第三話
サンナは監獄船に強行着陸する。
内部から警備兵が出てきた。
「ものども、出会えーーっ!」
サンナは屈んでコックピットの中に身を隠す。
そして、スイッチを押してキャノピーを開けて、サンナは小声でエルドリッジに命じた。
エルドリッジが大きく跳躍し、警備兵の前に立つ。
「なんだなんだ?」
「問題ない、射殺しろ!」
エルドリッジは拳を構え、走り出した。
セラミックのボディが銃撃を弾き、飛び蹴りをお見舞した。
その様子を見ていた警備兵が怖気づいて逃げ出す。
「ば、ばけものだーーーっ!」
「サンナ、大丈夫ですよ」
サンナはコックピットから降り、監獄船の扉へ向かった。
しかし、扉は内側から閉じられているようだ。
「……エルドリッジ、これを開けて……」
エルドリッジは少し後ろに下がり、体重を思い切り乗せて体当たりをかました。
しかし、扉はびくともしていない。
「強化アダマンタイト装甲。恐らくナパーム弾でも傷一つつかないでしょうね……ワタシが自爆すればなんとかなりそうですが……」
サンナはその提案に対して首を振り、別の提案をした。
「壁を破壊するのはどう?」
「承知しかねます。同等の素材でできている可能性が高く、破壊した先にマカツさんが居る可能性もありますよ。内部構造を把握していない以上、不用意な破壊は得策ではないかと」
その理由に納得するが、他の手段が思い浮かばない。
すると、エルドリッジは艦の下を指を差した。
「外壁を伝ってダクトから内部に潜入しましょう」
ダクトから通気孔を蹴破り侵入。
先にエルドリッジが通路へと降りる。
「チェックシックス、問題なし」
続いてサンナも降りた。
「ふう……妙に狭くて大変だったわ……」
通路を走っていく。
角の影から数名の警備兵が走ってきた。
「武器……持ってきてない……!」
サンナは今になって気づいた自分を呪うが、代わりにカメラを手に取った。
そして、警備兵がライフルを構えた時にカメラのシャッターを押した。
一瞬、フラッシュが辺りを包む。
「今だっ」
カメラを投げ捨て、ライフルを奪い取った。
他の警備兵がサンナを撃とうとするも、その前に蹴り上げを食らわせる。
別の通路からやってきた警備兵が後ろからサンナの後頭部を狙ったが、次の瞬間、エルドリッジの飛び蹴りや正拳突きでノックアウトされた。
「ナイス!」
サンナはエルドリッジにサムズアップを送る。
エルドリッジはそのジェスチャーの意味を理解できず、首を傾げた。
警備兵達は監視ルームでその様子を見ていた。
『侵入者はBブロックを通過中』
「……電流トラップを発動しろ」
エルドリッジが前を走っていると、突然眩い閃光とともに倒れた。
「トラップか!」
サンナは足を止めたが、後ろからは大勢の警備兵が追ってきている。
サンナは戻れない事を知ると、前方の脅威を突破する方法を考えた。
「……何か発生装置があるはず……」
並外れた視力で壁に赤い点を発見する。
制御ポイントを撃ち抜いて破壊すると、エルドリッジは再び動き出した。
「よかった……行くよ!」
サンナはすぐに走り出す。
しかし、彼女は転倒した。
電流が流れたわけでもない。
エルドリッジがサンナの足を掴んだのだ。
「そんな……どうして……?」
敵味方の情報が混乱している。
高圧電流によって思考回路の一部が焼ききれてしまったのだ。
サンナは足を振りほどこうとするも、強い力がそれを許さない。
「離して! 私は、じいやを助けないといけないの……!」
敵兵の足音が近づいてくる。
「じいや……」
サンナの涙が落ちる。
エルドリッジの思考プログラムに何かが走った。
そして、彼女は再び喋りだす。
ノイズが入り、要所要所が途切れている。
それでも彼女は言葉を紡ぎ続けた。
