第八話 絶体絶命の時

 静まり返った不気味な幽谷。

 霧が立ち込めるその場所に、鋭い金属音が響く。



「きりがない……ですねっ」


 骸骨剣士の攻撃を盾で弾きながら、扇風機さんはそう呟く。

 そう、先程から大量の骸骨が地面から現れ、私たちを襲い続けているのだ。


 一体一体が決して簡単に倒せる相手ではないのに、その数は先が見えない。

 倒しても倒しても、地面から湧いて出てくる。


 私たち後衛を庇って何度も攻撃を受けている扇風機さん、その回復で、私のMPはかなり減っていた。

 このままでは持たない。


一旦ンガイの幽谷から出ませんか……! このままじゃ、回復も間に合いませんし、MPも減る一方です……!」


 エリアから出れば、追加で骸骨が湧いてくることは無くなる。


「わかりました、少しずつ移動していては追いつかれます。ついて来てください」


 扇風機さんの言葉に、安心感を覚える私。

 やっぱり頼りになる。


 そもそも、必要以上にリアルなこの世界で、タンクなどという役職をしてくれる人間なのだ。

 頼りにならないはずがない。


 走り出した扇風機さんを私とレインさんは追い掛ける。

 このゲームにおいて、ステータスは移動速度に一切影響しない。

 現実での走る速度が、ゲーム内での速度となるのである。


 運動神経のあまり良くない私は追いつくので精一杯だったが、それでも、大量の骸骨を引き離すことはできた――はずだった。


「えっちょ、いつの間に……!」


 私たちの移動は読まれていたかのように、逃げ道は骸骨兵で塞がれていた。

 これじゃ逃げられない。

 状況は変わっていない。


 ……いや、それどころか、悪化しただけだ。


「これ敵に囲まれてますっ……」

「っ、すみません、私の把握が甘かったようです」

「いや、扇風機さんのせいじゃないよっ! それよりも、現状をどうにか打破しないと!」


 そう話している間にも骸骨兵は増え続けている。


 まずい。

 このままじゃ、死ぬ。

 私だけじゃない。

 レインさんも、扇風機さんもだ。


 現状打破。

 何か、何か方法はないか。


 思考を巡らせろ、私っ!


 骸骨たちは地面から湧く。

 なら地中に原因がある?

 いや、それは不可能なはず。

 骸骨たちの弱点。

 打撃攻撃は先程試したが変化なし。

 炎魔法も同様。

 となると、原因。

 ネームドモンスター?

 それとも、コア?

 森のどこかに、あるの?


 ……ダメだっ。

 どうすれば。

 どうすれば。



「――お二人とも、私が敵を引き付けましょう。大挑発、半径15mのモンスターのターゲットを自分に設定するスキルです。余っているSPがありますので、今取得し、使用します。その間に逃げてください」


 扇風機さんの目は、今まで以上にハッキリとしていて。

 私には覚悟を決めているように見えてしまった。

 その姿は、扇風機さんなりのを貫く姿はカッコよくて、非常に頼りになるけれど。


 でも、私の脳裏には麗華が映った。

 このまま逃げちゃダメだ。


 もう誰も死なせないって、誓ったじゃないか。




 ――なら、そのを貫け。


「私に任せて」

「えっ、ホイミ……ちゃん?」


 取り乱すレインを押しのけて、ホイミは動き始める。

 確固たるを持って。

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