第519話・フューラー町長の申し出

「では、それで手打ちということに」


「本当に、申し訳ない」


 フューラー町長がもう一度頭を下げて、それでこれはおしまい、ということになった。


「今回はグランディールごとではなかったのですな」


「いくさを疑われても文句は言えませんし」


 と、アレを紹介する。


「彼のスキルで長距離を移動してきたのです」


「なるほど、遠距離移動スキルは町に一人は欲しいスキルですな。馬車ごと移動して来た訳ですか。ああ、そうか、町長が徒歩で来るわけにはいかないから」


「ええ。とは言え移動用の獣はまだグランディールにはおりませんし」


「移動用の獣は何頭かいても不便ではありませんよ」


 そうだ、とフューラー町長は手を打った。


巨鳥ロックを差し上げよう」


「巨鳥?!」


 巨鳥とは、もちろん「鳥の町」フォーゲルで育てられ、売買されている鳥の一種だ。


 とにかく、デカい。


 そして、滑るように飛ぶから、荷が揺れることもない。


 荷運び、大勢の人の運搬、それに持って来いの鳥だけど、とにかく、デカい。


 家具を輸出したりするスピティには数羽いてもおかしくはないだろうけど。


 でも……。


「フォーゲルには?」


「スピティからグランディールへ、ということで注文を。その護衛虎と同じことをスピティがフォーゲルを通じて行う、ということではどうでしょう」


 う~ん。


 確かに巨鳥は魅力的だ。


 確かに、大物の荷物や人はグランディールがそのまま飛んでいけるので、苦労はない。予算もかからないし手っ取り早い。


 ただ、町として発展させるためには、グランディールでの移動は……と言うか、何処かの町の近くに長期間停泊させておくのは控えたほうがいい、というのがグランディール上層部の統一意思だ。


 それにはぼくも納得している。


 なんせ、空を飛び人と荷と財産を積んでるんだよ?


 普通に盗賊とかだったら狙うでしょ。


 しかも、空飛ぶ町なんて攻撃にも逃走にも使える。本拠地としては持って来い。


 別の町の近くに停泊するのは当然町に用があるので、上昇門をおろしていることも多い。そして、グランディールは門番が町の規模に対して少ない。ひっじょーに、少ない。


 ソルダート、キーパがほぼ二人交代でやっている。もちろん門番をしたい人たちには訓練をしてもらっているけれど、町が降りた時の上昇門の門番は、町に入り込まれる危険性があるんで、二人、あるいは訓練で優秀な成績を修めた……スキル持ちにも負けない実力の持ち主で守ってもらってるんだけど、やっぱり町に対して門番は少なすぎる。


 だからヒロント長老やティーアと言った盗賊上がりの人たちが「危ない、危険だ」と進言していて、アイゲンのような商人も「町そのものが動きすぎるのは」と不安がっている。


 今、グランディールが停泊しているのは、大森林の北、町のない人の来ない場所。それもこれが理由です。そこから馬車に乗ってスピティまで来たのも、スピティを刺激しないように、そしてグランディールの現在地を見つけられないように、ということであります。


 でも、家具や陶器を売るのにそんな不便な場所に来てもらうのもあれだしなあ……と悩んでいたところにこの申し出。


 本当に、ありがたい。


 大量の壊れ物を壊さずに運べる巨鳥は、すごく利用価値がある。


 でも、あれって……。


「Bランクの町の一年分の予算……くらいはするのでは? 巨鳥は」


「お気遣いなく」


 いや気遣いますよ。グランディールの民は納得しても、スピティの民が納得しない。グランディールは、スピティと喧嘩するつもりは、元より、これっぽっちも、ないのである!


 め、揉めるなって言っておきながら一番揉め事を引き起こしてる!


 しばらく考えている振りをして腹の奥から湧いてきたへの怒りを必至で沈める。


「……では、これではどうでしょう」


 ようやく怒りを飲み込んで、息を一つ吐いて、ぼくは顔を上げた。


「グランディールで巨鳥を買う。スピティにはその保証町になってもらう、というのは」


「いや、グランディールにお金を出させるわけには」


「グランディールもそろそろ巨鳥が必要だと思っていたのです」


 だから巨鳥の値段を知っていた。スピティに来てなかったら、今頃はフォーゲルで巨鳥の値引き交渉をしていたはずだ。


 なんせ、お高い。


 伝令鳥も裸足で逃げ出すほどに。


 巨鳥を一羽も買っていないSランク以下の町が新規に購入する場合は、基本的に「この町なら払える」と保証する、予算潤沢な町が必要なんである。ない場合は現金一括払いです。目ん玉飛び出る価格だからね、保証がなければ一括しかないのです。


 で、保証町を頼む度胸のないグランディールは必死でお金を集めていたんだけど、スピティという保証町があれば分割で払える。


「保証町でいいならばいくらでもなりますが……せめて半額は出しても」


「いえ、それはダメです。スピティの町民が不満を覚えるようなことはしたくない」


「町長、クレー町長がここまで言ってくださっているのですから、この辺で手を打って良いのでは? 町としては詫び状で納得したのですから。これ以上町の予算を吐き出せば、町民も……」


「ふむむむむ……」

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