第518話・詫び状
二人が立ち上がって少しして、ティーアとアレとテイヒゥルが来た。そして今まで恐らくフューラー町長の部屋で待たされていたエキャルも。
テイヒゥルとエキャルが飛んでくる。
テイヒゥルはお腹の辺りにごっちんして、エキャルは顔面にぶつかってきた。
「ぐえ」
「無事ですか町長」
ティーアが鋭い目でぼくを探るように見た。
「無事だよ。勘違いだと分かってくれたみたいでね」
顔面に貼りついていたエキャルを外して頭の上に乗せて、心配そうな顔のテイヒゥルを撫でまくりながらぼくは答える。
「勘違いで町長を呼び寄せるとは……!」
フューラー町長がまた床に膝をつけようとしたので慌てて止める。
「じゃあ、丸く収まった……んですね」
「良かった」
ティーアがまだ疑念を持っている表情で呟き、アレが心底安堵した息を吐く。
「エキャル」
ぼくは頭に乗っけしたエキャルをもう一度掴んでぼくの顔の前まで持ってくる。
「グランディールに「何もなかった」って手紙を送ってくれるかい?」
突然上位神殿の呼び出しがかかって町長と大神官が消えたグランディールに、早く無事を伝えてあげないと。
フューラー町長が便箋とインクを貸してくれて、ぼくはエキャルの羽根ペンで無事に解放されることになったと手紙を書く。
エキャルは胸を張って封筒を差し出す。
封筒に無事と書いてエキャルを飛ばす。
エキャルは一瞬心配そうな目を向けて、でも大丈夫、と頷いてから、翼を広げてグランディールへ飛んで行った。
「水路天井を作って頂き、大湯処の完成にまで招いていただいたのに、この町の神殿が……」
「いえ、もうお気になさらず」
両手を小さく上げて、気にしてないのポーズ。
会議堂の客室に案内され、全員にお茶が……
フューラー町長が本当に申し訳ないと思ってるんだな、これは。
町長を恨んではいないんだけどねえ。
恨んでいるのはあんにゃろだけなんですよ。フューラー町長もプレーテ大神官も、極論すればあの神官たちも悪くない。あんにゃろの悪巧みが原因ですから。
もっとも、それを利用してフォンセはスピティにプレーテ大神官というとっかかりを作ってったけどね。
馬鹿だねあいつも。
大事な大事な大神官、あっさり奪われちゃったよ。
信仰相手を切り替えたプレーテ大神官は、きっちり神官たちに疑念を植え付けている。この短い時間でよくもそこまで。さすがの
テイヒゥルの検査済みのお茶(護衛獣の毒見はよく知られているので、フューラー町長は何とも思っていない)を飲みながら、フューラー町長の謝罪を聞く。
「全く
「本当に気にしなくていいんですよ? 偽とは言え炎の精霊の姿を見せられて、それが黄金に近い色だったら精霊神様に認められたと思ってもおかしくはないのですから」
「クレー町長は本当にお優しい」
青ざめた顔で無理やり微笑むフューラー町長。だけど。
「しかし、町政に関わるべからずの「おきて」に背いたのは確かなのですから」
すぐに渋い顔に切り替え、片手で顔を覆う。
「クレー町長のお許しを得たのですから、報告書と反省文で何とかなりませぬか」
プレーテ大神官が切り出す。
「我ら上位神殿の犯した罪は重い。ですが、ここで関わった者すべてを切り捨てると、神殿はやっていけなくなる。スピティとしてそれはまずいのでは」
「うむむ」
考え込むフューラー町長。
「グランディールのことを考えずとも」
ラガッツォもカップを両手で抱え込むようにして言う。
「我らの疑惑は解かれたのですから、正式な詫び状があれば……グランディールの住民が安心できれば問題はありません」
「しかしそれでは」
西の民が、と言いかけるフューラー町長を片手で留めるラガッツォ。
「私自身も西の民、グランディールで西の民が神殿と聖職者を得たと勘違いして皆が暴走した時のことを覚えております。あの件も今回も、神の意を得たと勘違いした者たちが引き起こした問題。そこを思い出させれば、西の民も納得するでしょう」
「では、スピティの町と神殿からそれぞれ詫び状を……町と、神殿と、民に」
神殿と町は別物。だから両方からそれぞれ謝らなければならない相手に別々に書状を出す、ということ。
特に民へは大きい。
普通は町の上層部と神殿に謝って、町と神殿から民に通知が送られ、自分の町の町長と大神官は何もしていなかった、誤解だ、と説明されるだけ。
わざわざ民宛に、というのは、町のあちこちに立てられる立て札にその書状の写しを貼り、読み上げ人もついて、スピティがグランディールの民に謝っているという意思を伝えたい、という宣言みたいなもの。グランディールから一時的にとは言え町長と大神官を取り上げて申し訳ない、という意図を伝えるもの。
西の民にもこの威力は高いだろう。
町が民に頭を下げているのだ。
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