第二話
アルメキア国王はエンタープライズの司令室で電話していた。
「何、ニチリン船団にカメンを被ったフシンシャ?」
『はい、なんでも、マカツという男を探しているみたいで……。みらい、わだつみ、いぶきの武装も破壊され、修理が必要です』
相手はニチリンに常駐しているオセアニア大使だった。
「ふむ、それで、襲撃者のトクチョウは?」
『若い女性で……あと、戦闘機に乗ってきていました、ゴアキャットの改修機らしきものでした……』
国王はそれを聞くと大使にある事を説明した。
「マカツという男を探しているというコトは恐らく旧ニチリン関係者。ハンギャクシャはあの艦に閉じ込めたし、女性であればあのいい目をしたオンナしかいないわ。読みどおり、罠にかかったわね……」
彼の言ういい目をしたオンナとは、サンナの事である。
「それにゴアキャットねぇ……。小さな翼の生えた娘はいなかったかしら?」
彼は続けて質問をした。
その質問の意図を理解しかねながらも大使は答える。
『翼の生えた娘……? いなかったですね、ゴアキャットの前席は髪の長い大人の女性でした……』
「なるほど、いいことを聞いたわ」
電話を切ると、彼は次の悪巧みを思い浮かべた。
「意外と早く翼人のソウサクも終わりそうじゃない」
彼は周りの兵士に命じる。
「ただちにニチリン周辺にカンタイを配置、翼人のソウサクにあたりなさい。それと、エンタープライズを中心に密集陣形、魔人再生の最終段階に移行するわ!」
ゴアキャットは夕暮れの空を飛ぶ。
黒く見える雲が浮かび、真下に広がる海は夕日に照らされていた。
徐々に夜に染まる中、彼女らはあるものを見た。
「……あれは……」
巨大な積乱雲が進路上にあった。
それは徐々に近づいてくる。
「危険です、あの中を通るのは自殺行為よ! 迂回しましょう!」
エルドリッジは猛反対した。
サンナは少し悩んで答えを出す。
「……直進するしかない。燃料が持つかもわからないし、じいやを助けるためだもの、一刻も早く彼を牢屋から出してあげたい」
「わからない、どうして他人の為にそこまで……。誰に命令されたわけでもないのでしょう?」
エルドリッジの言葉に対して彼女は答えた。
「心、かな……こういうのは、命令とかじゃないのよ」
「ココロ……」
エルドリッジは胸に手を当てる。
積乱雲の中へと突入する。
あちこちに火花が散り、稲妻が奔る。
風が吹き荒れ、機体の制御が効かなくなる。
「エルドリッジ、気流データ収集お願い!」
エルドリッジは即座に周囲のデータを収集しサンナの計器へと転送した。
サンナはそれに応じて機体を風に合わせる。
――風に乗れば、どんな道だって、行ける!!
自然の中で生き、調和しながら歩んでいく。
彼女は、たとえ向かい風の中だろうとそうしてきた。
嵐の中に光が見える。
それはオセアニアのフリゲート艦だった。
「こんなところにまで、どうして!?」
サンナは思わず驚く。
エルドリッジは推測を述べた。
「……もしかするとワレワレの正体に感づき、周囲に艦隊を派遣したのかもしれない……」
その言葉に、サンナは嫌な予感がよぎる。
「……アリスが!」
そこへ砲撃が飛んでくる。
主翼を掠め、大きく機体が揺れる。
その衝撃でサンナはのけぞり、キャノピーの左右に激突する。
周囲のインジケーターが破壊され、中から蛍光管が見える。
「大丈夫、平気。平気だから……」
「今はマカツさんを優先しましょう、ここまで来た以上引き返せないでしょう。帰り道はないですよ」
エルドリッジはどこまでも機械的に述べる。
今のサンナにはそれがかえって安心できた。
「……ええ!」
ゴアキャットは嵐の中を物ともせずに加速する。
嵐を抜け、雲の谷間の上に出た。
すっかり日が落ちて夜の景色。
「これで強風とはおさらばね……」
サンナが安心していると、横から巨大な艦艇が飛び出してきた。
それはサーチライトを照らしながらこちらを追う。
「さっきのフリゲート艦!」
ミサイル警報が鳴る。
「エルドリッジ、フレアをお願い!」
「了解!」
フリゲートの発射管から勢いよく炎を噴き出して対空ミサイルが発射される。
ゴアキャットは激しい光を周囲に撒き散らした。
ミサイルはその光目掛けて直進し、爆発した。
「主砲、来ます!」
エルドリッジが敵の攻撃を視認すると、すぐに機体を動かし、蛇行した。
周囲の雲に命中し、雲柱が立つ。
「しつこい……っ!」
サンナは左へと離脱した。
旋回砲塔がその方向を向く。
次の瞬間、雲の中から勢いよく飛び出して、その砲塔の先端を狙った。
機銃を受けた砲身は折れて射撃不能になっていく。
それから、装甲の厚い面を狙ってミサイルを放った。
サンナなりの威嚇射撃だ。
対空ミサイルがフリゲートの装甲面に直撃し、大きな爆発を引き起こす。
気持ちが届いたのか、フリゲートが去っていく。
「……よかった……」
サンナがほっと一息つくと、エルドリッジが苦言を呈した。
「あのまま落としてしまったほうがよかったのに、どうしてもっと攻撃しないんですか?」
「……あの人達を殺したくないから……。必要もないのに人を殺めるなんて、おかしいわ」
サンナの言葉にエルドリッジは更に聞く。
「アナタ方は動物を殺して食べているのに、その言い分は不自然じゃないのですか?」
「……それだって、必要な分だけよ。明日を生きるために食べる、そのために生命をいただくの、本来無くても良い戦争とは違うわ」
エルドリッジは悩んだ。
「アナタの回答は理解しかねる。自らを害する者であれば、それは生きるための殺生では?」
「……それでも、本当は皆戦いたくないと思うんだ、だから私は皆を信じたいの……」
サンナは優しく言い始めた。
「お互いに考えがあって、それがすれ違うから争うしかなくなる、それって悲しいことでしょ?」
「悲しい?」
エルドリッジは首を傾げる。
「人間はね、悲しいと涙を流すんだ」
雲の隙間を切り抜けると、綺麗な星空の中に無数のサーチライトが見えた。
そこには禍々しい鋼鉄の城のような船が目の前に飛んでいた。
「……あれが監獄船アルカトラズ」
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