に輝く魔法陣、その魔法陣からそこそこ大きな雷撃が放たれる。

 轟く爆発音、ちょっと派手にやり過ぎたか?

 カマキリは粉々になりましたとさ、倒せて良かった、バイバイ。


「なっあの魔物を一瞬で倒しちゃったよ!?」

「と言うよりも上級クラスの属性魔法を三連発してましたね……」

「何なんだ!? あの男は何なんだシフォン! デュミナ!」

「「………………」」


 おたくの命の恩人だよ?

 二人が何と説明したものかと無言で困ってるから二人の肩を掴んで揺すりまくるのは辞めてあげなさいよ。


 まあ取り敢えず目の前の危機は去った、本当は上手い感じで一般人の用務員おじさんしたかったのだがここまで来ると説明するしかないか。


「私が説明しましょうか?」

「ッ!?」

 そんなビクッてならなくても、シフォンは上級クラスの魔法とかって言ってたけどそんなんじゃないんだって。


 何しろ俺の師匠はアレの十倍は威力と規模がある魔法を二、三十個は同時に発動して何百体もの大型魔獣を殲滅してたもんである。

 俺とか三下も三下なのだ、君らも一年くらい真面目に魔法を学べば余裕で越えられる壁さ。


「そう身構えないで下さい、私に皆さんを害する意志なんてありませんし。ここはどうやらお互いの協力が必要なようです、どうか話を聞いてくれませんか?」


「私の魔法を容易く無効化する化け物を瞬殺しておいて、随分と下手に出るのだな。逆に不気味だぞ」


「とんでもない、貴女の魔法は大した物ですよ。ただ魔法にはどうしても相性があります、アレはそれが悪かっただけです」


「フンッ良く回る舌だな」

「事実ですから。私が貴女と勝負をしても勝ち目があるとは思えませんしね」


 俺の魔法は師匠の教えはあるものの我流だ、素人が思いつきで使っている魔法だけに洗練されたものではない。だから型みたいな物が確立されている魔法使いと真正面からやれば一気に不利になる。


 『この場面ではこうする』と言う形がないので使う魔法をその都度考えて使うから時間のロスに繋がるのだ、その点ラビスは使う魔法とその効果、威力を熟知してるので常に最適解で行動に移せる。


 そんなのを相手にすると動きものろい上に鈍くさい用務員おじさんは後手に回りっぱなしになってしまうので多分負ける、一年先どころか戦闘慣れしてるラビスにはこの場でも負ける可能性が高い。


 俺ってさ、どこまで行っても器用貧乏なだけの魔法使いだからな~~ってかただの用務員だわ、せめて師匠の百分の一でも強ければそのチート魔法でこの子達守ってあげるよ! っとか格好つける事も出来るんだろうけど…。


 そんなセリフは出来なかったら死ぬほど恥ずかしいので絶対に言わないだ。

 俺は自分はそれなりの種類の魔法を使える魔法使いおじさんであることや国の法律により魔法使いだとバレるとしょっ引かれる事を説明した。



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