第三話
レボルシオの飛ばしていた無人偵察機が黒煙を上げながら墜落する。
その表面には、弾痕が残されていた。
「ったく……魔人発掘現場でセツゾクしようとするからああなったのよ」
エンタープライズの作戦司令室で、アルメキア国王は嘆く。
「コアがなければ発掘してもイミないじゃない」
彼は大袈裟な身振りでその落胆を表す。
「しかし、連中はコアをカクホしてどうするつもりなのかしらねぇ」
その疑問には側近の兵士が答えた。
「なに、問題ないさ。ボディを奪われるよりは遥かにマシだ」
「……それは言えてるわね。アレ、運ぶのすっごくタイヘンだったんだ・か・ら」
そう言ってモニターに目をやると、そこには全翼機が整然と並び、巨大な骸骨を吊り下げて運んでいた。
朝焼けの日の中に数機のヘリが飛ぶ。
飛行ヘリ母艦から発艦されたオセアニアの攻撃ヘリ、通称フェンリルⅢ。
黒いボディに残酷なまでに攻撃に特化した性能は神喰らいの悪魔と称される程だ。
ワルキューレの騎行が大音量で流れる。
テンガロンハットを被り、サングラスをかけた隊長、ザンコック中佐が命じる。
「クリスタルホース隊、あの森を100エーカー程焼き払え」
白い歯を見せて笑いながら島を見下ろす。
「焼き払った後に我々が地上掃射と翼人の確保。呪い濃度のため、我々に課せられた作戦時間は15分だ。それ以内に全てを更地にしろ」
「サー、イェッサー!」
森に火が放たれた。
雨で下がっていた気温は一気に上昇する。
クリスタルホースという可変翼を持つ中型攻撃機がナパーム弾を次々に落とす。
銀翼が通った後は瞬く間に火の海となった。
ザンコック中佐はヘリに乗りながらその様子を愉しんでいた。
「やはり朝のナパームの香りで飲む紅茶は格別だ」
紅茶を一口飲むと、部下から通信が入る。
『中佐、殺すなとの命令ですが!』
その慌てた様子に彼は紅茶を揺らしながら答える。
「アレはあの程度では死なんよ。そろそろクリスタルホース隊の攻撃は終わる、我々の出番だ」
サンナはアリスの張った不思議な力場に守られていた。
急いで洞窟を出ると、上空に物凄い音が聞こえてきた。
攻撃ヘリだ。
黒いヘリたちは、死角となりそうな洞窟を、片っ端からミサイルで破壊していく。
さっきまで隠れていた洞窟は一撃で木端微塵となった。
サンナはアリスの手を引いて、火に包まれる森を走る。
「えっぐ……ひっぐ……」
アリスは怯えて、泣き始めてしまった。
サンナは彼女を抱きかかえ、頭を撫でながら駆け抜ける。
森を抜けた先の砂浜には強襲揚陸艇が数隻、VTOL、ヘリも数機が着陸していた。
サンナは岩陰に隠れた。
「……アリス、静かにしててね」
「……?」
彼女はキョトンとしながらこくりと頷いた。
鎧に身を包んだ兵士達は浜辺を捜索する。
鎧と言っても、全身を覆う白い防護服状の特殊装備だ。
高濃度の呪いがある場ではこういった装備がなければ作戦活動が困難だという。
「あっちは探したぞ」
「どこかに潜んでいるはずだ」
サンナは後ろにあるVTOL機を狙っている。
「……あの兵士の気を逸らさないと」
後ろに丁度いい石ころを見つける。
サンナは一歩後ろに下がった。
その時、足元からパキリと音がした。木の枝を踏んでしまったようだ。
「誰だっ!」
サンナは冷や汗を流す。
兵士は視界内に8名。いくらサンナでも、煙と熱気にやられ、少女を担いだ状態でこの数の相手をするのは難しい。
サンナは静かに石を掴んだ。
兵士たちは徐々に近づいてきている。
サンナはタイミングを見計らって、向こう側にある大木目掛けて、石を投げつけた。
「なんだ!?」
兵士達がその音に気を取られている隙に、サンナは大地を蹴ってVTOL機へと一直線。
それに気付いた兵士たちはサンナに銃口を向けた。
