第538話・光、闇、相反した結果

 フォンセ、何故か楽しそう。


「一人になるのが嫌だからみんな助ける。それがあなたの欲。一人になりたくないというワガママ。でも、そうね。欲がなければ自分の死も受け入れてしまうし、ワガママじゃなかったら人を助けようなんて思わないわ」


 ……フォンセさん。言ってることがよく分かりません。


 精霊の考えですら分からないのだから、精霊神の考え、理解できるわけがない。肉体を捨てれば分かるかもだけど、そんなことで大事な肉体を捨てたくない。


 ぼくは人間のままでいたいのです。


「まあ、確かに……」


 ふぅむ、とフォンセが腕を組む。


「これまでこの大陸には、明暗がちょうど交わった町はなかったものね。ほとんどの町は光。オヴォツはほとんど闇だから、バランスの取れた場所はない。グランディールだってほぼ光。その崩れたバランスでやってきたこの大陸で、バランスが取れたらどうなるか。……グランディールでやってみるのは危険すぎやしない?」


が手ェ出してくるってこと?」


もそうだけど、あなたもよ。光の分霊が闇を増やして、どういう影響を受けるかが分からないわ」


「それも既に言ったけど、ぼくが我慢できる程度で出来るなら」


「我慢できない程度かもしれないから言っているの」


 ん?


 精霊神の言葉だからこそ気になる言葉。


「フォンセさん、それってどう言う意味……」


「どう言う意味もこう言う意味も、そう言う意味よ」


「分かりません先生」


「下手をすると、建物の中にも入れなくなるかもしれないのよ?」


 え?


「どゆ意味?」


「どゆ意味って言われてもねえ。あなたの属性は光。それは忘れてないでしょ?」


「もちろん。嫌だけど」


「そのあなたが正反対の属性を増やし続けると言うのは、あなたの力が揮える空間が少なくなるってことなの。つまり、あなたの力が及ばない町になるってことね」


「それって」


「スキルは元来私の力なのをが弄ったから、光でも闇でも関係なく作用するわ。安心なさい」


 ちょっと、ほ。


 スキル「まちづくり」が有効なら何とかなるか、と思った。


 でも。


 フォンセの爆弾発言はこれからだった。


「でもねえ、今、自分の姿を見てごらんなさいな」


「え? ぼくの?」


 闇の中、薄い光に覆われているぼく。


 エキャルやテイヒゥルは?


 ぼくと同じように光に覆われているけど、それは弱いし、尾っぽの先や羽根の一筋が闇に溶けている。


 なのに、ぼくは。


「同化、してないでしょ? 一部たりとも」


「うん……それが?」


「それはつまり、あなたが闇と溶け合わない、相反する者ってことを意味しているの」


 何だか、随分昔にそれを言った気がする。


 光と闇は溶けあわない。それは確か、ぼくがに言ったセリフだっけか?


「そう。気付いた?」


「……多分」


「答え合わせをするわ。言ってごらんなさい?」


「つまり、ぼくは、この闇の領域では、招かざる客」


「正解」


 パチパチパチ、と手を叩かれても嬉しくない。


「続けると、今回はフォンセが招いてくれたから入れたけど、小さい精霊たちが構成する闇の領域にぼくが入ると力のバランスが崩れ、せっかく構成した領域が崩れてしまうから彼らはぼくが入るのを嫌がってしまうし、ぼく自身も正反対の領域に長時間いることによって精霊の部分が疲弊して弱体化してしまう。それはつまり、ぼくが暗いところに行けなくなって光の下だけで生きるしかなくなって、最終的にがぼくを自分の側に引き戻すチャンス」


「はい大正解、百点満点の所を百五十点あげていいわね」


「嬉しくない」


「あら、褒めてあげたのに」


「正解でも嬉しくないし、に対抗する方法として始めたのに、ぼくがグランディールに居辛くなって最終的にに引き戻される未来なんてお断りだし」


「闇の域を増やす方法としては良かったんだけどねえ」


 クスクスと笑うフォンセ。


「それを教えるためにわざわざ来たの? プレーテ大神官ほっといて?」


「あら。プレーテは優秀よ。私の手助けがなくても、少しずつ闇への理解を進めていってるわ」


 大神官は流石なようです。いや、そうじゃなくて。


「つまり、ぼくの方が危なっかしかった?」


「ええ。気になってここまで来てしまうほどには」


「う~あ~……」


 思わず唸ってしまうぼく。


 ぼくがグランディールの光と闇のバランスを取ろうとすればするほど、ぼくのいられる場所は減っていく。


 極論を言うと、ぼくは夜は煌々と光を灯した中にいなければならず、昼でも影の中には入れないってことになる。


 光の下にいなければならない人間。


 どういう人間だよ。


 そして周囲から受けるエネルギーが光だけなら、ぼく自身の肉体も光に傾いて行って、気が付くとがやってきている、というオチが見える。


 フォンセもその可能性が危険すぎるんで、わざわざ幻を飛ばしてきたんだろう。


「いい方法だと思ったんだけどな~……」


 この領域を構成する影の精霊たちが嫌がってフォンセの元に行こうとしているのが感じられる。


「いい方法よ。必要なのは対応策」


 おお。フォンセさん。まさか対応策なるものを用意してくれたのでは……?

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