第六話 救援依頼

「ふぁ~、よく寝た……」


 翌日。

 私は宿屋の一室で目を覚ました。

 寝ぼけた目を擦りながら窓を開けると、眩しい光と鳥の鳴き声が飛び込んでくる


「んっ…? あれ、メールが来てる?」


 通知が光っていることに気付き、確認する。

 新着メールが一つ。

 差出人はネクロスさんだった。



[Title:連絡

すまん、急用ができた。

下手したら数日、街に戻らないかもしれない。

俺のことは気にするな。

死ぬなよ。]



「えぇ……」


 あまりに唐突な連絡。

 とは言え、一応連絡してくれただけマシだろう。

 ネクロスさんは本当、自分以外に興味がないので、何も言わずに音信不通になるなんてこともあった。


「今日もネクロスさんに、レベリング手伝ってもらう予定だったんだよね。……どうしよ」


 自室でしばらく悩んだ後、とりあえず街でも歩こうと考えて宿を出た。


 まだ早朝だというのに、プレイヤーたちは慌ただしく動き回っている。

 何をするかも決めておらず、のんびりと観光でもしようと思っていた私は、少し気後れしてしまう。


 実はウィンドウに《募集》という欄があり、そこから募集をしたり、逆に他プレイヤーの募集に参加したりすることができる。

 募集の内容は特定のアイテムを採集しに行くとか、ダンジョンを攻略しに行くとか。

 あるいは、単にレベリングだとか。


「いやでも、知らない人と話せるかな……」


 自分が人見知りだということは私が一番わかっていた。

 迷惑を掛けてしまったら。

 そう思うと、募集に参加する勇気を絞り出すことはできなかった。



 どうしようかと歩いていると。

 道の隅で頭を抱えている、私と同じ高校生くらいの女の人がいた。


「あぁ~、もう、どうしたら……」


 そんな呟きが聞こえた。


 何か困っているのだろうか。

 いや、でも。

 別に私の助けなんていらないかも……。

 というか、私のような臆病者にできることなんて、私以外の人にもできるはず。


 一斉に、ネガティブな思考が広がる。


 その人の前でウロウロとしてしまった後。

 私は意を決して話しかけた。


「あの、どうしたんですか…?」


 女の人が私の声に反応し、パッと顔を上げる。


「――その装備、ヒーラーですよね!? 私の友人を助けるのに協力してもらえませんか!? お願いします!」

「えっえっ……お、落ち着いてください。事情を聞いてもいいですか…?」


 「すぅーはぁー」と声に出して深呼吸。

 女の人は目に見えて落ち着いた。

 切り替えの早さは尊敬ものだ。


「すみません、友人の命が掛かっていたので焦ってしまいました……。あたしはレイン。ゲームが趣味の女子高校生、ビルドは攻撃重視の魔法使いです」


 レインさん。

 深い藍色の髪と目を持ち、澄んだ通る声も相まって、優等生のような雰囲気を感じさせる。

 生徒会長とかやってそうである。


 マジシャンビルドと言っているように、装備はシンプルなローブ。

 それと魔法使いが持っていそうな、木の杖。


 特徴的なのは、腰にくっついている藍色の傘だ。

 何に使うのだろうか?

 アクセサリー装備なのかもしれない。


「わっ、私はホイミです…! えっとそれで、友人を助ける……というのは?」

「はい。実はですね――」



 レインさんの話をまとめると、こうだ。


 レインさんの友人である《ヒメ姫》というプレイヤーが、《ンガイの幽谷》に行くと言って街を飛び出してしまった。

 しかし、二日経っても帰ってこず、メールを送るも返信が来ない。

 不安になったレインさんは友人を助けようと、《ンガイの幽谷》へ探索に行くという募集を開始した。


 ……ものの、《ンガイの幽谷》は未だに未探索の、高難易度エリア。

 そのせいで人も集まらず、途方に暮れていた、という。



「なるほど……。そういうことでしたら、私が力になりますよ…!」


 麗華を失った辛さを思い出したからか、私は迷わずにそう答えていた。

 レインさんの麗しい顔に、小さな涙が浮かぶ。


「私から言い出しておいてあれですが、いいんですか!? 《ンガイの幽谷》は未探索エリア、どんなモンスターがいるかすら、わかっていません。当然、死ぬかもしれないんですよ?」


「わ、分かっているつもりです。だから尚更、そんな場所にいるレインさんの友人を助けたいなって……思ったんです」


 レインさんは表情こそ大きく変えないが、嬉しそうだ。


「ありがとうございます! ですが、私とホイミさんでヒーラーと魔法使い、できれば前衛の人も欲しいんですよね」


 前衛、前衛……。

 そう考えるとが、私の知り合いはネクロスさん一人のみだ。

 そのネクロスさんも、今は急用とやらで忙しい。


 ――いや、一人いた。

 確か前衛で、正義感が強そうな人。

 昨日会ったばかりで、私なんかの言葉を聞いてくれるかはわからないけれど。


「すみません、少し待っててください……当てがあります! あっでも、そんなに期待しないでくださいね…?」

「本当ですか!? 分かりました、いい返事を期待してます」


 期待しないでと言ったのに……。

 そんなことを思いながら、私は扇風機さんへメールを送った。


 内容はレインさんの事情説明と、手伝ってほしいという私からのお願いだ。


 どうか返信が来ますように。

 心の中でそう願う。


「――えっ、もう返って来た…!?」


 メールを送ってからわずか数十秒で、新着メールを知らせる通知が光った。

 返信の早さに驚愕した後、そのメールを開いた。

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