第十話 不滅の復讐心

 耳を貫くような激しい金属音が響く。

 衝撃波のように風が吹き荒れる。


 なにが、なにが起きたのっ!?


 私とレインさんの前に、扇風機さんの姿がある。

 扇風機さんの構えている巨大な盾、その盾に攻撃しているのは――闇。



 ――“復讐の怨群”ザ・シアエガ・キング Lv■■



 表示されるネームタグ。

 それに付いている二つ名から、私は目の前の敵が、忌まわしきネームドであることに気が付く。


 不定形の闇。

 形は既に変化し続け、禍々しい触手が蠢いている。

 強い負の感情を感じる。


 だが、その感情には覚えがあった。


「もしかしてっ、さっき壊した、結晶から出てきた……のでしょうか?」


 冷や汗が流れる。

 骸骨を生み出し続ける、闇の結晶。

 あれの「骸骨を生む」という能力に酷く苦しまされたのだが、その能力は単なる副作用だったのかもしれない。


 結晶の本当の目的、それは目の前の怪物ザ・シアエガ・キングを封印すること。

 なのだとすると、私はとんでもないものを解放してしまったのかもしれない。


「レベルが見えない!? 二人も同じ?」

「はい、バグっているような感じで……」

「こんなこと今まで一度もありませんでした。……危険な予感がします、交戦は控え、逃げましょう」


 レインさんの友人はすぐそこなのに。

 悔しい思いを胸の奥にしまう。


「でも、逃げるって言ったってどうするの!?」


 そうだ。

 あの時だって、私は逃げることができなかった。

 ネクロスさんに助けてもらわなければ……。


 改めてシアエガを見る。

 形は不定形、今も扇風機さんに向けて、触手の打撃攻撃を連続で放っている。


 その動きは素早くて。

 普通に走って逃げきれるようには思えない。


「大丈夫です。相手が一人なら、私に策があります」


 また自分を犠牲にする策なんじゃと不安になる。

 いや、流石にそういうのではないはず。


「策っていうのは……?」

「これですッ――」


 ――パリィッ!!


 ガラスが割れるような、甲高い音。

 扇風機さんはシアエガの攻撃に対して、ジャストガードを行ったのだ。


 ジャストガード。

 敵の攻撃に対してタイミングよく盾を弾くことで、敵をスタン状態にするテクニックである。

 しかしそれは、この世界においては非常に難易度の高い技だった。


 迫る攻撃の風圧と気が狂いそうな恐怖に耐え、平常心を保ち、攻撃を完璧に見切る。

 その上で、ゲームと違い自らの意志で体を動かさなければいけない。


「シアエガの動きが単調な上に、こう何度も攻撃されては、誰だってできますよ。さぁ、逃げましょう」

「凄い……凄いですっ、扇風機さん!」


 勇気。

 扇風機さんは敵に挑んでも怯まない、勇気を持っている。

 だからこんなにも頼りになるんだ。


 私たちは一斉に走り始める。

 一旦距離をとって、それからのことは後で考えればいい。



「えっ、なんで……いやぁっ!」

「ホイミちゃん!? まさか、スタンが効いてないの…!?」


 体が宙に浮いている。

 腹部にぬめりとした、気持ち悪い感触。

 吐き気を催す感情がなだれ込んでくる。


「あ…あァ……――」


 意識が朦朧とする。


 ダメだ……。


 あ……。




 「――おいホイミ、なぜここにいる?」


 耳に馴染む、温かい声。

 優しく抱えられる感覚と共に、私の意識は深く沈んで行った。





 《ンガイの幽谷》というエリアで、を獲得し持ち帰る。

 それが情報屋ミネから言われた依頼であった。


 その程度の依頼、俺にかかれば楽勝なはずだった。


 しかし、無限に湧き出るスケルトン。

 長く滞在するとかかる、瘴気による状態異常。


 俺は苦戦していた。


 スケルトンの原因がどこかにあるのだと、予想はしていた。

 ところが、広大なこのエリアを全て探すのは時間が掛かり過ぎる。

 とはいえスケルトンを放置したまま、言われたアイテムを探すのも難しく。



 頭を抱えていたとき、突然スケルトンたちが消滅したのだ。

 瘴気が晴れて辺りを見渡せるようになる。


 その時、俺はプレイヤーの気配を感じ走り出した。



 ――そして、今に繋がる。


「おいお前ら、ホイミの仲間か」


 触手の攻撃を短剣でいなしながら、視線を傍にいた二人のプレイヤーに向ける。


 少女と男性。

 混乱している少女の代わりに、壮年の男性が出てくる。


「……はい。行方不明者の捜索という依頼で、このエリアに来ております。ところで、貴方はホイミさんのお知り合いでしょうか?」


 装備は盾と申し訳程度の盾、タンクか。

 珍しいな。


 少女の方は杖にローブ、トップランカー程ではないが中々に強い。

 気になる点としては、決して高くないレベルに対して、やけに

 どこかの有力ギルドにでも参加しているのだろうか?


「まあ、そんなところだ。とりあえず、邪魔だから受け取れ」


 左手で掴んでいたホイミを、壮年の男性に投げる。


「コイツは俺の獲物だ。俺が殺すやる。お前らはどっか行け」

「待って下さい、私たちは行方不明者を……」


 行方不明者?

 ああ、そういえばその捜索で来たと言っていたな。

 この高難易度エリアに来るなんて、相当な命知らずだ。


 どうせ死んでるだろ。

 どうでもいいが。


「いいから行け。そいつは俺が探しとく」


 雑にそう言うと、二人のプレイヤーは去ってくれた。



「さて、レベル不明の相手か――俺を楽しませてくれよ」


 蠢く触手の塊、あるいは名状しがたい不定形の闇。

 戦いの火蓋は切って落とされた。

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新約KingWorld ―デスゲームと化したMMO世界で『最高のギルド』を作る― コトワリ @huyunoneko

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