「どうし……テ君達ガ……泣クノか……わカっタ気……がすル……」
無論、エルドリッジは泣くことなどない。
「プログ……ムされテ……ナい行どウ……色々教……えテもラっ……よ、あ……がトう。さヨう……ラ」
エルドリッジは足を離して、自身の動力を意図的に暴走させ、自爆した。
それによって艦体は断裂し、通路が分断された。
その破壊力に外壁は崩れ落ち、夜空が露わになる。
爆発四散した彼女の手がサンナの足元に落ちた。
それはサムズアップしていた。
「エルドリッジ……」
サンナは涙を堪えながら艦内を走っていく。
サンナはマカツが投獄されているであろう、政治犯収容区画へと入った。
警備兵はいないようだとホッとしたのも束の間、天井からピーッという音がなった。
警備用の自動機関銃がサンナの頭部を狙っていた。
咄嗟に後ろに跳んで回避するも、初弾が仮面の前方を掠めた。
仮面が真っ二つに割れ、サンナの綺麗な顔が露わになる。
マシンガンの餌食にならない物陰に隠れると、割れた仮面の片割れを拾う。
「……ここを突破しなければ先へは進めない……」
サンナは勢いよく仮面の残骸を機関銃目掛けて投げつける。
その衝撃で機関銃が回転し、その間にサンナは滑り込んで急接近、機関銃の隙間に銃弾をお見舞いした。
そうやって防衛装置を機能停止させマカツを探しに行く。
無数にある牢獄の中から、痩せこけた手が伸びてくる。
恐らく不当な理由で投獄された人達だろう。
サンナは彼らを助けられない悔しい気持ちを胸に秘めてマカツを探す。
「じいや……どこ……」
「姫様……」
聞き覚えのある声がした。
そこには細く痩せたマカツの姿がある。
巡回していた看守が走ってきた。
「なんだ貴様は! どうやって入ってきた!」
看守は慣れていない動作で銃を構えるも、サンナは彼の懐に潜り込み、腕を掴み上げた。
「いだだだだだっ」
「その様子だと素人ね。機械にばかり頼ってるからこうなるのよ……101番の鍵は?」
サンナはいつになく冷酷な声でそう言った。
その気迫に押され、看守は震えながら鍵を渡す。
サンナはその鍵を受け取ると、看守を殴り飛ばして気絶させた。
マカツを連れ出し、来た道を戻る。
サンナはマカツに肩を貸しながら、左手に片手でライフルを構える。
「……姫様、すまんなぁ」
「大丈夫……」
そう言いながら後ろからやってきた警備兵に威嚇射撃をお見舞いして足を早める。
エルドリッジが爆発して分断された場所へとたどり着いた。
爆発によって外が露わになり、すぐに脱出できそうだ。
そして、下には護送機が見える。
「いかん、行き止まりじゃ……」
しかし、マカツがそう言うように、そこまでは数メートルの高さがあった。
「ここなら……飛べそう!」
サンナは周囲の瓦礫の配置を見る。
元々は柱や外壁であったであろうそれは、伝って降りていけばこの高さでも問題なく、下部の
停泊所へとたどり着けるだろう。そうサンナは確信した。
「姫様、無茶な!」
彼女はマカツにサムズアップをしてから、軽々と瓦礫を足場に降りていく。
中には彼女が立った時点で崩れるものもあり、サンナは時折バランスを崩しかける。
それでも下まで降りると、マカツに向かって両手を広げた。
「じいや、跳んで!」
「姫様……ええい……!」
マカツは諦めかけるも、後ろから警備兵が迫ってきた事で覚悟を決めた。
下で待つサンナの元へと跳ぶ。
彼女の大きく柔らかい胸が緩衝材となった。
「ひ、ヒヤヒヤしましたぞ……」
「こっち!」
サンナはすぐに彼を連れて出口へと向かっていく。
二人は停泊していた護送機を奪い、監獄艦を脱出した。
夜が明けつつあり、雲の向こうに艦隊の集結が見えてくる。
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