第二話

 サンナは極力ミサイルを使わず、コックピットを攻撃せず、脱出させるように敵機を撃墜していった。

「サンナ、無茶だ」

 ジョンが通信で彼女に言う。

「それでも、彼らを殺していい理由にはならない……アリスを救うためなら何をしてもいいの?」

 その言葉にジョンは詰まる。

「……わかった、俺もそうしてみるさ」

 ジョンの機体がレボルシオの戦闘機を狙い、翼だけを破壊して撃ち落とした。

 パイロットはベイルアウトして抜け出せたようだ。

 それを見たサンナはジョンにサムズアップを送る。


 そうしていると、大型の2つの機影が目の前を横切る。

 エンジェルⅡbisの改修機、ファイアーフォックスだ。

 思考誘導装置を搭載し、操縦桿を握らなくても操縦できるという。

 シベリアで概念実証段階だったそれが目の前にあった。

 そのカラーリングは臙脂色とダークグリーン。

 ドゥームズデイとアルベルトのものだった。

「あなた達に構ってる暇はないのに!!」



 不気味に蠢く巨大な肉塊が、アルメキア国王の目の前にある。

 無数のパイプやケーブルで繋がれ、育成のための栄養や電力を送り込まれている。

「これが……翼の魔人……もう、この力による支配をソウゾウするだけでムラムラしちゃうわねぇ」

「すげぇ……」

 お付きの兵士はその圧倒的な存在感に思わず腰を抜かしながら、感嘆する。

「コッカクはケイ化アダマンタイト、ニクタイは超タンパク質、シンゾウが量子体で構成されている人造の神……」

 兵士たちに対し、アルメキア国王は説明した。

「伝承ではイチヤにして世界を滅ぼしたとされているわ……まあおとぎ話ってのはマユツバものだが……魔法の矢のようなガイコウの道具としては十分じゃないかしら」

 そう言って彼は笑みを浮かべる。

「イクセイは9割終わっているわ。後少ししたらコアを埋め込むだけよ」

 そして、兵士二人が拘束したアリスを連れてくる。



 わだつみが炎を上げて徐々に高度を落とす。

 そして、艦の中央が大爆発した。

『わだつみ、轟沈!!』

 中からは乗組員が落下していく。

「いぶきはひらぬまの援護に回れ!!」

『みらいに対艦ミサイル命中、現在消火作業中!』

 ニチリンは小国でありながらオセアニアとレボルシオ両方との戦いを強いられていた。



『アンドロメダとアルテミス、オリオンも集結させました』

「よい、ではこちらはプロメテウスの援護に向かう」

 ドゥームズデイは真っ直ぐプロメテウスの方へと向かうと、見覚えのある軌道を描く機体を見つけた。

「この機動、やはりサンナか……アルベルト、私とツーマンセルで当たれ、奴は手強いぞ!」

「は!」

 ドゥームズデイは目を細め、風に乗るように飛ぶゲイザーイーグルを睨みつける。

「ダイダロス、こちらは優先目標を確認した。プロメテウスの援護は別働隊を回せ」

『は……? しかし……』

「我々の思想に泥を塗った奴が現れたのだ」



 サンナはレボルシオの二機に追われていた。

『世界全ての意志を1つにしうる力がある。アレにはそれが可能だ』

「それが……あなた達の理想!? そんなものに意味はあるの!?」

 そう言い争いながらも、合間に挟まるアルベルトの攻撃を回避し、ドゥームズデイの後ろを取る。

 しかし、臙脂色の機体はすぐにサンナの視界から消える。

『理想無き行動など、ただの癇癪だ』

 銃撃がサンナの機体を狙う。

「自由意志の否定、他者という存在の拒絶。そんな理想、私は認めない!」

 サンナはドゥームズデイの猛攻を掻い潜りながら強く言った。

『ほざけ、今の人類は行き詰まった生命体に過ぎない、これも世界平和の為だ』

 そして、ドゥームズデイは言葉を続ける。

『サンナ、貴様は我々の崇高な理想を侮辱した、万死に値する!』

 二機は複雑な機動を描き、コントレイルは歪な図形となった。

『おー、ヒステリックを起こした女達ってのはこええなぁ……』

 どこか他人事のように、それでも的確にサンナの機体を捉えるアルベルト。

 サンナは空中で急減速をし、その攻撃を避け、機体のバランスが崩れない内に離脱した。

「ジョン、何してるの!?」

 サンナは通信で海賊の名を呼ぶ。

 しかし、彼は別の敵と戦っていた。



『無駄だ、野蛮人どもが……我々の力による統制が世界への一歩なのだよ』

 ザンコック中佐の駆る迎撃戦闘機ゲイザーイーグルがジョンの命を狙う。

「フッ……そんなくだらねえ圧政の為に多くの生命が犠牲になるのか、まったく……面白みに欠けた連中だ」

『自由は力による秩序、世界は力を欲しているのだよ』

「歴史の針を戻す気か!?」

『進めると言ってもらいたい』



 ジョンが別の敵と戦っている様子を見ていたサンナに、わずかな隙が生じた。

 ドゥームズデイはそれを見逃さない。

「散れ!」

 ミサイルが真上から勢いよく飛翔する。

 その直撃を受けたサンナの機体は主翼、エンジンが破壊され、空中で炎の塊と化した。



 それを感じたアリスは目を見開く。

「いや……おねえちゃん……」

 アリスは肉塊の中に埋められ、それでもサンナの助けを待っていた。

 しかし、彼女は……。

 その現実を知り、アリスの精神が崩れる。



「イヤァァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」



 強い感応波が魔人と共鳴した。

 肉の繭のような物体が脈動を早め、無数のケーブルから切り離され、宙へと浮かび上がった。

「おお……。マジンの目覚めよ!!」

 アルメキア国王の声は歓喜に震えていた。

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