第四話 臆病者
青笹星花は臆病者である。
彼女は常に何かを恐れていた。
自分が失敗すること。
誰かに嫌われること。
――他人が死ぬこと。
端的に言えば、ネガティブな人間だったのだ。
だからだろうか。
学校で軽く話す程度の友達はいても、親友と呼べるような人間は一人もいなかった。
一人を除いては。
西園寺麗華。
明るく誰とでも仲良くなれる、まさに星花と正反対の性格。
そんな麗華だけは星花の親友であった。
いつだって麗華は、星花を先導していた。
困っている時は助けたり、勉強を教えたり、ゲームに誘ったり。
麗華にとって星花は、可愛い妹のような存在だったのかもしれない。
「ねえ星花、このゲーム一緒にやらない!? 世界初のフルダイブ型VRMMOなのよ。広大なフィールドを自由に走り回れて、街では他プレイヤーとの交流も楽しめる……凄く面白そうでしょ!」
別に悪意があったわけではないのだ。
しかし、後にデスゲームと化す「King World Online」をMMOなど全くやらない星花に進めたのは、他でもない麗華だった。
たった一人の親友に嫌われることを恐れたのか、未知のゲームに対する恐怖を押しのけて星花はそのゲームを購入した。
リリース日、彼女たちはゲーム機を装着してVRの世界へと没入、同じ大陸を選んだ。
始まりの街で出会えたことを喜んでいたのも束の間、すぐに道化師により、KWOのデスゲーム化が宣言された。
「まさか、こんなことになるなんて……ごめんね、ホイミ(星花)。大丈夫よ! アナタは私が守るから! これでもMMOは得意なの、信頼してちょうだい?」
実際、麗華はこのゲームが得意であった。
正確な情報を集め、フィールドでレベル上げ。
強敵相手でも怯まず、日常生活においては使用することのなかった戦闘センスを発揮して討伐。
星花は回復に専念するだけで良かった。
「ほらね、言ったでしょ。私は強い! 私がいる限り、アナタが死ぬことはないわ。だから安心して」
――だが、そんな麗華にもどうしようもない状況があった。
リリースから一週間が経ったころ、彼女たちが森を歩いていた時。
《ネームドモンスター》と遭遇した。
最初は逃げようとしたものの、すぐに速度で負けており追いつかれることを悟った。
「ここは私に任せて! アナタは逃げてなさい! ……大丈夫、私は強いから! それはアナタが一番、よく知っているはずよ! 私を信じて!」
かつてない強敵に対しても、麗華は怯えることはなかった。
星花の麗華に対する信頼は厚く、流石に不安こそ残るものの逃げることができた。
その判断は間違いだった。
必死に森の中を駆けている途中。
ふと麗華の無事を確認しようと振り返ったら。
見てしまったのだ。
丁度、麗華がトドメを刺されるところを。
いや、麗華は十分に戦ったのだ。
重い一撃を何度も間一髪で避け、反撃を繰り返すことで、格上にダメージを与えた。
だがそんな彼女でも、雷声を避けることは叶わず――。
ホイミは臆病者である。
あの瞬間、逃げずに麗華の回復さえしていれば、勝てたかもしれない。
だが、ネームドに対する恐怖から逃げ出したのだ。
麗華を信頼していたから、などというのは言い訳にすらならない。
逃げて。
逃げて。
逃げ続けて。
もう終わりだと思った瞬間――
「なにやってんだよ、俺」
一人のプレイヤーに助けられた。
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