激しい銃撃が飛び交う中を駆け抜ける。
VTOL機のコックピットにいる兵士を投げ落とし、サンナは操縦席に飛び込んだ。
「基本は同じか……」
エンジンを全開にすると、機体は垂直に飛び上がる。
「あっ、おい、待て馬鹿野郎!」
兵士たちが急いで駆け寄って、飛びついてきた。
「なんだその格好は……」
サンナとアリスの衝撃的な姿に言葉を失っている間に、機体を傾けて振り落とした。
破裂音。音がした方を向けば、対空砲火がVTOL機を狙っていた。
サンナは咄嗟に大きく旋回しながら高度を上げていく。
「しつこい……!」
機首を対空砲車両に向け、手前に照準を合わせる。
機銃を威嚇射撃すると、退いていった。
それを確認すると、操縦桿を引いて急上昇する。
サンナ達はようやく戦場を離脱できた。
エンタープライズの作戦司令室。
「無人島捜索はどうなってるのよ」
メガネを掛けて座るアルメキア国王が言った。
「第八攻撃隊が森を焼け野原にし、A班がこの地点を捜索中です」
淡々とした状況報告が続く。
それを聞いたアルメキア国王は、重要なポイントを突いた。
「それで、肝心の結果の方はどうなったのかしらぁ?」
その質問に息が詰まる。
兵士は目配せした。
「……陛下」
そう言って、深呼吸すると続けた。
「残念ながら……目標は偵察機を奪い去って逃走しました」
その報告は部屋の空気を静寂へと包んだ。
アルメキア国王は震える手でメガネを外しながら静かに言う。
「……イマから呼ぶ四名だけ残りなさい。エーゼル、クレリス、ナルシャ、ホルゼマーク……」
呼ばれた四名以外は部屋を出ていく。
「何シッパイしてるのよぉぉっ!!」
アルメキア国王は大声で叫びながら鉛筆を勢いよく叩きつけた。
「一体どこのダレが奴らを逃がせとメイレイしたのかしら!!」
「いえ我々は……」
早口で反論する兵士をアルメキア国王は言葉で遮った。
「アンタ達はアタシを裏切ったのよ! 誰も彼もが裏切ったのよ」
畳み掛けるように何度も罵倒する。
「アンタ達はヒレツでグズでマヌケなゴミ以下の存在よ!」
外で待っている兵士たちにも聞こえる。
女性兵士の中には泣いている者もいた。
「大丈夫よ……きっと……」
あまりにも酷すぎる言葉に兵士が早口で反駁した。
「陛下、それは言葉が過ぎます。いくら陛下でもその言葉は」
それを遮り罵る。
「いいや、アンタ達はカスなのよ!」
「陛下、それはあんまりだ」
再び兵士が言い返そうとするも、反論を許さない彼はひたすら罵倒する。
「アンタ達はこの船団のチリに等しいわ」
彼は怒りのあまり、徐々に地声になっていく。
「あんなぷるんぷるんなおっぱいなんかに惑わされやがって……」
彼は立ち上がって思い切り叫んだ。
「チクショウがぁっ!!」
ひとしきり怒鳴り終えると、国王はは気を落ち着かせるように水を飲んでから、言った。
「……プランBを実行するわ……残されたシュダンはこれしかない」
「ニチリン大使艦のホットラインを繋ぎなさい」
兵士は急いで電話を取り、アルメキア国王に渡した。
跡形もなく焼き尽くされた森。
サンナはもうあの島に自然が戻ることはないと悲しみに暮れ、去っていく。
どうやってニチリンに帰ればいいかは見当もつかない。
無論、戻った所でオセアニアに支配されているという話もあるわけで、安全である保証はない。
それでも今はひたすら島から逃げるしかなかった。
サンナ達は雲海の中を進む。
周囲に時折波が生じ、それによって視界が遮られる。
すると、雲の下に何かが見えた。
巨大な黒い影。
――否、それは飛行船だった。
旗が雲海の中から飛び出す。
交差した骨に骸骨のマーク。
それは海賊のものだった。
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