第6話 用務員のお仕事かなこれ?

「!?」

 それはいきなりの衝撃だった。

 まるで飛行艇が強力な魔法とかミサイル兵器にでも攻撃されてるかのような揺れが俺やディアナを襲う。


「なっこれは……!? 飛行艇がワイバーンに攻撃でもされたのか?」


 ワイバーンか、確かに有り得る。

 この世界は無駄にファンタジーが幅をきかせている、こんな雲の上にまで危険な生き物が棲息しているのだ。本当に連中の巣って何処なのか、この広い空で何処からともなく現れて襲ってくるらしいぞワイバーン。


 異世界で大した教育を受けていない俺には謎過ぎる生態である。空を飛べるなら地上の飛べない生物を狙った方が効率いい気がするんだ、地球の飛べる生き物って大抵そんな感じなんだぞ。


「くっ済まないが私は船内の生徒達の様子を見てくるので失礼する!」


 そう言うとディアナは身体を魔法で浮かせて揺れる船内を移動していった。


 流石は魔法学園の教師だ、難なく『飛行』の魔法を扱うか、まあ師匠曰くそれ程高度な魔法じゃないらしいけど普通にコントロールには技術がいる魔法だ。


 俺も『飛行』を発動する、但し他人に見られると『貴族以外の人間が魔法を使っている』と言われて罰を受ける可能性があるのでいつでも地面に着地出来るように少しだけ身体を浮かせる程度だ。


 次に『天眼』の魔法を発動した。

 名前はカッチョイイがそんな大した魔法じゃないぞ、ある程度遠くを見たり五感が封じられた時でも周囲の物を認識出来る魔法である。


「……う~~わ、次元の裂け目かよ」


 嘘でしょ?

 何あの馬鹿デカい次元の裂け目は、あんなの話に聞いた事があるだけで見たことないわ。大きすぎ。


 本当にさ、ファンタジーが幅をきかせている世界なのであんなの訳の分からんのが突然空に現れるらしい。


 あんなのが現れる理由、それは中にダンジョンがあるからだ。

 ダンジョン。この世界にも当然のようにある謎の遺跡群やら場所の事を言う。


 なんでもあの黒い裂け目の向こうの異次元にもダンジョンがあり、そこから溢れた魔力で空間に影響が出て次元の裂け目が現れるとか。


 かなり胡散臭い話だと思ってたけど、実際に目にすることになろうとは。次元の裂け目は発生すると魔力により力場を発生させるらしい、それに掴まるともう逃げられず中に吸い込まれてしまうんだそうだ。


 恐らくこの飛行艇はもうダメだろう、ゆっくりとだが確実にあの闇に吸い込まれている。

 しかし俺だけ、或いはあと一人くらいなら『転移』の魔法で逃げる事が出来る。


 一瞬ディアナの顔が浮かんだ。

 今すぐに彼女を追いかけて事情を説明して『転移』してここを脱出するか或いは一人で脱出してラベルと言う人間はここで死んだことにして新天地で異世界生活をやり直すか?


 正直どっちもないな、ディアナを連れて逃げるのは多分彼女が首を立てには振らないだろう。責任感ある女性のようだったし。


 そして一人で逃げる場合、俺はこれまでずっと用務員として貯めた貯金もボーナスも全て諦める事になる、ぶっちゃけそれだけは絶対に嫌だ。


 つまりはその異次元ダンジョンに我慢して付き合うしかないって事である。

 まあそのダンジョンを攻略すれば元の世界に戻れるとも聞いたので、その話を信じる事にする。


 全部師匠の受け売りだ。戻れなかったら恨みますよ師匠、わりとガチで。

 さてっそれじゃあ気を取り直して行動を開始しますか。


 結構揺れが大きい船内だ、立ってるだけで辛いのである、魔法学園の生徒達の安全はディアナを初めとした学園の教師が守るとして俺は用務員として何をするべきか…。


 飛行艇の船員については彼らも空で仕事をするプロだ、何をするかは知らないが口を出すべきじゃないだろう。


 用務員の管轄なんてせいぜい飛行艇の保管庫に入れた荷物くらいである。

「……よしっならそこに行くか」


 早速『転移』を発動して保管庫に向かった。

 保管庫は飛行艇の中にあるそこそこ広めの空間だ、見上げる高さまで積まれた学生の荷物や木箱が大量にある。


 学生の荷物はともかく木箱の方は飛行艇で過ごす為の食料やら水、あとは細々とした生活物資だ。

 万が一、飛行艇が墜落とかしてこれらが全て駄目になったらお終いだ、だから魔法で保護する為に俺はここに来た。


 保管庫に置かれた荷物に向けて『保護』の魔法を発動する、これで時間経過で食べ物や水が傷む事も火事やら衝撃でここの荷物が駄目になる事もないだろう。


「ふうっ後は一般人として遭難者してればディアナ達、魔法学園の教師がダンジョンを攻略してくれるかな?」


 ダンジョンには前世のイメージ通り魔物やら即死するようなトラップが沢山あるらしい、下手に魔法が使える事がバレてそんな場所の攻略に駆り出されるのは勘弁願いたい。


 むしろ後ろで応援してるだけで今回の面倒くさいイベントを回避する気満々である。


 ディアナ以外の教師も日頃から貴族らしく偉そうにふんぞり返ってる連中が多い、きっと裏打ちされるだけの実力があるからこその傲慢な態度なのだと考えるが……まっ駄目な時はその時に考えよう。


 俺は保管庫を後にした。

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