第540話・変質にかかる時間
「ぼくが……変わる?」
プレーテ大神官なんか全然影響なさそうだったのに?
「プレーテはただの人間だから闇の要素も当然ある。あなたは光のみ。混ざり物がない純粋な光」
「だから、闇の要素を植え付ける……?」
「そう。今まで光のみで生きてきたあなたが闇の要素を取り入れてどうなるか……あなたと融合するか、反発するか、分離するか、それは私にも分からない」
融合……。反発……。分離……。
「つまり、全く別の属性になるか、力が真っ二つに裂けるか、あるいはぼく自身が半分の力と正反対の力を持った二人になるか、それ以外もあるんだろうけど、とにかくいい結果が出るかどうかは分からない」
「それ以前に何がいい結果なのかもわからないわけだね?」
「そう。あれが気付いてあなたを染め直そうとするかもだし、あなたから精霊の力が失われてしまうかもしれない。キャパオーバーであなたが四散するかもしれない」
それは……確かに……ぼくに負荷が大きい。何が起きるかもわからない。
でも。
「今まで言った中で、一番フォンセに負荷がかからないんだな?」
「ええ、私の一割を欠くだけだもの。大した負担にはならないわ」
「グランディールも、安全なんだな?」
「グランディールはあなたの「まちづくり」にかかっている。だから、私がそのスキルを保護して施術すれば、あなたの精神がどうなっても、あなたの肉体にスキルは残る。そして、あなたの本能も新しい町を作る為にある。本能……「グランディールを守りたい」という意思。それが残れば、グランディールはもつわ。少なくとも大陸が吹っ飛ぶまではね」
「……つまり、一方的にぼくに負担がかかるんだ」
「そうね」
難しい顔をしたフォンセ。
「だから、言いたくなかった」
「? 何で」
「あなたが間違いなくこの方法を選ぶと思ったから」
え? そんな確信持ち?
確かに今まで言われた中では一番マシな方法だ、と思ったけど。
「あなたは欲張りでワガママだから」
……まだそれを言いますか?
「あなたは自分の願いを最優先してしまうのよ。だってそうでしょ? 今回のこと、諦めて、影の領域を増やさなければそれで終わるのに、それを諦めてない」
「……う」
「闇を増やしたらどうなるか分からない。でも、少しでも大陸の為になるから……って思っちゃったら、もう視点がそこに固執してしまう」
「……うう」
そう。ぼくには諦めるという選択肢があった。
闇の領域を増やさなければ、ぼくは何の問題もなく暮らしていける。
だけど。
大陸とグランディールを守るために、と思うと、闇の領域を増やすことをやめることはできない。
そして、フォンセの力を可能な限り減らしたくない。
何より、あんにゃろに一杯食わせたい!
人の人生勝手に弄くり回してくれるヤツに、「しまったこんなことしなければ」と後悔させたい!
だから、ぼくは……。
「……そんなところを気に入っちゃった私も悪いんだけどねー」
ほそっとフォンセが呟いた。
「?」
「ああ、何でもない。で、どうする? 全部諦める……は選択肢にないでしょうから、今まで言った手段の中で何を選ぶか。……決まってるんでしょうけど」
「うん」
ぼくがどうなっても構わない。
あんにゃろがひっくり返るなら!
「はー……」
フォンセは肩を竦めた。
「そう言うところは本体のあれに瓜二つなんだから……元が同じものなんだから仕方ないんだけど……圧倒的に力の差があるのに噛みつきにかかる度胸は買うけどねー」
「で、どうすればいい?」
「完全に姿を消す休暇を貰いなさい。人の世の時間で、一週間、かしら」
「一週間?」
随分長いような気がしますが。
「肉体と精神にそれまでなかった属性を植え付けると、馴染むのにそれなりの時間がかかるのよ。
「そんなにかかるの?」
「一年かけて、ゆっくりと、ゆっくりと、じわじわ侵食していくのが一番安全で安心なの。そうすれば確率は遥かに上がるわ。でも、その間はあなたはとても不安定な状態になる。精霊の力もスキルも使えない。あなたはそんな長い間、不安定な状態を続けられないでしょう?」
はい。その通りです。
「あなたの精神と肉体は無意識のうちに光を取り込んでエネルギーにしている。だから、私の領域で、外界から光を絶って、私の一割を送り込む。闇しかエネルギーのない世界で、闇を取り込めるようになるか。一週間という短い時間で私の一割と同化出来るか。そこが勝負」
「勝負か……」
一週間。
確かに、今のぼくがグランディールから離れられるのは一週間が限度。
その間、全く正反対、欠片もない属性を、エネルギーを他から取り入れられない状況で取り込めるようになるかどうか。
かなり厳しいと思える。
だけど、確かにこの方法が一番だと思える。
「一週間休みもらってくる」
ぼくは肩を竦めた。
「あと、一部関係者には理由を話しておきたいんだけど」
「お勧めしないわ。絶対止められるじゃない」
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