第520話・小さな陰謀

 プレーテ大神官の助言に、どうやら巨鳥丸ごとプレゼントの提案は取り下げになったらしい。フューラー町長はスピティの保証書を書いて、フォーゲルに送り、グランディールとスピティにその写しを置くことに。


「フューラー町長、助かりました。これでグランディールを動かさず大型の荷物を運べます」


「本当に、クレー町長は欲がありませんなあ」


「え?」


 ぼくも人並みに欲はあるつもりだけど……。


「巨鳥をお譲りすると言っても断わられ、半額でも遠慮なさって……最終的には保証書とは。他の町ならばもう一羽欲しい、などと言い出してもおかしくありませんぞ」


「おや。ぼくはそこまで強欲に思われていましたか」


「失礼、いや、ですが、貴方の御嫌いなミアストはこれを言えば五羽ほどいるから融通してくれ、などと言い出しかねない男でしたからな」


「ミアストはぼくの反面教師の一人ですから」


「一人? まだおられると?」


「教師も反面教師も多ければ多い程、学びの役には立ちますよ」


 ちなみにミアスト以外にはっきりわかる反面教師は一人じゃなくて一柱、言わずとも知れた様です。


「ぼく自身は最低限のものがあればいいんです」


 お茶を飲みながらぼくは言う。


「ただ、Sランクの町としての体裁を整えるためには、お金が必要です。信頼と金銭は町の二つ柱。どちらか片方の柱が崩れれば一柱ではもちません」


「さすがは夢の町の町長ですな。町のことをよくわかってらっしゃる」


「夢の町?」


「グランディールの最近の二つ名ですよ。御存知ではない?」


「知りませんね」


 夢の町て。どういう町だ。


「空飛ぶ町、信仰溢れる町、そしてどんなスキルの人間でも生きていける、夢の町。グランディールは憧れられているのですよ。……善き人からも、悪しき者からも」


「盗賊とかですね」


 盗賊は町民に結構いるんですけどね。


 盗賊でもでも、町を保つように努力してくれる人ならいくらでも受け入れはするんだけど。


「盗賊だけではないのですよ」


 フューラー町長、また渋い顔。


「盗賊、?」


「最近できた小さい町……それが何とかしてグランディールを手に入れたいと思っているようなのですよ」


 ……実は、知ってる。


 だけど、知らない振りしてフューラー町長のお話を聞く。


「小さい町、とは?」


「最近、新しい町が増えているのですよ。グランディールやスラートキーという成功例を見て」


「続々立ち上がっていると」


 はい、と頷くフューラー町長。


「町が増えるのは悪いことではないのですよ。物流も増えますし。人の行き来も増える。ただ、モデルとなる町があまりにも大きすぎて」


 確かに。


 スラートキーは十五年かけてSランクに辿り着いた。それでも破格の年月だ。普通、町長が二代・三代かけて、じわじわランクを上げていくものを、一代でSランクに叩き上げた。土地は痩せていて甘味を売り物にするしかなかったとカノム町長は言っていたけれど、それを最大限に利用した副町長イェルペさんの辣腕が効いているんだろう。傍から見たらよだれが出るほどうらやましい結果。


 そして、グランディールは恵まれすぎている。裏でが手を回したせいもあるけれど、人が増えても大丈夫で実り豊かで特産もあって。町として完成してたった一年でSランクになった、という破格の町。そりゃあみんな真似したがる。


 でも、スラートキーはカノム町長のスキルとイェルペ副町長の辣腕でのし上がり、グランディールはぼくのスキルと町の運営方針がかみ合って完成した。


 そんな「一代でSランク」が短い間に二つもあると、「自分たちでもできるんじゃないか」と思ってしまう人がいる。


 やれるんじゃないかと思ってしまう。


 そうして小さな町がたくさんできている。


 でも、「やれるならグランディールを、最悪でもスラートキーを!」という考え方はかなり乱暴でして。


 グランディールもスラートキーもスキルの後押しがあった。そのスキルを支える人がいた。信じてくれて、手を貸してくれる人がいた。だからSランクになった。


 でも、「自分たちでもできるんじゃないか」組で、その三つが揃っている町は、皆無と言っていい。


 町長あるいは近い位置に町を作るのに有益なスキルを持つ者はいる。持っているから町を作ろうと考える。


 だけど。


 スキルを持っていても、補佐してくれる人がいないと成り立たないのがまちづくりという者で。


 例えばスラートキーはカノム町長の「甘味創造」があった。そして、それを町の要にしたイェルペ副町長の手腕があった。


 グランディールならば「まちづくり」というスキルがあって、アパルやサージュという頭脳ブレイン、シエルという天才、アナイナやヴァリエは極端だけど、信じてくれる人たちがいる。このどれかが足りなければグランディールは存在していない。


 ノリで「まちづくろうぜ」で出来るわけじゃないんですよ。グランディールはわりとノリでスタートしたけど、その後は一生懸命地道な努力を繰り返してきましたとも。


「ランクも認められない小さな町が、スラートキーやグランディールになりたいと思う。でもなれない。ならば町を奪って自分たちのものにしてしまえば……という危険思想の持ち主があちこちにいるそうです」

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