第539話・色々な手段
「私はあれと違って面倒事を人間に押し付けて逃げる存在じゃないわよ? 一応対策は考えてきてるわ」
おおお! フォンセ様! 闇の精霊神様!
「まあ……そのどれもが、あなたに負担がかかることなんだけど」
「それは覚悟してる」
闇の精霊神が揮う力は当然、闇。ぼくとは正反対の力だ。
使うのはグランディールにかぼくにか。どちらにしても、ぼくに負荷がかかるだろう。
だけど、ぼくは拒絶する気はない。
ぼくの存在がグランディールに負荷をかけるくらいなら、ぼくが負荷を背負ったほうがいい。それでグランディールが落ち着いて、ぼくもグランディールにいられるなら。
「方法の一つは」
フォンセがぴ、と指を一本出した。
「あなたが一時的に半分くらい人間をやめること」
「却下」
「最後まで聞きなさいな」
それもそうだと思ったので、フォンセの説明を待つ。
「精霊は、人間以上に周囲の影響を受けやすい。そして今のあなたの精霊部分とでも言うべき精神体は、肉体にぴったり重なって、肉体と精神が光にがっちり組み込まれているようなもの。だから、あなたの精神と肉体を一時的に半分くらい切り離して、あなたの精神に、闇を植え付け、馴染んだところで肉体と再び噛み合わせること」
「……なるほど」
方法としては、ぼくが薄闇の精霊や影の精霊を光から闇へ翻意させたのと同じ。
「ぼくへの負担はどんなもの?」
「かっちり噛み合っている肉体と精神を切り離すのは、かなりの苦痛よ。肉体にも精神にも。そして、闇にある程度染まった精神を、光の属性の肉体と再び噛み合わせた時に、肉体がどう拒絶反応を起こすかは私にも分からない」
「つまり、下手すると肉体と精神が噛み合わなくなって、精霊のぼくと肉体のぼくがくっつかなくなる可能性もあるってこと?」
「そう。急いで切り替えようとするならこの方法が確実だけど、あなたへの負担は半端じゃないし、あれに対抗する闇の属性は私しかいないから、当然私が施術するけど、光の影響を追い出して闇を植え付けるってのは私にもかなりの負担がかかるわ」
「今ここでフォンセの力を減らしてどうすんだ」
しかも人外になる可能性が高いって。
うん、これは第二候補以下に回そう。そうしよう。
「他の方法は?」
フォンセがいくつか候補を挙げてくれたけど、どれもこれもぼくとグランディールとフォンセの負担が大きそうだった。
「う~ん……贅沢言ってられないってのは分かってるけど……」
ぼく一人負担が大きいのはいいけど、あんにゃろと対峙しなければいけないフォンセやグランディールに負担が大きいのはダメ。絶対。
「私としても不本意なのよ」
こっちもうんざり顔のフォンセ。
「あなたの無事とグランディールの無事と私の無事。この三つがあなたの最低条件でしょう? ところがその最低条件を満たす方法が難しいのよ」
あなたが精霊を翻意させないなら問題はないんだけど、と溜息混じりにフォンセ。
確かにそれが一番いい方法。
「でも、そう言われても、やめる気はないんでしょう?」
はい、その通りです。
一番簡単で手っ取り早く、ぼくにしかできない、闇を増やせる方法なんです。
「私としても闇の領域を増やせるからありがたい方法なんだけど……このままだったらあなたが普通の人間として暮らせなくなる可能性が高いのよ。それでも……やっちゃうんでしょうね、あなたなら」
ぼくのことを心配してくれているのが嬉しい。
ぼくの本体はぼくの心配なんてしたためしがないどころか、ぼくを利用することしか考えてないもんなあ……。心配されたいわけじゃないけどさ、ぼくを自分の道具として見るのはやめてほしい。
「やめる気がないなら、そして今までの方法がダメなら、これしかないのよねえ」
え? 何か方法があるんですか?
「ないことはないわ。……私にはそれなりの負荷がかかるけど、グランディールにはあんまり関係ない。ただし、あなたがどうなるかはさっぱり分からない。そしてあなたがどうにかなってしまえばグランディールも当然危ないわ」
「どうなるか、さっぱり分からないって」
「方法は、言ってしまえば簡単」
フォンセは溜息混じりに言った。
「私の一割を削る」
「いや、フォンセの力を削ったら」
「あれも一割削ってるでしょ」
あ、そうか?
いや、ちょっと待って。
「もしかして、その一割って」
「私の一割をあなたに同化させて、あなたの属性を変える」
何でもないことのようにフォンセは続けた。
「あなたが光の属性でなくなれば、闇の領域に入っても大丈夫」
いや、理屈で言えばそうなんだけどさ……。
「つまり、影の精霊みたいに属性を変える……ってこと?」
「そう。でもあなた単体には闇の要素はないから、私の要素を植え付けて、それによってあなたの属性を変える」
「……ぼくへの負担が馬鹿でかいね」
「そうね。あなたは生まれながらの光属性。しかもあれから分離した存在。そのあなたがあれの対である闇を植え付けられて、どんな変化を遂げるか分からない」
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