第8話 緊急脱出だ!

 俺は自身が魔法を使える事とこの飛行艇がこれから危険を伴う着陸を行うであろうこと(流石に墜落しますとは言えん)、そしてこの場の四人までなら『転移』の魔法で脱出出来る事を伝えた。


「時間がないから、信じる信じないの問答は後にして答えて欲しいんです。このままこの飛行艇に残るか脱出するかだけ答えて下さい」


 二人の女子生徒はお互いの顔を見て悩んだ、しかしこちらが真面目に聞いている事を理解してくれたのか二人は答える。


「ここが危険なのは分かります」

「もし本当に助けてくれるならお願い、ラビスとシフォン、それにデュミナを助けて」


 誰が誰だよ。

 しかし今はシリアスモードなので聞かない、俺は無言で頷いて『転移』の魔法を発動した。



 ◇◇◇◇◇◇



 脱出は無事に成功した、この世界の『転移』の魔法は別に行ったことがないから場所にでも移動出来るので便利である。


「……なっなんとかなったか?」


 安心していると遥か頭上を大きな物が通り過ぎる、飛行艇だ。

 飛行艇は煙を上げながら徐々に高度を下げて行ってる。


 『天眼』で確認すると飛行艇から我々以外にも脱出に成功してる人間の姿が見えた、まあ魔法を教える学園の生徒や先生が乗っているだしな。


 『転移』以外にも『飛行』とか使えればなんとか脱出は出来る、『魔力障壁』とかで身を守ればダイブしても多分大丈夫だろう。


 最もそれでも助かるのは教師や生徒だけだろうな、恐らく飛行艇の船員や船長は…。

 それをここで言っても仕方がない、先ずはこの三人を助ける事が優先だ。


 用務員おじさんは三人の女子生徒の方を見る。

「大丈夫ですか? 怪我はしていませんか?」

「はっはい、大丈夫です…」

「本当に使えたんだねおじさん、『転移』の魔法…」


「もちろん、あんな状況で嘘を言うとか有り得ませんから。あっそれと私が魔法を使えるのは秘密にしておいてくれますか、ほらっこの国って…」


 用務員おじさんの言葉に二人の女子生徒は納得のいった顔をする。


「そう言えば、オークレン王国は貴族と王族以外は魔法を使うことも覚える事も基本的に法律で禁止されてるんだったね」


「ええっそうなんですよ、私も人を助けて捕まりたくはないので」


 本当、おかしな話である。

 そりゃ才能って血筋とか関係してくるだろうけどさ、本物の天才って殆どがそう言うの全く関係ない所から出て来るんだよね。


 まあ俺はそんな天才とは対極の器用貧乏な魔法使いですけどね、凡才魔法使いの用務員おじさんである。


「しかし勿体ないですよ、『転移』まで使える腕前なのにそれを秘密にするだなんて……」

「そもそも何で用務員のおじさんが魔法を使えるの?」


「師匠が子供の時に私の生まれ故郷にいまして……それと、実はこの修学旅行が終われば用務員を辞めて別の国移ろうと思ってはいたんです。オークレン王国以外の国では魔法を庶民が覚えても使えても何の罪にもなりませんしね」


 二人は苦笑いを浮かべる、オークレン王国の貴族なのか、別の国の貴族なのかは知らないけど庶民の本音とか初めて聞いたんだろう。


 そりゃ庶民にも自由はある、自分が必要されてると一切感じない職場よりも必要とされている職場に人は転職するものだ、自分の能力を認めて生かしてくれる国に行きたいと思うのは自然な事なのである。


 何故かダンジョンにて遭難してるのに少し和んだ我々だ。そこにもう一つ嬉しいニュースが来た。

 銀髪ポニーの女子生徒が目を覚ましたのだ。


「んっんん……ここは?」

「ラビス!」

「ラビスさん」


 この子がラビスか、銀髪ポニーだけでなく赤い瞳も印象的な美少女だ。まあこの場の三人ともみんな美少女なのだけど。


「シフォン、デュミナ。ここはどこなの? 私達は飛行艇に乗っていた筈よね…」

「ラビスさん私達が乗っていた飛行艇は…」


 ラビスが長いブランヘアーの紫色の瞳の子をシフォンと呼び、赤みがかった茶髪ツインテールの青い瞳の子をデュミナと呼んでいた。

 ようやく個人と名前を照合出来る。


 そしてシフォンがラビスにこの状況について説明した。こちらをチラッと見てきたので『魔法の事は内密に』と言う意味を込めて小さく首を左右に振る。


 事前に秘密にしてと説明していたので、その気持ちを汲んでくれたのかシフォンは魔法云々には触れないで話を進めてくれた、ほらっ秘密って知る人間が増えれば増える程どこかから漏れる可能性が高くなるものなんだよ。


 そしてこの場に普通ならいない用務員のおじさんに当然ながらラビスが怪訝な視線を向ける。


「ならアナタもその際にたまたま脱出したと? さっきシフォンに何か意味ありげな態度を取っていたが…もしも二人に何が良からぬ事をするつもりならいつでもこのダンジョンに置いていくからそのつもりでいなさい」


「……………」

 凄いね、首を小さく左右に振っただけでここまで他者に悪い印象を与えるとは。用務員おじさんとは一体どこまで下に見られているのだろうか。


 助けられた事実を知るシフォンとデュミナはそのあまりにも勘違いが過ぎる発言にあたふたしてる。

 いくらなんでもその物言いはないだろう、という感じで焦っていた。


 しかしラビスは元からリーダーシップがある女子生徒なのかこの場を仕切るように発言をする。


「よしっ先ずは墜落したという飛行艇が飛んでいった方に進もう、他の生存者と合流すればこのダンジョンから脱出する手段も見つかるかも知れないからな」


 と言う訳で我々のダンジョンサバイバルの開始である、少し酷い事を言われたけど見捨てる訳にもいかんので黙ってついて行く用務員おじさんである。

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