第四話

「お頭ァ、何かが見えてきやしたぜ!」

 一人の海賊がジョンに向かって告げた。


 海賊船に飛翔体が飛んでくる。

「ん?」

 それは噂で度々語られる魔法の矢と呼ばれる武器だった。

 通常であれば戦争や対テロリストへの攻撃にしか使わないものでその存在はほとんど公になっていない。

 白い円筒状のボディに小さな翼を持ち、推進装置からは炎を噴射している。

 しかし戦闘機や飛行船に搭載されているミサイルとは異なり、カットラスと同等の大きさだ。


 飛翔体は勢いよく海賊船の底部に命中した。

 激しい爆炎を散らし、船体を大きく破壊する。

 消火作業をしている隙に、雲間から姿を表したヘリから強襲部隊が乗り込んできた。


 オセアニアの兵士たちは次々と海賊船の内部を制圧し、海賊を捕らえていく。

 抵抗した者はすぐに射殺され、船の外へと投げ出された。

 ジョンは部屋の奥で最後まで抵抗するも、兵士がアリスに銃を突きつけたのを見て、大人しく投降した。



 アルメキア国王は椅子にふんぞり返り、その報告を聞いた。

 そして、邪悪な笑みを浮かべる。

「これで世界はアタシのものよぉん」

 そう言うと、風船地球儀を手に取り、宙へと投げた。

 片手で受け止め、それを指先でくるくると回す。

「ヲホホホホホホホホ、ホホホホホホホホホホホホホホホホ」

 狂気じみた笑い声を上げ、再び高いトスを行った。

 そして、戻ってきたところを踵で軽く蹴り上げる。


 静寂の中、風船地球儀をトスする小気味よい音だけが響く。

 彼は執務机の上に寝そべり、そのままトスを続ける。

 手で、頭で、お尻で、胸で。

 キャッチして、世界地図を見ながら微笑む。

 すると突如、風船地球儀は破裂した。

 驚いた国王はくたくたになった風船を見て、執務机に突っ伏した。



 サンナの乗る護送機は空を飛ぶトラックとも言うべき形状だった。

 大型の回転翼による移動であるため、戦闘機や他の輸送機に比べれば非常に遅いが装甲は非常に強固で安定性が高い。

 荷台とコックピットは繋がっており、コックピットには助手席があった。

 現在はサンナが操縦しており、マカツが助手席に座っている。


――おねえちゃん、たすけて……。


 サンナはアリスの声を聞いた。

「アリス!?」


――あのふねのひとたちがやられて、アリスもこわいひとたちにさらわれたの……。


 サンナが懸念していたとおりになった。


――アリス、アリスじゃないなにかにされそうなの……イヤ!!


「アリス、今どこなの、ねえ!」

 アリスの声は途切れてしまった。

 ただならぬ事態に彼女は急ぐ。

 海賊船はやられた。この護送機の燃料も永遠には保たない。



 周囲のオセアニアの艦の数がいつも以上の多い。

 戦争の準備だろうか。

 飛行機が編隊を組んで飛び交い、艦同士で連結して情報を交換しあっている。

 サンナは怪しまれないようその隙間をゆっくりと飛ぶ。

 そこに、通信が入った。

『おい、そこの護送機、止まれ!』

 サンナは助手席に座っていたマカツを後部の荷台へと乗せ、急いで機内にあった隊員服に着替える。

 そして、命令どおりに止まった。

 他の護送機が横へと並び、ドアの窓を開けることを要求してきたため、要求通りにした。

「所属と名前を言え」

 護送を担当しているパイロット達が無言で俯くサンナに問う。

 サンナは深々と帽子をかぶっているため、まだ気づかれていない。

 相手はサンナの顔を確認しようと、身を乗り出してきた。


 その瞬間、サンナは手に持っていたマニュアルを勢いよく彼らの顔面めがけて投げつける。

「な、貴様!」

 怯んだ隙に飛び乗り、相手に膝蹴りを食らわせる。

 助手席に座っていたもう一人が彼女に殴りかかろうとするも、サンナは鳩尾に拳をめり込ませた。

「ジャック成功……と」

 機内にあった縄で彼らを縛り終えると、サンナは燃料計を見る。

「こっちのほうがいっぱい入ってるみたいね」

 荷台には縛られている海賊達がいた。

 他には兵士はいない。

 それを確認すると、サンナは再び元の護送機に戻ってマカツを抱え出す。

 その後、元の護送機のエンジンをフルパワーにし、トルクを上げて揚力を上げて、それから海賊達のいる方の護送機へと飛び乗った。

 離脱していく護送機は遠距離からの狙撃で破壊された。

 それを見たサンナは安堵する。

「結構怪しまれてたのね……」


 海賊達の拘束を解くと、青い顔で騒ぎだした。

「サンナ、大変だ!」

「何なの!?」

 海賊はコックピットで気絶している兵士たちを指差して言った。

「コイツら、アリスを翼の魔人に埋め込むとかなんとか言ってた!」

「通信を聞いた。アレを復活させて世界を武力で掌握するとか……」

 サンナは武力で制圧されたニチリンの事を思い出した。

 はやる気持ちを抑える。ひとまずこの護送機ではただの的にしかならない。

 ニチリンには戦闘機の一機や二機はあるだろうと睨んでサンナはニチリン船団へ向かった。



 レボルシオ司令部では兵士達がニチリンに照準を合わせていた。

「魔法の矢……か……このレボルシオにもその技術はあるんだぜ」

「こいつには何隻も食われたからな……三日前の報復攻撃だ!」



 サンナがニチリン船団を視認し、戻ろうとしていた時、魔法の矢が船団目掛けて真っすぐ飛んでいくのを視認した。

 それは、船団の一角に命中すると、激しい爆炎を撒き散らした。

 人が火達磨になりながら落下していく。

 隣接した船の人々は、その命中した区画をパージした。

 分離された区画はガス袋に引火し、爆発しながら落下していく。

 船からこぼれ落ちる乗組員は……サンナの知る顔だった。


「いやあああああああっ!」

 サンナは知っている人が死んでいく姿を見て、思わず目を背けた。

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